神喰妖影剣ー神機化した付喪神の旅ー   作:陰猫(改)

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第十九話【解放されし者と去る者】

 ーー数日後。

 

 俺は依姫達ーー月の生き残りのアジトで依姫と豊姫の元を訪れた。

 無論、俺の任務が終わった事を知らせる為だ。

 

 今更、隠す必要もないと判断したのか、豊姫は妹の前でヨリヒメの話をする。

 事の真相を知った依姫は相当ショックだったのか、終始無言であった。

 

「それでこれから、貴方はどうするのですか?」

「どうもしない。本来の情報がデマであった以上、ここに留まる理由もない。ただ、全てが元に戻るだけだ」

 

 俺は当然の如く、そう言うと俯く依姫に視線を移す。

 

「依姫」

 

 俺の言葉に依姫が顔を上げると俺は鞘に納めた月読村正を差し出す。

 その意図が解らないようだったので俺は依姫に溜め息を吐いて、説明してやる。

 

「もう、俺には不必要だ。こいつはお前の好きにしろ」

「・・・ムラマサ」

「あとな。こいつは月読村正だった俺の意思だ。

 短い間だったが、お前と組めてよかったとな。

 そして、お前さえ、良ければ、また共に戦いたいとな」

 

 俺の言葉に依姫は大きく目を見開くと俺から月読村正を受け取る。

 そして、大粒の涙を流して、かつての俺だった刀を抱き締めた。

 

「・・・こんな私にまだ付き合ってくれるの?」

「俺達は所詮、道具だ。使われ続けるのなら、それに越した事はない」

 

 そう俺が依姫に答えた瞬間、カランと何かが落ちる。それは依姫の腕輪だった。

 それに対して、豊姫が腰を浮かせた、依姫が自身の手を見る。

 

 そんな二人を見ながら、俺だけが理解をしていた。

 これは月読村正とヨリヒメの意思だろう。

 

 古き世を捨てて、新しき世界を生きる為に妖怪とアラガミが道を開いたのだ。

 

 それを見届けてから、俺は踵を返して、その場をあとにした。

 

 玉兎達も俺よりも依姫の異常ーーいや、正常に戻ったのに戸惑い、去り行く俺に気付きもしない。

 唯一、レイセンだけが俺と目が合い、一礼したが、俺はそれに対して、なにも答えず、月の生き残り達のアジトから出ていく。

 

 外に出ると八意永琳と八雲紫が待っていた。

 

「あの子を解放してくれて、ありがとう、幻想郷の守護者さん」

「俺は何もしていない。まあ、もしも、礼を尽くすのなら、二度と偽の情報を流すな」

 

 俺はクスクスと笑う八意永琳にそう告げると、ふと、ある事に気付く。

 

「何故、幻想郷から出ている、八意永琳?

 最初からお前が出ていれば、この異変は解決しただろう?」

「勘違いがあるようね。私は貴方と言う媒体を取り入れる事で今、ここに立っているだけに過ぎないわ」

「つまり、この世界への適応がついさっき、完成したって事よ、ムラマサ」

 

 聞いてもいないのに八意永琳の言葉に八雲紫が補足する。

 これだから、こいつらは信用ならん。

 

「それで今後、月の生き残り達はどうするんだ?」

「彼女達は彼女達で新たな道を歩み始めた。

 私達、幻想郷に住まう者が手を出す事はないわ」

「・・・そうか」

 

 結局、幻想郷の連中は月の民を切り捨てたか・・・。

 

 まあ、依姫達が依姫達なりにこの荒廃した世界で戦い、生き抜くと言うのなら、俺から言う事は何もない。

 せいぜい、健闘を祈るくらいだろうか。

 

「あの子達なら心配はいらないわ」

「心配なんぞしとらんさ。それにこれはあいつらの戦いだからな」

 

 俺はそう呟くと八雲紫の開いたスキマに入って行く。

 

 ここでの戦いは終わったが、月読村正と依姫の戦いはこれからだろう。

 それとは別に俺は俺で再び、幻想郷を影から支える役目に徹しなくてはならない。

 

 ーーただ、それだけだ。

 

 そこに未練などを残すほど、俺はこの世界に馴染んでないし、妖怪の特性上、気にもならん。

 だが、まあ、これからのあいつらは大丈夫だろう。

 

 それだけは確信を持って言える事である。

 

 そうして、俺はこの世界を後にするのだった。




最後の最後まで妖怪としてドライな付喪神・妖刀ムラマサの神機化でした。
旅としては短いですが、綿月依姫と月読村正の戦いは今後も続きます。

いつか、月に帰る為に。

そう言う話でこの話は終わりです。
またの機会にお会いしましょう( ・ω・)ノシ

見てくれる人がいるのも大事だけど、完走するのも大事。

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