スキマを出るとそこはところどころ溶解した廃墟にある教会跡だった。
「おいおい。随分なところじゃねえか?」
俺は独り呟くと教会から外に出て、辺りを見渡す。
周囲にはこの世界の化け物らしい物が蔓延っている。
ーーと、俺はバックステップで下がり、その化け物の一体の奇襲をなんなく避ける。
化け物は二足歩行の白い化け物だった。
「なんだ、お前?」
言葉は通じないと思わないが、とりあえず、問い掛けて見る。
「グガアアアァァァーー!!」
返答は予想通り、獣のそれであり、執拗に俺を狙って来る。
だが、多くの血を吸って強化して来た俺には止まって見える。
「遅いぜ」
俺は静かにそう呟くと化け物が噛み付いて来ようとした瞬間に跳び上がり、分身体である刀で斬り裂く。
「ん?」
その斬った感触に俺は違和感を覚える。
俺は確かに斬った。だが、斬れてない。
例えるなら、プリンをナイフで切る感触だ。手応えらしい物がない。
そんな俺に化け物は尾を振って抵抗して来る。
俺はそれを回避すると赤黒い飛ぶ斬擊を放つーーが、これも手応えがないらしい。
……参ったな。
妖怪の俺に持久戦は然程、問題ない。
疲れたりしないしな。
攻撃も単調故に避けるのは容易い。
だが、攻撃が与えられないのは問題だ。
「さて、どうしたもんかな?」
俺は攻撃を避けながら、ポツリと呟いて考える。
せめて、奴の血を摂取出来れば……。
そう思っていると数人の人間の気配を感じ、俺はトンと跳んで教会の屋根に後退する。
俺と言う獲物を逃した化け物は一声吠えると興味を無くしたかの様に俺から離れ、やって来た人間達と交戦し始めた。
原理は解らないが、人間達は俺が傷を負わせられなかった化け物に手傷を負わせる事に成功しているらしい。
やがて、化け物は沈黙し、人間達はその武器を変異させて化け物を喰らう。
妖怪の俺に出来ない事が人間には可能なのか?
俺は人間達の戦いを更に観察し続け、何が違うかを考える。
どうやら、あの武器に理由がありそうだ。
何せ、化け物を喰らう瞬間を見ても、生きている様だからな。
俺は別の標的と人間達が戦っている最中、人間達が倒した化け物の亡骸に近付き、そこから漏れる血を刀で吸う。
そこでまた、俺は意識が遠退くのを感じた。
俺はそれに耐え、なんとか理解する。
人間達の武器はこの化け物を食らっているのだ。
こりゃあ、ただの武器の俺の攻撃が通用しない訳だ。
「こんなところで何をしているんだ?」
その言葉に振り返ると褐色肌の男が佇んでいた。
その手には馬鹿でかいノコギリの様な武器が握られている。
「腕輪もなしに灰域を活動出来るって事はヒト型アラガミか?ーーいや、違うな。お前、何者だ?」
男はそう呟くと俺に武器を向けた。
俺はそれに対して、分身体である刀を構える事で答える。
「それが返答か……後悔するなよ?」
そう告げると男が間合いを詰めて来る。
俺は分身体である刀で男が振るうノコギリの様な武器を受け流し、返し刃で男の胸を斬る。手応えはあった。
男はバックステップで下がると自身の傷付いた胸を見る。
その胸からは血はーー出ない。
「……お前、何者だ?」
今度は俺が男に問うた。
師である魂魄妖忌の"斬って知る"の要領で理解したが、こいつは人間ではない。
どちらかと言えば、さっきの化け物に近い。
そして、この今までに感じた事のない存在の変異の感じからして、こいつはこの世界でも特殊な存在なのだろう。
「どうやら、互いを知る必要がありそうだな?」
男がそう告げると俺達は同時に構えを解く。
「俺の名はアインだ。お前は?」
「ムラマサ。妖刀の付喪神だ」
「……ふざけてる訳じゃなさそうだな?」
「この世界に来て、まだ間もないが、俺みたいなボロ着を着た刀を使う奴がいると?」
「いないだろうな。そんな旧式の武器でアラガミと戦おうとしている時点で、このくそったれの世界の奴じゃないと言われても頷ける」
アインと名乗るその男はそう告げると空を見上げた。
俺もそちらを見ると火山でも噴火したかの様な煙が広がっていた。
「灰嵐か……」
「灰嵐?」
「ひとまず、俺の灰域踏破船まで来い。訳もわからず、死ぬのは困るだろう?
俺も何も知らない奴を見殺しにするのは後味が悪いからな?」
アインはそう言うと武器を肩に背負って俺に背を向けて歩き出す。
確かにアインの言う通り、此処で死ぬ訳にはいかん。
それにあの灰嵐だったか……アレは俺でも解る位、危険な物だ。
下手すりゃ、妖怪の俺でもタダじゃ済まないかもな。
俺はそう判断すると先を歩くアインについて行く。