「くっ!」
俺の剣撃が激しくなると依姫は耐え兼ねて剣で受け止めるのから盾を展開して防ぐ事に専念する。
「……この勝負、俺の勝ちだな」
俺はポツリと呟くと両手に一本ずつ刀を持ち、依姫の盾に斬擊の嵐を繰り出す。
「……く……ううっ……」
依姫はなんとか堪えようとするが、徐々に後ろにズルズルと押され、盾が徐々に削られて薄くなって行く。
見かねた月兎が慌てて銃を構えようとすると依姫は叱咤する。
「手出しは無用よ!もし、此処で助太刀を貰ったら月の威厳に関わるわ!」
そう叫んだ依姫に俺は敬意を持った。
だが、それとこれとは別だ。
いや、別ではないな。だからこそ、俺は依姫に呟く。
「俺に斬れない物は滅多にない。例え、それが月の科学力の結晶だとしてもな。
負けを認めるなら、今の内だぜ?」
「ええ。そうね。この勝負は貴方の勝ちよ」
薄っぺらくなった盾の後ろで依姫はそう呟くとバックステップで下がり、銃形態に神機を変形させて俺に銃弾を放って主導権を取り戻そうとする。
降参したのだとばかり思った俺はそれを真っ向から受けてしまう。
「ーーただし、普通に戦ったらね?」
そう言うと依姫は神機のガトリング砲形態にった銃弾の雨を放ちつつ、再び俺に近接戦を挑む。
「トリガー発動」
依姫がそう呟いた途端、依姫の力が数倍増した。
「……痛っ!」
分身体が刃こぼれをして俺は堪らず、しかめっ面をする。
「付喪神でも痛覚のはあるのですか?
知ってます?相手が勝ち誇った時、その者は既に敗北していると言う言葉を?」
依姫はそう言って俺と攻守を逆転させた。
予想外の攻撃に怯んだ一瞬の隙を依姫は見逃さず、攻めて来た。
俺はバックステップで避け、クールダウンしようと努める。
少しでも間が出来れば、あとは観察するだけだ。
俺は依姫の攻撃を最小限の動きで避け、すぐに自分のペースを取り戻す。
そうして、依姫の動きを観察した。
恐らく、オラクル細胞を人為的に活性化させ、数倍の力を引き上げたのだろう。
「この!ちょこまかと!」
追い詰めているのは依姫の方だが、その表情には焦燥がある。
剣先もブレ、腕輪から蒸気が出る。
俺は回避しながら、動きの鈍る依姫を観察を続けた。
「……はあ……はあ」
依姫は肩で息をしながら、手を止めたーー止めてしまった。
無理矢理にオラクル細胞を活性化させて攻撃していたのだ。ガス欠して当たり前だろう。
「終わりだな」
俺は神機を落として片膝を着いて頭(こうべ)を垂れる依姫にそう呟いて刀を振り上げる。
依姫は一度だけ顔を上げると最期の瞬間に備えて瞼を閉じ、再び頭を下げた。
そして、そのまま、俺達は硬直する。
「……本当に良い部下に恵まれたもんだ」
そう呟くと後頭部に銃を押し付けられた俺は刀を消し、両手を肩まで上げた。
割り込んで来たのはレイセンである。
「……レイ、セン」
「依姫様はやらせません」
「……手助けは……無用って……はあ……言った筈よ」
「ですが、あのままでは依姫様が……」
「解っているわ。けれど、月の威厳がーー」
「誇りに縛られる必要はないだろう。まずは生き抜く事から初めて見ろ」
「貴方は黙ってて!」
レイセンは銃口を更に押し付けて俺を黙らせると自分を睨む依姫に言葉を紡ぐ。
「依姫様。貴女様は月に必要な方です。
此処で終わって良い方ではありません」
「だから、私に生き恥を晒せ、と貴女は言うのね、レイセン?」
「生き恥だなんて、そんな事は……」
「面倒臭いな、月の誇りって奴も……」
回答に困っているレイセンとキッとレイセンを睨む依姫を見て、俺は思わず、そんな感想を漏らしてしまう。
そんな俺に依姫は寄り掛かり、震える手で俺の胸ぐらを掴む。
「貴方に何が解るの!?
私は月の都のリーダーとして頑張って来た!ーーだと言うのに月は緑化し、私達の文明は潰えてしまった!
それもこれも地上のーーゴホッ!ゴホッ!」
依姫はそこまで言い掛けて苦しげに咳をし、そのまま倒れ込みそうになる。
俺はそれを受け止めると依姫を静かに横へさせた。
「依姫様!」
依姫の異変にレイセンは銃を落とし、彼女に触れようとする。
俺はそれを制すると苦しげにする依姫を見詰めた。
「落ち着け、レイセン。過度の偏食因子の活性化でアラガミ化してるだけだ」
俺はそう告げると腕輪の所から侵食する黒い細胞を観察した。
俺はそれに触れると自身の体内のオラクル細胞を活性化させ、依姫と共鳴させる事で侵食を遅らせる。
「腕輪にガタが来てるのが原因だな。
俺が抑えててやるから、さっさと取り替えろ、レイセン」
「で、でも、それは地上の人間が作った物で我々には……」
「無きゃあ、無いで作れ!でないと依姫がアラガミと化して暴走するぞ!」
俺の叫びにレイセンはビクンと震えると落とした銃を拾ってしまい、月兎達に指示を出す。
その間、俺は依姫とずっと付き添いな訳だがーーいかんな。
依姫のアラガミ化が俺も侵食しようとしてやがる。
「……本当に穢れてますね?」
そんな俺に依姫は未だに気丈に振る舞う。
「私に触れてると貴方も侵食されますよ?」
「ああ。そうだな」
俺は依姫に頷き、あれこれと思案してから溜め息を吐く。
「……仕方ねえな、依姫よ」
「なんですか、地上の刀よ?」
「俺から手を放すなよ?」
俺はそう呟くと刀に戻って依姫の手の中に納まると意識を集中し、依姫と同調する。
作戦は至って簡単だ。
依姫の精神に直接、俺が侵入し、アラガミ化する依姫の細胞と戦うってもんだ。
まあ、俺も無事じゃ済まないだろうが、このまま、依姫ほどの実力者を見殺しにするのは後味が悪い。
他の人妖みたいに好いた惚れたは俺にはない。あるのは使命感だ。
ーーそれだけの筈だ。
そうして、俺は依姫のアラガミ化を阻止する為にその因子を直接的に叩こうと依姫の精神世界へとダイブする。