アヌビスへ突っ込むと奴も俺を敵と見なしたのか、突進して来る。
俺はそんなアヌビスの頭上を飛翔するとその頭部から背中に掛けて一閃した。
アヌビスの背中から黒い液体が飛び散り、月読村正が貪欲に吸収する。
俺の手の中で月読村正はカタカタと震え、強度を増していく。
そんな、かつての自分だった刀を見ながら俺は後方から迫るアヌビスに振り返る事なく、月読村正でアヌビスが振るう腕を弾いた。
「悪いが、俺は人間じゃないんでな?」
そう告げると俺はゆっくりと振り返り、返し刃でアヌビスの太い腕を切断する。
想定以上の一撃でアヌビスは苦しげに腕を押さえて暴れまわる。
「待っていろ。今、引導を渡してやるからな」
俺がそう呟いてアヌビスへと刀を振り下ろそうとした瞬間、そいつらは現れた。
「止まれ!」
そいつらは此方に銃を向けて威嚇して来る。
こんな荒廃した区域にまだ人間がいるとはな?
例のゴッドイーターとか云う人間達だろうか?
「ほう。この中で尚、活発に動けるとは興味深いな」
俺は未だ悶えるアヌビスから、その先頭に現れた人物を見る。
そいつは顔に十字傷のある男だった。
「この区域に単身で乗り込むとは、余程の命知らずか・・・いや、そもそも、人ではないな?君はアラガミか?」
「俺か?・・・俺は妖怪だ」
俺がそう告げると十字傷の男が神機を手に此方へと駆け出す。
そして、俺の横を通過し、満身創痍のアヌビスに総攻撃を仕掛ける。
よくは解らんが、此方と敵対する気はなさそうだな。
なら、俺も早々にこの場から去るとするかーーと思ったが、周囲の連中がそれを阻んでいる。
そんな事をしている間に腕を再生したアヌビスが近くの人間を補食する。
その瞬間、アヌビスから強烈なプレッシャーを感じ、俺もそちらへと振り返る。
「くそっ!バースト化したぞ!」
周囲の奴等が騒ぐ中、俺は四つ足から二足歩行になったアヌビスを見上げる。
アヌビスの瞳は迫り来るゴッドイーターではなく、俺を睨んでいる。
どうやら、俺が腕を切り落としたのを根に持っているらしいな。
まあ、当たり前っちゃあ、当たり前の反応か・・・。
俺は天高く飛翔すると急降下しながら、月読村正に妖気を流す。
「チェストオオオオオォォォッッ!!」
アヌビスは縦一文字に切断され、左右に別れてドスンと倒れ込む。
「冥界の王を一撃か・・・それにその身体能力・・・」
周囲が呆気に取られる中、十字傷の男はただ、冷静に分析する。
俺は刀を軽く振るうと峰を肩に当て、十字傷の男に視線を向けた。
「んで?あんたらもやるかい?」
俺が挑発すると十字傷の男は苦笑して首を左右に振る。
「・・・やめておこう。我々、AGEはーー朱の女王は平穏を望む」
AGE?朱の女王?
よくは解らんが、こいつらは他のゴッドイーターとは違うらしい。
まあ、それならそれで問題ない。
「名を聞こう」
「・・・ムラマサだ」
「私は朱の女王の首領・ヴェルナーと云う」
互いにそう告げると十字傷の男ーーヴェルナーと名乗る男は此方をジッと見詰める。
「良ければ、君の目的を聞いても構わないか?」
「知る必要のない事だ・・・いや、ちょっと待て」
俺はヴェルナーに待ったを掛けるとしばし、考え込む。
「教える代わりに一つ条件がある」
「此方に出来る限りであれば、なんでも言いたまえ」
「なに、簡単な事だ。俺と出会った事を忘れろ。それだけで良い」
俺がそう告げるとヴェルナーはフッと笑う。
「この出会いをなかった事にしろと?」
「出来ないのなら好きにしろ。俺は俺のすべき事をする事には変わらん」
ヴェルナーにそう告げると俺はゆっくりと刀を下げる。
その行為にヴェルナーの配下が身構えるが、当のヴェルナーは涼しい顔で片手を上げて周囲を制す。
「・・・いいだろう。人間でないと云うのなら、我々が敵対する理由もない。
寧ろ、君の能力は新たな火種になりかねん」
ヴェルナーはそう告げると周囲の連中に顔を向け、退くように命令する。
周囲から人の気配がなくなると俺は刀を鞘に納め、ヴェルナーに話をした。
幻想郷からやって来た事、自分が何故、そこから来たのか、目的はなんなのかを。
無論、月の民の生き残りの事などは伏せたが、ヴェルナーという男は俺の見立てではなかなか、思慮深い人間だろうと思う。
これで外れていたのなら、俺の目が雲っていただけだ。
「なかなか、興味深いが、にわかには信じられんな」
「言っただろう、好きにしろとな?」
「だが、君の言葉には信憑性がある。なにより、ヨリヒメと呼ばれるアラガミには少々、心当たりがある」
俺の言葉にヴェルナーはそう答えると「きたまえ」とだけ、告げて歩き出す。
俺は自分でも解らぬ何かしらの確信を感じつつ、ヴェルナーのあとについていくのだった。