村の集会所には温泉が隣接されているクエストカウンターの他に酒場などがある。
ナルは毎日そこに通い酒を飲むが、ユウカは初めてここに来た。
ここにいるのは村の大人や他所から来た客。村長やギルドマスターの姿もあり大変賑わっていた。
最も、今どきここに来る者と言えば日頃の疲労を取ろうという労働者が大半で、その多くは独身の男性である。
独身男性が多いということでユウカやナルのような人は多くの男性に絡まれる。
結婚してるのか?彼氏はいるのか?俺と付き合わないか?何してるの?等々飽きるほど聞かれる。
二人がハンターと知ると諦める人もいるが、それでも構わないとしつこく付きまとう者もいる。
ナルは馴れているしあまりに鬱陶しい男は追い払うだけのメンタルを持っているのだが、普段のユウカはおとなしい性格なので追い払うだけの勇気も無い。
「おっ、いたいた。おぉーい!ユウカちゃーん!ナルさーん!」
デニスと合流したことにより迫り来る男の数は劇的に減った。
「酒場って凄い賑やか何ですね。ジャギィの巣の方が静かなくらい…」
「いっつもこんなもんよここは!静かなのはユウカと村長さんくらいだよ!」
ユウカが村長を見ると、酔っぱらっている村の者と談笑しながらたまにお酒を口にしているが、いつもの村長と変わらず上品さがあった。
「あの人が酒を飲み過ぎたところは俺も見たことねぇ。いつもほろ酔い程度で打ち止めするんだ」
「まあまあ、こっちも飲もうよ!マスターとりあえずビール樽で持ってきてよ!」
「おいおい、二人でそんなに飲めるかよ」
「え?これは私の分だよ!」
ナルが大酒豪だというのはユウカも噂で聞いていたが、まさか大タル丸々ひとつを飲む程とは思ってもいなかった。
「俺は普通のジョッキで頼む」
「私はコーラをお願いします」
ナルは目を見張るほどのペースで酒を飲んでいった。
にも関わらず会話にも積極的に参加しており、デニスもユウカも内心少し引くほどだった。
テンションの上がってきたナルが一度離席したので、デニスとユウカは二人きりになった。
「デニスさんってどうしてハンターになろうと思ったんですか?」
「俺?俺は力には自信があったからハンター始めたんだが、イマイチセンスが無くて三十路になっても下位ハンターやってるわけだ。ユウカちゃんはどうしてだい?」
「私はこの村が大好きだから、生まれ育ったこの村を守りたくてハンターになったんです。ユクモ村は温泉目的にやってきたハンターさんにたまに依頼をしたりしてて、今まで派遣ハンターはいても専属のハンターがいなかったんです。だから私が…」
「なるほどねぇ……」
デニスは酒を一口含み、間を開けてから残りを喋り出した。
「素直に感心するぜ、今時そんな真面目な理由でハンター志望するやつは多くないからな。よくいるのが大金を稼ぎたいって奴だ。そういうやつは大体モンスターの恐ろしさを知らない奴らだからよ、ハンターになって間も無くジャギィとかに食い殺されちまう」
「お二人さんもっと飲もうよ~?」
空の樽を抱き抱えてナルが戻ってきた。
「ナルさんはどうしてハンターを目指したんだい?」
ビールを一杯注がれながらデニスが尋ねた。
「あたし?あたしは家事は不器用だけど元気が売りだったからハンターになった。それだけよ~?あとユウカもデニスさんもぉ~あたしのことはナル姉と呼びたまえ~昔からそう呼ばれてるからさ~ほら、もう一杯!」
「お、おう……」
翌朝デニスは二日酔い、ナルは元気に狩りに出た。
ユウカは試しにナルをナル姉と呼ぶと、それでいいんだよ!と元気に返された。どうやら酒の勢いでは無かったようだ。
その日狩ったのは砂漠で縄張り争いをしていた二頭のドスジャギィのグループ。
あっさりと倒したユウかとナルは村に早々帰還。
ナルは今日も酒を飲むのであった。
世界観紹介
ハンター
ギルドから正式に認定され、主にギルドから依頼されたモンスターを狩猟し、その報酬金を貰うことを生業にしている者たち。
HR1だからといって全員がドスジャギィを狩れるかと言われるとそうでもない。
現在、正式にハンターとして狩りを行っている者の中で一人でドスジャギィを狩れるものは五割と言われている。
さらにその残った五割のうちさらに六割が上位以上のハンター、全体の一割未満をG級ハンターが占めている。
その為下位のHR2、3のハンターは全体で見るとかなり少ない数になるが十分優秀なハンターとされる。
ハンターの死亡例は特にHR1が多く、その理由の多くは小型モンスターを狩っていたら群れのボスが来て襲われた。次点で小型モンスターに囲まれて数で圧倒された。
一般的な人はジャギィ一頭を狩ることも困難な為、ジャギィを狩れるだけでも一応ハンターとしては成り立つ。
最近は若者のハンター離れ、若年層ハンターの実力低下それによる上位ハンターの高齢化が問題となっており、ギルドとしても有力なハンターを積極的に昇格させている。