意識を取り戻した時には神機の倉庫とは違う暗く冷たい場所にいた。
刀に戻って動けないし、さて、どうしたもんか?
刀の状態でカタカタと動き、反響で何か得られないか試したが、手応えは鈍く、何かしら低反発な感触が伝わって来るばかりである。
ーーと上から光が差し、レイセンの顔が間近に迫る。
「意識を取り戻しましたか、ムラマサさん?」
俺はその言葉にカタカタと震える。
今の俺はアタッシュケースの様な物に入れられていた。
そんな俺にレイセンが囁く。
「待ってて下さい。今、外に出して上げますから」
そう言ってレイセンが俺を手にする。
今の俺はかなり損傷が酷く、今にも折れそうになっている。
豊姫の奴、まさか、俺にこの状態で戦えってんじゃないだろうな?
強度もオラクル細胞もボロボロだぞ?
人間に変化出来ない位に衰弱しているらしい。
「豊姫様から聞いてます。依姫様を救う為に貴方が尽力を尽くし、こんなにボロボロになったと」
いや、俺をこんな姿にしたのは豊姫のせいなんだがな。
まあ、喋れない俺にはそれを伝える方法はないが……。
「そこで貴方を元にーーいえ、それ以上に強くする方法を我々は思い付きました」
その言葉に俺は嫌な予感を感じた。
周囲に気を配れば、何かの製造工場らしい場所の様だ。
「それじゃあ、エンジニアの皆さん、宜しくお願いします」
そう言ってレイセンはエンジニアなる月兎に俺を渡すと機械で俺を再刃する。
ーー再刃。
ボロボロになった刀を再度、溶かして刀に戻す方法だ。
再刃された刀は以前と別の刀となって生まれ変わる。
付喪神の俺にとっては苦行だ。
おまけに何やら素材まで追加して加工するもんだから、付喪神の存在を否定されて拷問されてる様なもんだ。
俺は意識を保ち、なんとか存在を消失せぬ様に踏ん張る。
再刃の終わった俺は人間の姿になるとレイセンを睨む。
「調子はどうですか、ムラマサさん?」
「良い訳ねえだろ」
俺はぶっきらぼうにそう言うと自身の手足がまた変わっている事に気付く。
今度は純白の装甲になっていた。
「鏡はあるか?」
「はい。此処に」
レイセンはそう言うと手鏡を俺に向ける。
髪や着物まで白くなり、美形になっているな。最早、完全に別人だ。
「格好良いですよ、ムラマサさん」
「見てくれが良くても中身が伴わないなら、意味はあるまい」
俺はそう告げると分身体である刀を召喚し、軽く振るう。
成る程。これが月の技術か……。
確かに月独特の力を感じる。
そんな風に観察しているとレイセンが惚けた顔で刀の刃先に触れようとして来た。
俺が刀を消すとレイセンは我に返り、手を引っ込める。
「何故、刃先を触ろうとしてんだ、お前は?」
「す、すみません。見ていたら、あんまりにも綺麗だったので」
どうやら、再刃した俺は相手を魅了する能力を得たらしい。
そんな事をやっていると豊姫が自動で開く扉を開けてやって来る。
「覚醒した様ですね、ムラマサさん。いえ、月読村正」
「つくよみのむらまさ?」
俺は新たな名を呟くと豊姫が微笑む。
「そうです。貴方は月の使者ーーもう地上人の道具ではないのです」
「何を言っている。俺はーー」
そこまで言い掛け、俺の頭の中でノイズが走る。
なんだ、今のは?
何か重要な事を言おうとした筈だがーー
「貴方は……なんですか?」
「……俺は……守護者だ」
「ええ。そうです。貴方は月の守護者、月読村正。
それ以上でも、それ以下でもありません」
「……月の……守護者」
次の瞬間、俺は戦いの記憶を呼び覚ます。
そうだ。俺は確かに月の守護者だ。
ーーだが、何故だ?
それを否定する自分がいる。
そんな俺を見て、豊姫がいつもの様に笑う。
「再刃して記憶が混濁しているのでしょう。
地上の穢れも取り込んでしまいましたからね?」
そう言うと豊姫は月兎ーー玉兎達に俺の寝床を案内させる。
ーーー
ーー
ー
「こんな方法、間違ってる」
隣の部屋で一部始終を見ていた私はポツリと漏らして席を立とうとする。
だけど、それを姉さんの僕である神機兵に阻まれた。
「私は豊姫の妹、依姫よ。貴方達が気安く触って良いと思って?」
威圧して見るも神機兵はうんともすんとも言わない。
ただ、プログラムに忠実で私を部屋から出る事はおろか、椅子から立ち上がる事もさせようとしない。
そうこうしていると姉さんが戻って来る。
「姉さん」
「なにかしら、依姫?」
姉さんは相変わらず、笑みを崩さずに私に顔を向けた。
だが、その瞳は笑っていない。
姉さんは月の生き残りの為に自らを犠牲にした。
それこそ、感情も妹も……。
いつしか、姉さんの心は壊れてしまった。
そんな姉さんを見て、私は何も言えない。
「……なんでもないわ」
「そう」
姉さんはそう言うと私を優しく抱き締める。
「もう少し辛抱してね?……きっと、また昔の様に笑い合えるから」
「……姉さん」
「その為にもムラマサのーーいえ、月読村正には働いて貰わないと」
優しかったのは一瞬でそこから先はまた感情を殺した指導者の物となる。
ーー姉さん。
姉さんは一体、何を隠しているの?
何故、妹の私にも相談してくれないの?
「貴女には村正の相方として振る舞って貰うわ。良いわね?」
「……」
「頼むわよ。全ては月の民の為に」
「……解ったわ」
そんな姉さんに私は何も言えず、ただ頷くしかなかった。