俺はアインと共に踏破船から出ると水の流れる渓谷へと出る。
アインの獲物は先程のノコギリみたいな白い大剣か。
「まずは小手調べだ。オウガテイルとでもやり合うか……」
アインはそう告げると渓谷を移動する。
俺もアインの歩調に合わせて軽く駆け出す。
「アイン。オウガテイルってのは何だ?」
「お前がさっき戦っていたアラガミだ。
まあ、神機となった今、お前が苦戦するとは思えんがな」
「そうかい」
俺はニヤリと笑うと分身体である刀を取り出し、赤い閃光となってアインの横を走り抜ける。
オウガテイルって奴はすぐに確認出来た。
ーー数は五匹。
他にも卵に目ん玉のついた丸い天使みたいなのや、つくしみたいに生えた人面草みたいな奴がいる。
「ザイゴートにコクーンメイデンまでいるのか。
小型のアラガミだが、数が多い。
ムラマサ。一度、下がれ」
「必要ない。このまま、突っ込む」
俺は制するアインにそう答えると空いている手にもう一本、刀を召喚し、卵みたいな天使の横をすり抜けながら斬り裂く。
ーー斬って理解した。
今の俺は刃物ってより生命体に近い。
故に斬ると言う行動はアラガミの細胞を喰らうのに等しい。
目玉の卵みたいな天使は黒い液体を流し、絶命する。
「一つ」
俺はポツリと漏らすと着地と同時に刀を反転させて、人面草の背中を貫き、核となる部位から液体を吸収して、異変に気付いたアラガミ達を見据えた。
「二つ」
俺は更に呟くと刀身からオーラを放ち、赤い渦となってアラガミ共を切り刻みながら斬擊の竜巻で弾き飛ばして行く。
「三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、九つ……数えるのが馬鹿らしくなって来たぜ」
俺は宙に舞わせたアラガミ達の屍へ跳ぶとその空中に舞い上がった死体を蹴りながら更に空高くへと舞う。
そして、一刀に戻すと赤い飛ぶ斬擊を放ち、地面ごとアラガミ達を真っ二つにする。
「残り二つ!」
俺は叫ぶと同時に分身体の妖刀を召喚するとその二匹へと文字通りに飛ばして地面に張り付けにして倒す。
着地するとアラガミ達は塵となって消え、俺の戦い振りをアインが驚いた表情で眺め、苦笑して神機を肩に背負う。
「成る程な。妖怪のお前ならではの戦い方って奴か……予想外だ」
「まあ、昔の幻想郷に比べれば、生ぬるいがな」
「そうか。お前を少し過小評価していた様だ」
アインはそう言って笑うとすぐに真剣な表情へと変え、耳元を押さえる。
「どうした?」
「この近くで戦闘をしている奴がいるらしい。
この辺りとなると月の民だろうな」
「なに?」
俺はその言葉に眉を潜めながら、召喚した刀を消す。
「詳しく、教えてくれないか?」
「月の民に興味があるのか?」
「ああ」
その問いに俺が頷くとアインはしばし、俺を観察してから説明を始める。
「月の民ってのは月の緑化現象による終末捕食で月から脱出して来た者だと言っている奴らの事だ。
月の民は独自の組織を持ち、更に独自で編み出した技術でアラガミに対抗しているそうだ。
その対抗する為の技術ってのが、ゴッドイーターから灰域の発生に伴い、造り出された対抗適応型ゴッドイーター……AGEへと代が変わっても追い付けない程の技術を持っているんだとかって話だ。
数世紀先を行っているとも言われているらしいが、どれはあくまでも全て噂だな」
俺はそれを聞き、考え込む。
月の民を名乗る数世紀先の技術を持つ奴らーーもしかすれば、幻想郷でも知られる月の民である可能性は高い。
「案内してくれ」
「出来かねる。奴らとの接触は死を意味するからな。
声を掛ける間もなく、アラガミと一緒に殺されるのがオチだ」
「解った。なら、此処までで良い」
俺はそう言うと集中し、気配を探る。
俺がそちらに顔を向けるとアインが眉を潜めた。
「そうだったな。お前には俺達の常識が通用しないんだったな?」
「そう言う事だ。少しの間だが、世話になった」
俺はアインにそう言って別れると戦闘している気配へと迫る。
しばらくするとそこではデカイ犬みたいなアラガミって奴と数人のウサギ耳の少女が神機を手に戦っているのが、俺の眼でも見えた。
ただ、その神機は簡略化され、元から銃剣の形をして銃底に盾がくっついていると言う特殊で簡易的な物だ。
あれなら確かに斬って撃つーーそして、守るを人間達よりスムーズに行えるだろう。
なんせ、肘を上げれば盾になり、構え直せば刺突型の銃剣になるのだから。
そして、身なりは異なるが少女達の頭から生えた兎の耳とセーラー服からして、かつて幻想郷に逃げて来た月兎ーー鈴仙・優曇華院・イナバと同じ種族と見て間違いないだろう。
「マルドゥークが活性化する!
総員!周囲のアラガミに注意せよ!」
リーダーらしい青髪の月兎が叫び、周囲の月兎達も周囲を警戒する。
「隊長!大型のアラガミが複数来ます!
更に近くで灰嵐が起こっているとの事です!」
「くっ!此処は私に任せて、貴女達は個別シェルターの準備をしなさい!」
「それでは隊長が!」
「貴女達を守るのも隊長の役目よ。例え、それが貴女達、新兵でもね?」
そう言って隊長と呼ばれる月兎が笑って振り返った瞬間、空気の読めないマルドゥークと言うアラガミの右の前足が振り上げられる。
「チェストオオオォォーーッッ!!」
そんなマルドゥークへ俺はオラクル細胞と妖気を活性化させて、閃光と化して疾走する。
そして、今まさに振り下ろさんとするマルドゥークの右の前足を両断した。
マルドゥークの足がゴロリと落ち、傷口から噴水の如く、黒い液体が噴出する。
一瞬、何が起こったのか解らぬ月兎達とマルドゥーク。
俺はそんなのを無視して四本の刀を召喚してマルドゥークの無事な前足へと発射する。
我に返ったマルドゥークだが、反応の遅れ、その無事な前足のガントレットに俺の神機化した刀が突き刺さり、射出された刀の威力で転倒した。
次に反応したのは月兎の隊長である。
「今の内にシェルターを展開!」
「は、はい!」
他の月兎達が隊長の声に答えると人ひとり入れる位の大きさのカプセルを展開し、急いで中へと入る。
それを確認してから隊長と呼ばれる月兎が神機を構えて俺の隣に立つ。
「助かりました。まずはお礼を」
「礼には及ばん。それよりもやれるか?」
「勿論です」
月兎の隊長は頷くと盾のついた銃剣を銃剣と盾にばらして装着する。
成る程な。人間達とは確かに文明が違う。
こいつらは間違いなく、幻想郷でも知られる月の民の尖兵の月兎だ。
「私はレイセン。貴方は?」
「ムラマサ。妖刀の付喪神だ」
俺達は短く言葉を交わすと互いに背中を預け、周囲を囲うアラガミ達と体制を立て直したマルドゥークを見渡す。
「俺は周囲のアラガミとやらをなんとかする。
お前はマルドゥークって奴を頼む」
「不本意ですが、そうするのが正しいのでしょうね?」
「その不本意ってのは月の民として地上の存在に助けられる事か?」
「ええ。そうですよ。刀の妖怪さん」
レイセンはそう言ってクスリと笑うと背中越しにジリジリと俺と共に反転し、手負いのマルドゥークへと向かい合う。
そんなレイセンの背中を守る様に俺は刀を構え、獅子に似たアラガミ達へと身構える。
「行くぞ、レイセン!」
「了解です!交戦に入ります!」
俺達は同時に地を蹴ると互いの戦うべき相手へと突っ込んで行った。