空腹が満たされると俺はゆっくりと塵になって消えるハンニバルに背を向け、刀を軽く振るう。
そして、緊張の解け、徐々に痛みを増す頭を押さえて膝をつく。
「村正!?」
俺は駆け寄って来る依姫に顔を上げる。
ーーその瞬間、再びノイズと共に赤い髪の女のビジョンが見え、依姫とダブって見えた。
「……依姫」
「なに?」
「俺は本当に月で産まれた付喪神なのか?」
俺の問いに依姫は答えない。
その代わりに手を差し出して来た。
俺はその手に触れると依姫の思いが伝わって来る。そして、依姫の記憶も。
これは俗に言うエンゲージリンクと呼ばれる感応現象の一つだ。
その中には俺がどうして記憶がこんなにも曖昧なのかの答えが秘められていた。
「……そうか。俺は再刃した時にお前の愛刀を素材として取り込んだのか。
それで月の記憶を持っていると言う訳なんだな?」
「ええ。そうよ。月読村正ーーいえ、妖刀ムラマサ」
「月読村正で良い。最早、俺は元の幻想郷へは戻れないからな」
俺がそう告げると妖刀ムラマサとしての記憶がプツンと消える。
正確には自分で消したと言うべきだな。
今の俺は地上の穢れにまみれた月の刀の付喪神に過ぎない。
いや、付喪神と言うよりは人型の神機だ。
ーーその俺の目から何かが零れる。
「……そうか。これが悲しいって感情か」
「……村正」
依姫が俺に何か言おうとした瞬間、その耳に嵌めたインカムに手を当てる。
『依姫様!注意して下さ……』
「どうしたの?」
その言葉を聞き、俺は涙を拭い、依姫を見詰め、自身のインカムに耳を澄ます。
『空間……歪み……距離…………です……この…………は……幻想郷……』
肝心な所は聞こえないが、幻想郷からの来訪者なのだろう。
「依姫」
「ええ」
俺達は互いに背中を預け、周囲に気を配る。
ーーそして、そいつは現れる。
一頭身の白い翼を生やしたそいつはまばゆい光を放ちながら降り立つ。
「貴方の知り合い?」
「……いや。こんな奴、俺の知る幻想郷にはいない」
依姫の言葉に俺が否定するとそいつは仮面の奥にある瞳を輝かせ、右手のランスを振るう。
その瞬間、灰嵐が消し飛ぶ程の風圧が周囲を襲った。
このプレッシャーはヤバい。
『依姫様!応答して下さい!』
灰域濃度が下がり、周囲に青空が広がるとクリアになった無線からレイセンの声が響く。
「レイセン。こいつはなんなの?」
『遥か昔にその強力過ぎた力故に恐れられ、封印された銀河最強の戦士よ』
依姫の問いに答えたのはレイセンではなく、豊姫だった。
『恐らく、ムラマサがやって来た余波に惹かれたのね』
「姉さん?」
『エンゲージの反応は此方でも観測しているわ。
今更、彼に隠しだてしても仕方ないでしょう』
「……ごめんなさい」
「お前が謝る必要はない」
俺は豊姫に謝る依姫にそう告げると無線越しに豊姫と話す。
「お前の計画なんぞは知らん。
だが、今の俺は依姫の刀だ」
俺は豊姫にそう言って依姫の前に出る。
「依姫。お前の相棒として聞く。
この後はどうする?」
「……村正」
俺の言葉に依姫はしばし、沈黙するとゆっくりと俺の横に来る。
「目標の沈黙よ。手段は問わないわ」
「了解だ」
俺は依姫に頷くと目標を見る。
『二人とも、今回はイレギュラーな事態よ。無事に帰ってらっしゃい』
『目標ーーギャラクティックナイト来ます!』
豊姫とレイセンの言葉を聞きながら、俺達は此方を敵と見なしたギャラクティックナイトと呼ばれるそいつへと向かって依姫と共に駆け出す。