俺は依姫の精神世界へとダイブする。
依姫の精神世界は長年生きて来たからか、様々な記憶が俺の中にも浸透する。
『■■■■様!何故、汚れた地上へ降りるのです!』
『ご免なさい。私には姫を一人には出来ないの』
『だからって……なんで貴女様が……』
『ご免なさい、■■■■』
ーー今のは最も鮮明な過去の記憶だ。
恐らく幼少の時のーー
ーーいや、無用な詮索は不要だ。
俺は依姫の更に深い深層へと潜る。
そうして、俺は次の依姫の記憶を見る。
『ああ……月が……』
『生きていれば、また戻れるわ。
今はこの滅亡寸前の文明の栄えた地で生きる事を考えましょう』
『……姉さん』
『地上に逃げ延びた皆を呼んで。地上人に悟られる前に私達の居場所を作りましょう、依姫』
これは月が緑化した時に地上へ脱出した時の記憶か……月の民も突発的過ぎて詳しくは解らんらしい。
ただ、地球が終末捕食と呼ばれるテラフォーミング現象をなんらかの方法で月に押し付け、地上にいる生命はその朽ち果てるべき文明を辛うじて繋げ、生き残った様だ。
お蔭で月の民は押し付けられた終末捕食で人口の八割が滅び、残りは散り散りに宇宙へと逃げた。
そして、幻想郷との境界が消失もあり、月の生き残りはこの地にて人間とは違う独自の道を歩む事となる。
だが、アラガミの脅威が地上の穢れに染まる月の生き残りを襲う事件が起こった。
これを危惧し、月の生き残りは人間達と最低限ながらの情報を共有する事となる。
そうして、生き残りから依姫をはじめとする月の民のゴッドイーターが生まれた。
それと同時に今の人類が至るAGEの誕生にも繋がるらしい。
勿論、これを知るのはフェンリル極東支部と呼ばれる場所のごく一部だったらしいがな。
そこから先は依姫が先陣を切って戦った記憶だった。
大型種に感応種、今の灰域種など、月の生き残りの為に戦いに戦った。
だが、それにも限界がある。
何より、月の民と地上の民では姿形は同じでも細胞の出来などが違う。
依姫は偏食因子に呑まれ、アラガミ化する同胞を何人も殺めた。
その度に何度も心を締め付けられた。
皮肉な事に月の生き残りが解析を完了し、地上の民の様に体内に偏食因子を用いずにアラガミと対抗する術を身に付けたのは月の出身であるゴッドイーターが依姫一人となった時であった。
俺は深層心理の一番奥へと辿り着くと膝を抱いて蹲る少女の姿の依姫を見る。
その近くでは黒い靄が徐々に依姫に這い寄ってくる。
俺はそんな依姫に近付いた。
『私の中を覗いたんでしょう?』
『ああ』
『なら、私を楽にさせてよ。もう疲れてしまったの。
リーダーとして先陣を切る事も地上に穢れながら戦い続ける事も……』
『解った』
本来なら此処で気の効いた台詞を言うんだろうが、付喪神の俺にはそんな台詞は浮かばない。だから、俺はこう呟く。
『古き世を捨て、新しい世界で生きよ』
そうして、俺は少女の姿をした依姫に刀を振り上げる。
『……ありがとう』
依姫は小さな声でそう呟くと涙を流して瞼を閉じた。
ーーー
ーー
ー
「依姫様!」
レイセンが来た時には全てが終わっていた。
現実に戻った俺と安らかに眠る依姫を見て、レイセンは何かを悟ったらしい。
「……遅かったな」
俺がそう呟くとレイセンが月の民が開発した腕輪を落として膝をつく。
そんなレイセンの胸ぐらを掴み、俺は無理矢理立たせる。
「何を呆けてやがる。本当に手遅れになるぞ?」
「え?だって、貴方がーー」
「阿呆。よく見ろ。ちゃんと呼吸してんだろが」
俺にそう言われてレイセンは慌てて駆け寄ると依姫の胸に耳を近付け、その鼓動を聞いてホッとすると月の民が作った腕輪を依姫に嵌めた。
そんなレイセン達に背を向けると俺はその手に乗った小さなアラガミの出来損ないを見下ろしてグシャリと握り潰す。
あの時、確かに俺は依姫に介錯をしようとした。その際に聞こえたのだ。
依姫を慕うレイセン達の言葉を……。
だから、俺は依姫に問うた。
『本当に良いのか?お前の帰りを待つ奴がいるのに?』と。
それに対しての反応は迷いだった。
『そうか』
俺は依姫ではなく、その影を刀で貫くとまだ形の作られてないアラガミを引き抜く。
『どうして?』
『お前は俺と同じだ。必要とされる存在。
なら、そこに自由意思はない』
『……私は自らの死を望む事も許されないの?』
『お前を必要な奴がいる限りな。
少なくとも、まだ迎えが来るには早い』
ーーこれが依姫の中でやり取りした内容だ。
俺は依姫から死の願望とアラガミを斬った。
それだけだ。それに対して依姫から感謝される事はないだろう。
それに月の民が月の緑化を知らぬ以上、此処に留まる理由はない。
俺は目を覚まして起き上がる依姫に抱き着くレイセンを一瞥するとその場を去る。