俺は八雲紫に呼ばれ、博麗神社へと続く階段を登っていた。
ん?俺か?
俺は妖刀ムラマサーーかの有名な妖刀村正の付喪神だ。
つまりは妖怪って事になる。
俺ーーいや、俺達の役目は博麗の巫女を影ながら幻想郷を守る事だ。
例えば、博麗の巫女が異変解決などでいない時に人間の里などで能力を持つ外の世界の人間を沈黙化させたりとかだな。
今回もそんな感じで馬鹿な奴が何か起こしたのだろうか?
「来たわね?」
そんな事を考えながら神社の境内に着くと紫の道士服を着た八雲紫が待っていた。
その足元には首のない人間の死体が転がっている。
見た限り、刃物で切ったと言うより噛み千切ったって感じだな。
「来たぞ、八雲紫。今度の仕事はそいつについてか?」
「ええ。そうよ、ムラマサ。ただ、今回はいつもと違うわ」
「いつもと違う?」
「霊夢の勘では、この人間は外のーーいえ、別の世界の人間と言う事よ。
そして、この人間の死体は忘れられて、この世界に流れ着いた」
「流れ着いたんじゃなくて、お前が持って来たんだろう?
空にお前の境界を操る程度の能力で出来たスキマが見えるぞ?」
「まあ、面白い素材だと思って」
そう告げると八雲紫は俺に死体に触れる様に指差す。
俺は溜め息を吐き、指示通りに死体に触れる。
脈は当然ない。だが、なんだ、こいつは?
死んでいるのに体内の何かが蠢いてやがる。
「……なんだ、こいつは?」
「オラクル細胞よ。偏食因子とも言うらしいわね」
「オラクル細胞?偏食因子?」
「貴方の能力なら解るでしょ?
血を浴びれば、浴びる程強くなる程度の能力を持つ貴方なら?」
俺はその言葉に頷くと喰い千切られた首の傷口に触れ、血を採取する。
その瞬間、意識が遠退くのを感じた。
これはまさか、存在の変異か?
俺は自我を保とうと意識を集中する。
それから数秒か、あるいは数分ーー俺は何とか意識を保ち、変異した自分の身体を見る。
「……成る程な。これが偏食因子って奴か」
俺はそう言うと軽く手を握って具合を確かめる。
「さて、此処からが本題よ。
貴方にはこの死体のあった世界に行って欲しいの」
「理由は?」
「勿論、月に備えての為よ」
俺の問いに八雲紫はさも当然の様にそう答えた。
八雲紫の計画した月への進行は二度、阻まれている。
三度目は流石にないだろうと思っていたが、八雲紫はまだ諦めてないらしい。
「そう言う事なら断る。俺の役目は幻想郷を影から守る事だ。
月への侵略したいなら、他を当たりな」
「月の緑化って言うのがあるのだけれど、それも興味無い?」
踵を返して帰ろうとする俺に八雲紫はそう問う。
俺は立ち止まり、八雲紫に振り返った。
「月が緑色に見えるのか?」
「いいえ、月に木や花があるのよ」
そう言うと八雲紫はゆっくりとした足取りで俺の背後に回る。
「もし、この事実が本当なら私達の手でも同じ事が可能でしょう?ーーそれこそ、月を第二の故郷にも出来るかも知れない」
「その調査を俺にしろと?」
「ええ。そうよ。これは貴方の能力だからこそ、出来る事ですもの」
八雲紫はそう言うと俺に命(めい)を下す。
「幻想郷の賢者として命令するわ。
ムラマサ、貴方はこの死体のーーゴッドイーターと呼ばれる人間の戦う別世界に行き、月の緑化を調べなさい」
俺はその言葉にもう一度、溜め息を吐くと静かに頷く。
「相分かった。この妖刀ムラマサーー幻想郷の光に生き、闇に奉仕する者として命令をこなそう」
そう言うと八雲紫も頷いて答え、スキマを作る。
その間、俺は幻想郷を支える者の理を呟く。
「例え、世の人が科学を盲信しようと忘れるな。心せよ。そこに真実はない。
例え、世の人が常識や道徳に縛られようとも忘れるな。心せよ。許されぬ事はない。
我らは闇に生き、光に奉仕する者。
我らは幻想郷の守護者なり」
俺はそう呟き終わると八雲紫の作ったスキマから幻想郷を出て、ゴッドイーターとやらの住まう世界へと向かった。