俺は設けられた部屋のベッドに座り、ゆっくりと手を握ったり開いたりして具合を確かめる。
身体に違和感があるのは仕方ない。
ーーだが、精神はどうだ?
確かに俺は依姫と共に生きた記憶がある。
しかし、何故かそれを違うと言う俺の本能が告げている。
「……くっ!」
俺はノイズの酷くなる頭を押さえた。
人間みたく頭痛がする。吐き気もだ。
「……刀の付喪神である筈のこの俺が気分が悪いだと?……笑えない冗談だ」
俺は自嘲気味に呟くと横になる。
そして、瞼を閉じて眠りに落ちる。
これもまたおかしな話だ。
本当に俺の身体はどうなってしまったんだ?
『……さん……ム……サの……ん』
俺はノイズとフラッシュバックに紛れて夢に映る女が誰かを探ろうとする。
だが、そこから先は何かに阻まれて越えられない。
それどころか、どんどんと俺からその女を引き離そうとする。
……待て。俺はあっちに行かなければ、ならないんだ。
そう。腐れ縁で後輩になった楽器の付喪神であるあいつの傍に。
俺はそいつに手を伸ばす。
その手を別の誰かが掴む。
そこで目を覚ますと依姫の顔があった。
「……依姫か」
「随分とうなされていた様だけど、大丈夫なの、村正?」
「……解らん。だが、今は落ち着いている」
そう言うと依姫が俺の手を握っている事に気付く。
こうしていると落ち着き、現状を拒む俺が小さくなる。
そんな俺の頬を依姫がタオルで撫でた。
「……すまないな」
「え?」
「再刃して気分が悪くなるなぞ、付喪神失格だ。月の守護者として情けない」
俺がそう告げると依姫が微笑む。
「仕方ないわ。今回、貴方を再刃した時、人型アラガミのコアを用いたの」
「ああ。この感情はそのせいでもあるのか……」
俺は納得するとグーと腹が鳴る。
付喪神らしからぬ身体だ。
「腹が減ったな」
「欲しい物はある?」
その言葉に俺はしばし、考えてから、こう呟く。
「アラガミ」とーー。
数十分後、俺と依姫は車を降り、大型アラガミーーハンニバルと対峙する。
「やれる、村正?」
「灰域種じゃないんだ。問題ないだろう」
俺は依姫にそう告げると分身体である刀を手にする。
その瞬間、違和感と共にまたフラッシュバックと謎の記憶が過る。
『…………せ……闇に…………』
「くっ!黙れ!」
俺は不快感を感じて叫ぶと再び現実へと戻る。
「村正!前!」
依姫のその言葉に反応する前に俺の身体は突進して来たハンニバルと諸に衝突した。
「村正!?」
「大丈夫だ!」
俺は踏ん張って吹き飛ぶの堪えるとハンニバルの腕甲のついた左腕に召喚した二本の刀を叩き込む。
「付喪神を舐めるなよ!」
俺は吠えると送り足で反転しながらハンニバルの背後に回り込み、ハンニバルの逆鱗を斬り裂く。
次の瞬間、ハンニバルが炎を吐いて活性化する。
どうやら、人型アラガミとなったせいで思考まで鈍ったらしい。
こいつは逆鱗を破壊すると常時活性化するんだったな。
だが、逆に好都合だ。
「俺の中のわだかまりを全部吐き出させて貰うぞ!」
俺は嬉々として笑うとハンニバルが振るう灼熱のブレードを宙を舞う事で回避し、その死角である後頭部から捕食形態でガリガリと削る。
その瞬間、俺の飢えが少し満たされ、身体がマグマの如く熱くなる。
ゴッドイーターで言う所のバースト化だ。
「覚えたぜ?」
俺は獰猛な笑みを浮かべると怒れるハンニバルに突っ込む。
『…………を……二……』
その瞬間、また頭の中で誰かが呟く。
「悪いな!今は聞いててやれねえよ!」
俺はその誰かに叫ぶとハンニバルの腕甲をつばめ返しの要領で斬り上げて破壊する。
そのハンニバルが腕甲を押さえて転倒すると俺は刀を軽く振るってオラクル細胞を振り払うと、そのハンニバルの頭部に向かって刀を振り上げた。
ハンニバルを斬って覚えた。
どうやら、俺の能力はアラガミを喰えば、喰う程強くなる程度の能力だ。
まあ、アラガミになったんだから、当然と言えば、当然だろう。
そこで俺は動きを止めた。
「……斬って……覚える?」
どこか懐かしいその言葉を俺がそう呟いた瞬間、再びフラッシュバックが襲う。
今度ははっきりとした声で聞こえた。
『魂魄家の剣は斬って覚える事だ』
「……斬って……覚える……それが魂魄家の……魂魄妖忌から教わった剣術の一つ」
「村正!」
俺がぶつぶつと呟いているといつの間にか復帰したハンニバルに依姫がガトリングを叩き込んでいる姿が映る。
俺は我に返ると依姫と共にハンニバルを討伐する為に地を駆ける。
俺は刀にオラクル細胞と気を送ると飛ぶ斬擊を放つ。
それを受けたハンニバルは頭部を縦に真っ二つに切断され、ドサリと倒れ込む。
ハンニバルが倒れ込むと俺は奴に近付き、捕食形態で二つの核を同時に摘出し、バリバリと噛み砕く。
そうして、俺の腹が満たされ、また力が解放される。