味方からも敵からもヤベー奴扱いされた指揮官達のいるドルフロ   作:ホワイトアクア

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遅れてすまない……!10日くらい放置してしまった……!
理由としてはモンハンポータブル(初代)をやってたのが原因。ちなみにメイン武器は片手/双剣。
ワールドやアイスボーンとか出てるのにも関わらず、大体知ってるモンスター以外のモンスター名知らないとかマジで洒落にならんと思ってやってたのです……艦これとモンハンのクロス小説見て毎回モンスターの名前調べて把握するとかメンドイので……。

ついでにテンポ遅いのはどうもシリアス書けなかった故に現実逃避して動画見て逃げたってのもあります。ネタ探しで。最近見たのがロストプラネット。名前だけ聞いたら懐かしくて。最後にやったの携帯版だったから……。


鉄血は人類の夢を見るか? 下

 前回の密会からまた数日経った日、ケンジは外に出歩いていた。この日は近く復興地区に出掛けては健康診断や治療の提供などをする日でもあった。鉄血に与えられた被害は大きく、病院もまだ機能するには色々と足りない現状となっているので、一時的にプレハブ小屋を使っての診断が続いていた。辛い状況だが、喜ばしい報告も幾つか受け取ったのもある。

 グレイ達が鉄血の基地を一気に2つも破壊したお陰で、この地区での復興に政府が力を注いでくれたらしい。わざわざ遠くから様々な技術を持った人やケンジには欲しかった医療関係の人、食糧の数々など人々には嬉しい希望が出て来た。これまで一人でやっていたケンジも少し重荷は減ったものの、まだまだ一部分に過ぎないのでやる事は依然として変わらないままだった。

 

「ここの整地もある程度しないとな……元は通行道路だった筈だったし……ん?」

 

 静かなこの場所でケンジは少し立ち止まって耳を澄ませた。近くから誰かの声が聞こえた。気になって近付くと、声は段々とハッキリして彼の耳に届いた辺りでケンジは何かを察したのか走り出す。

 

「ヘッヘッヘ、まさか鉄血の戦術人形がこんな所で出くわすとはな!」

「しかも、怪我してるし弾も撃ち切れって感じだな。ザマァねぇぜ」

「嫌!放せ!この穢れた人類め!」

 

 捕まっている鉄血人形が何なのかはまだ見るまでハッキリしないが、現状におけるシチュエーション的に今居る奴等は確かに穢れた心を持った屑な男達だと察していた。やれやれと自分も何だかんだで甘い所があるなと思うと、以前にトンプソンの言った通りになってしまうが、正直そんなのは関係無かった。

 

「おい、何してるんだ?」

「あぁ?何だテメェは?」

 

 躊躇いも無くその場に入り込んだケンジは声を掛ける。男達はピタッと止まった後ゆっくりと睨みながらケンジを見たが、ケンジからすれば修羅場を掻い潜った所で男達の睨みは通用しなかった。そして、男達に囲まれていた当の鉄血人形の正体というのが……。

 

「デストロイヤーか……」

 

 エージェントと同じく、鉄血工造における固有型戦術人形「デストロイヤー」。別名「破壊者」。その名の通りに腰辺りの両サイドからグレネードランチャーを装着している鉄血人形なのだが、見た目が完全に幼女。以前にグレイがデストロイヤーを追い駆け回したと言っていたのを思い出したが、その時はデストロイヤーが泣きながら追われていたとか。多分見た目と同様に思考も女の子に近かったなんて誰もが想像しなかっただろう。だが事実である。

 それを踏まえて今の光景を改めて見てみよう。傷だらけの幼女に対して群がる無数の男達。気持ち悪い笑みを見せながら次第に寄り添う他、誰も来る人は居ないこの状況で予想出来る展開は1つしか無かった。

 

「ここはガキの来る所じゃねぇんだ、あっち行ってろ!」

「それはこっちの台詞だ。敵と言えども、無抵抗の女に対して襲うとか人間として腐ってるな。己の欲望を吐き出す為にその子を身代わりにさせるのか。全く……品の無い奴等だ」

「んだとテメェ!?」

 

 ケンジの反論に怒りを表す男達。殴り掛かろうと攻めるが、それよりも前にケンジがナイフを取り出しては投げ、一人、また一人と男の腹部や首など的確に仕留める。その内の一人が銃を持っていたので、チンピラかテロリストの仲間か何かだろうと彼等の素性を理解したケンジ。デストロイヤーはただただケンジの行動に茫然となっていたが、ケンジはデストロイヤーを背負いながらここから離れて走る。

 

「何処に連れて行くのよ!放しなさいよ!」

「暴れるな。別にお前に最低な事をする訳じゃないが、一旦落ち着け」

 

 じたばたと少し暴れていたがそのまま走り続け、しばらく走って大丈夫だと判断した所で彼女を降ろした後、すぐさま彼女の治療を始めた。

 

「ちょっ、何するのよ!?」

「黙ってろ。少し痛むかもしれないが、我慢しておけ」

 

 傷口を消毒し、包帯や絆創膏を使ってデストロイヤーを治していく。本来は戦術人形用の修復材を使うべきなのだが、外を出歩く際にそんな物をわざわざ持ち歩くなんて事はしない。今回はあまりにも特殊だった為に応急処置で済ませたのだが、人間の治療が戦術人形に効果あるかどうかなど試した話は一度も無い。つまり、ケンジが初めての経験者となる。

 しかしながら、戦術人形も言い換えてしまえば人間と同じなので、少なからず効果はあるだろうと微々たる確信を持ちながらもデストロイヤーの治療を終えた。デストロイヤーは警戒しながらもケンジに話し掛ける。

 

「アンタ、バカじゃないの?傷付いた敵を治すとか頭おかしいんじゃない?」

「自分でもその辺は理解しているつもりだ。仲間からすれば裏切り行為だと思われてもしょうがない。だが、俺は相手が喧嘩を吹っ掛けて来ない限り、人と同じだと思ってる。例え鉄血だとしてもだ」

「随分と綺麗事を言えたものね。本当に人類って訳が分からないわ。それに、あたし達はたかがその程度で痛がるとでも―――」

「ほれ」

「痛だだだだだッ!!叩くな!!」

 

 包帯で巻いた所をポンッとケンジが叩いた瞬間、叩かれた際に痛覚が来たのか涙目を浮かべながらポカポカと叩くデストロイヤー。この子は単なるドジっ子か或いは純粋な子供とも言えるが。

 

「治してやった位なんだ。少しは素直に喜んでおけよ」

「ふん!誰が人類にお礼だなんて……」

「あのままだったらお前、色々と失って人生終了する羽目になってたぞ。割とガチで」

「色々と失うって……具体的には何よ……?」

「そうだな……まずは―――」

「その辺りで止めて貰えないでしょうか、グリフィンの指揮官?」

 

 また聞き慣れた声が聞こえた。後ろを向いたらエージェントが誓約に従ったままの態度でケンジに話し掛けていた。エージェントが居たと分かったデストロイヤーはパタパタと走ってはエージェントの後ろへと隠れてニヤッと笑っていた。どうやらここで殺される運命だと嘲笑うかの様な感じだったが。

 

「……鉄血はそういう知識も入っているんじゃ無かったのか?」

「本来ならですが。ただ、この子は貴方の感じていた通り知識が不足していますが、貴方を殺せる程の実力はあります」

「へぇ、そりゃ大変だ」

「故に貴方をここで抹殺させて頂きます。と……言いたい所ですが、今日の所は見逃してあげましょう」

「ちょっと!コイツ殺さないの!?」

 

 ケンジを見逃す事が不満だったのか、デストロイヤーが突っ掛かるが、エージェントは淡々と正論をデストロイヤーに言った。

 

「貴女にも問題がありますよデストロイヤー。あまり単独行動は控えておいた方が良いとあれほど言っていたではありませんか。今回みたいに運が良かったかもしれませんが、仮にも何かあった場合、我々鉄血はどんな事情であろうと戻らない者は見捨てる。資材がある限り、我々がそういう存在でいる限り、替えは幾らでもあるのです。そして、それは貴女も含まれているのですよ」

「うぅ……」

 

 冷徹な言葉にデストロイヤーは俯いてしまう。言葉も言葉で残酷な言い方だったが、鉄血だけじゃなく戦術人形という存在もまた同じ事が言える。それだけでも心が痛くなる。

 

「特に裏切った場合、待っているのは死あるのみ。貴女もそうならない様になるべく勝手な行動は慎む様にして下さい」

「分かったわよ……」

「良い子ですね。さて……私達はそろそろ行きますが、次会った時は殺すつもりで行きます。それまで残りの僅かな人生を楽しんでおきなさい」

「おーおー、ご丁寧な忠告ありがとさん。だけど、その言葉そっくりそっちに返してやるぜ。悪いがそう簡単に死ぬつもりは無いんでな。そっちも人類に喧嘩売った事を悔やんでな」

「戯言を……」

 

 言い終わった後、互いに後ろへと向き歩く者達。少し歩いた後に振り向くと、向こうもケンジを見ながら歩いていて―――

 

『ありがとうございました』

 

 と、口だけ動かしていた。その意図が分かったのか、ケンジは手を振ってそれに応えながらグリフィンに戻って行った。

 

 

 

 

 

 少しの時間さえあれば何度もあの場所に訪れては話し合う日が続いた。未だに互いに裏切り行為はしていないものの、それでも長く続くかは分からなかった。

 

「それじゃ、今日も行って来る」

「今日もか?ここ最近外に出る事が多くないか?」

「ずっと籠りっきりで何もしないよりかはマシだ。今日だって必要としている人が居るかもしれないからな」

「それならそれで良いが……」

 

 本当に大丈夫なのかとエルは疑っていたが、本人の希望だから余計な詮索はしないでおこうと気に留めてはいた。しかし……。

 

「……兄さん、本当にケンジさんをあのままにして良いの?」

「もしかしたら鉄血と何かあったんじゃないのか?ボス、アイツの後を追いかけようぜ」

「そうしたいのは山々なんだが……」

 

 1歩間違えれば大きな問題にも繋がり、それを対処しなければいけない。その上、更に仕事の量も多くなったりとか……とにかく嫌なデメリットが浮かび上がるが、かと言って放っておく訳にも行かない。

 

「ケンジさんが居なくなったら、あの時と同じ様に過ごせなくなるのは嫌……兄さん、お願い!」

「ボス、私からも頼むぜ。ボスが暴れろって言うまではちゃんとボスに従うからよ!頼む!」

「……分かった。ただし、状況を把握しながら確かめるのが前提だ。どうなるかはアイツの行動次第だが……いい加減この疑問を解決したいからな」

 

 意を決してケンジの後をついて行くエル達を始め、グレイ達にもケンジの動きがおかしいという情報が伝わり、急遽ケンジの後を尾行する作戦が始まった。

 一方でケンジはまたあの場所に訪れてはエージェントと話し合うつもりで来たのだが……。

 

「あ!この前の人間!」

「……エージェント、これはどういう事だ……?」

「すみません……どうやらこの子がワガママ言って意地でも行きたいと叫んだものですから……」

 

 エージェントの隣に居たのはまさかのデストロイヤーだった。聞けば、今回もまた行こうとはしていたものの、そこに向かうエージェントをデストロイヤーが見付けたらしく、一緒に行くと言ったのだ。当然、彼女には暗黙の誓約については話していなかったものの、結果としてバレてしまう形となった。

 

「念の為にあの子には通信とか切って貰っていますが、そろそろ覚悟を決めておかなければなりませんね……まさか、こうなるとは予想していませんでした……」

「……過ぎてしまった事には仕方が無い。寧ろ一人で済んだだけでも大きかったがな」

 

 チラッとデストロイヤーの方を見ると、未だにケンジに向けて敵視というか警戒心が溢れていて、迂闊に話す事も出来なさそうだ。まるで猫がシャーッ!と威嚇するが如く睨んでる。

 しかし、こっちが話す事はあまり無いので今日もまたピアノとかで演奏を始めた。何時しか近くには何処から持ち込んだのかエレクトーンが設置されてあり、そっちの方でも演奏しているケンジをデストロイヤーはただジーっと見ていた。本当ならば直ぐに殺せば良い筈なのだが、一度はケンジに助けられた身でもあるので、殺すのは正直どうなのかと悩んだりしていた。寧ろ、こんな状況で無抵抗なままで演奏している彼が異常だと思ってるらしい。何よりもあんな楽しそうにしている彼を見て気になっていたのだが、彼女の視線に気付いたケンジが落ち着いた様子で話し掛けて来た。

 

「やってみるか?」

「……良いの?」

「音楽はその為にある。これを弾くのに人だろうと戦術人形だろうと変わらんさ」

 

 ほら、やってみなと誘われるがままに椅子に座るデストロイヤー。人差し指で鍵盤を押すとポーンと音が響く。こんなものを見たのは初めてだと、まるっきり分かりやすい表情を浮かべる彼女。もっと教えてあげようかとケンジのお人好しな心が突き動かされ、デストロイヤーと一緒に練習をしてあげていた。

 

「ここはこうで……そうそう、上手い上手い。良く出来てるじゃないか」

「と、当然だもん!」

「フフフ……」

 

 微笑ましい光景にエージェントも思わず笑みを溢す。まるで親が娘に勉強を教えている様な光景。本当の両親だと勘違いされてもおかしく無かったが、そんな考えはこの際どうでも良い。

 エージェントは確信した。AIからの命令で人類を殺せとは言われたものの、彼は人を殺し続けた自分達を見て恐れる様子は無く、寧ろこうして話したり触れ合ったりしている。戦場では自分達を含めた鉄血を殺してもいるのだが、それはあくまでも自分の身や他人を守る為の自衛に過ぎない。それもまた仕方の無い事だろう。

 だが、ここで疑問が生じる。それならば何故自分達は人間を殺さなければいけないのかと。ケンジの様な人間が居るならば、本当に殺す必要はあるのかと。何の為に自分達が存在しているのか。

 

「………」

 

 鉄血の過去はケンジから聞いてはいたが、こうして見ていると今の鉄血の在り方もまたおかしく感じ始めていた。そもそも、AIが人類を殺そうとする理由が何なのか。前にケンジが言ってた通り、相手から何かしら吹っ掛けて来なければ至って普通に問題事なども起きない筈だ。まあ、その切っ掛けも元々は人類が悪いというのが原因という皮肉みたいなものでもあるのだが。

 それを踏まえた上で考えると、これまでケンジ達率いるグリフィンが先に攻撃を仕掛ける事態はゼロに等しく、寧ろ自分達が先に手を出している様なモノだった。そうなると、「あれ?もしかして殆ど自分達側に原因あるんじゃね?」みたいな感覚になり、そりゃ戦争まで発展してもおかしくないなと納得した。これまで人類を殺した自分達が言えた事では無いが、もしも鉄血と人類が手を取り合える日があったのならば、果たしてそれは人類を全て殺した終えた時とは別に自分の在り方があるのだろうかと。仲間さえ平気で見捨てる鉄血より、仲間を大事にする彼等と同じ立場となって良いのだろうか。エージェントからすれば大きな悩みの1つとも言えた。

 

「危ない!」

 

 が、それはすぐに訪れた。唐突にケンジが叫んだと同時にエージェントを庇う様にして飛び、直後に何かが発射される音が聞こえた後、1つの弾丸が通り過ぎた。一体何が起きたのか理解するには少し遅れたエージェント。同じくデストロイヤーもケンジがいきなり飛び出た事に驚いていたが、彼の背中辺りから少し血が滲み出ていたのが分かった。

 

「ぐっ……!」

「人間!」

「大丈夫……ただの掠り傷だ……!」

「敵を庇うだなんて馬鹿な人間が居たものね。そういう奴ほど直ぐに死にたがるのは理解出来ないわね」

 

 声が聞こえた方向を振り向く。そこには無数の鉄血兵と一際リーダー格の雰囲気が漂う固有型の鉄血人形が2体そこに立っていた。

 

「ドリーマーとアルケミストか……!」

 

 ドリーマーは別名「夢想家」と呼ばれ、アルケミストは「錬金術師」と呼ばれており、この二人に限っては超が付くほどのドSな精神を持っている。特にアルケミストは妨害工作をメインにしているので、念押しでグリフィンへの通信を傍受する細工も簡単に施したりするそうだ。

 随分と厄介な相手に捕まったなと心の中で愚痴っていたが、先にドリーマーの方から喋り出した。

 

「ここ最近でエージェントが何か隠していると疑ってはいたけど、まさかグリフィンの指揮官様が居たとはねぇ。ご丁寧に私達の通信を遮断して毎回行ってたのかしら?」

「随分と長いお付き合いだったそうじゃないかエージェント?人類を殺す役目を果たさず、お前はただそこの人間と喋っていただけとは……鉄血の面汚しだな。挙げ句、デストロイヤーさえ何もせずにか」

 

 クスクスと二人を罵倒する声が届く。デストロイヤーはただ何も言い返せないと険しい表情をしていたが、エージェントはそれがどうしたと変わらない表情のまま言い返す。

 

「面汚しですか。その為にわざわざ私を含めて殺そうと?」

「当然の報いだ。グリフィンの指揮官と話している様じゃ鉄血には要らない。所詮お前は裏切り者同然だと言う事さ」

「そういう事よ。まあ、貴女が死んでも代わりは幾らでもあるわ。貴女はもう用済みよエージェント、デストロイヤー。ここで死ぬか、それとも今ここでその人間を殺すか……あぁ、いっその事この人間と貴女に爆弾を着けてグリフィンに送り届けるというのも一番かもしれないわね」

「………!」

 

 冷徹で最低な発言にデストロイヤーが震え、エージェントは何も出来ないという現実に悔しそうに拳を握っていた。この二人からまだ死にたくない、死ぬつもりは一切無いんだという気持ちがケンジにも伝わって来る。

 何よりも……大事な仲間なのにそう易々と見捨てる彼女達の態度に怒りが沸き上がっていた。背中を掠った際の痛みは続くが、そんなのはどうでも良い。とにかくアイツ等を全力でぶん殴りたい気分だった。

 

「おい……!」

「何かしら?もしかして命乞い?」

「命乞い?馬鹿な事を。寧ろその台詞はそっくりそのまま返させて貰うぜ」

「あまり調子に乗るなよ人間。周りを見ろ。既に包囲されている中、この場でお前を蜂の巣にして殺せるのは容易いぞ。それとも、その裏切り者の為に身体を張って助けるというのか?」

「あ~らぁ、それは泣けるわねぇ。お姉さん感動して涙が出そうだわ。アハハハハハ!」

 

 ドリーマーに釣られて他の鉄血人形も馬鹿にする様にして笑うが、この時点で彼の怒りは有頂天に達した。そして、彼の衣服から大量のナイフが1つ、また1つと垂れ下がり―――

 

「疾ッ!!」

 

 手に大量のナイフを持ち、スピンジャンプをしながら周囲の鉄血兵に向けて投げ飛ばした。懐からどんどん出て来るナイフは次から次へと彼の手元に現れては鉄血人形に向けて投げ飛ばされる。まさか攻撃して来るとは思わなかったのか急いで銃を構えて撃とうとする鉄血兵達だったが、それよりも早く正確に投げたナイフは鉄血兵の首を確実に貫き、5秒も満たない内に回転させながら投げ続けては鉄血兵を全滅させた。

 ドリーマーとアルケミストはこんな状況に置かれていた筈なのに、それでも容易く状況を覆したケンジを見て驚かずにはいられなかった。

 

「なっ……!?」

「どうした?余裕をぶっこいていた割には軟弱なんだな。鍛え方が足りない証拠だ」

「貴様!!」

 

 簡単な挑発だったが、二人からして見ればケンジは間違いなく優先的に倒さなければならない人間として認識した。両刃の付いた武器を持ったアルケミストがケンジに向かって襲い掛かり、対するケンジもナイフ2本でアルケミストの攻撃を防ぎながら反撃する。アルケミストの攻撃にいとも容易く対応して防いだ事にアルケミストまたもや驚いた。

 

(何だコイツは……!本当に人間なのか!?)

 

 戦力としては戦い慣れている自分の方が上だと思っていた。近接戦闘に関しては同じ固有型とされる「エクスキューショナー」、別名「処刑人」よりも上な筈だった。

 しかし、今はどうだ。戦闘慣れしているのにも関わらず、ケンジはアルケミストの動きについて来る所か自分より遥かに動きが早い。逆にケンジからの猛攻にアルケミストが耐えれるのも時間の問題だった。右、左、或いは上や下、斜めから等……四方八方からの攻撃やトリッキーな動き方にアルケミストは翻弄されるがまま押されては胴体に少しずつ傷も付き始めていた。

 

「調子に乗るなァ!!」

 

 このまま終われるかと大振りの一撃を入れようとするアルケミストだったが、彼女の攻撃が来た直前にケンジが右足で彼女の武器を上空へと蹴り飛ばし―――

 

「なッ!?」

「歯ァ食いしばれェェェェェェェェェェッ!!」

 

 間髪入れずにアルケミストの顔を右ストレートをぶち込んだ。顔面をもろに受けたアルケミストは激しく飛ばされながら遠くの壁に直撃したが、直後にケンジがナイフを投げてはアルケミストの首を貫いた。悶え苦しむ彼女だったが、直に呼吸や動きも弱くなり、最後はピクリとも動かずにズルズルと壁を擦れ落ちる音を立てながら床に倒れた。次はお前の番だとケンジはドリーマーをギロリと睨みながら見ていた。

 

「ひっ……!」

 

 ドリーマーはケンジを恐れた。彼女は常にこういう性格であった故に同じ鉄血人形から悪く思う者が少なからず居た。彼女は例えグリフィンや人間、果てには鉄血だろうと相手の心を言葉で揺さぶられ、怒られ、常にエリートという立場で導きながらもやっていた。

 だが、今ではどうだ。彼女の巧みな話術も通用するとは思えない位の強さを見せつけ、最後に残ったのは自分だけ。幸いにも元々ダミー人形で出ているので本体に命の別状は無いが……少なくともドリーマーはケンジという存在を恐れている。自分よりも上の存在を怒らせてしまったのだと今更ながらも後悔する。まるでターゲットを最後まで追い詰める死神を思わせる様に。

 

「こ、降参よ……もう抵抗したりしないわ……ほら、武器も捨てるから!」

「………」

「情報も教えるから!ね!だから見逃して!」

 

 必死になって命乞いをするドリーマー。だが、これも彼女なりのやり方だった。こんな奴にただで終わらせる訳にはいかないと精々嘘の情報を教えて逃げ切ればそれで良い。そこで彼等を誘き出し、一網打尽にすれば自分の汚名返上と同時にグリフィンに一矢報いれば理想的だと悪知恵を働かせていた。その答えにケンジは……。

 

「必要無い」

「何でよ!?何が駄目って言うのよ!?」

「人を馬鹿にし、仲間を見捨てるお前に生きる価値など必要無い。例え代わりが何度あろうとも、俺はそれを潰すまでお前達を徹底的に追い詰める。例え地獄の果てだろうとな」

 

 直後、ケンジは指をパチンと鳴らす。それが合図だったのかドリーマーの頭部を1発の弾丸が貫いた。ドリーマーは動き1つすら起きないまま倒れ、撃った本人はもう大丈夫だろうと建物の陰からスッと現れた。

 

「遅れたか?」

「いや、丁度良いタイミングだったさ」

 

 物陰から現れたのはエルだった。エルはデスペナルティを仕舞いながらケンジの元へと近付き、後からカトレアやトンプソンまでもが一緒になってやって来た。

 

「そうか……だが、今回は目に余りすぎたな。お前の事情もあるが、せめて何か一言は相談して欲しかった。そんなに俺達は信用無かったのか?」

「すまない……」

「一体何を考えていたのかは知らないが、とにかくお前が無事で良かった。皆が待ってる」

 

 エルだけじゃなく、他の全員までもが心配になって来たのだろう。完全にバレたなと諦めながらもエージェントとデストロイヤーに向けて振り返りながらも少々申し訳無さそうにして呟く。

 

「すまなかった。暗黙の誓約を破る事になってしまった」

「いいえ、気にしていませんよ。元を言えば先に気付かれてしまった私達の方が原因ですので……」

 

 一部始終を少しだけ見ていたものの、やはり危険ではないのかと警戒していたカトレアとトンプソンが銃を向けるが、普通にケンジがエージェントと話しているのを見て戸惑いながらも二人に同行させる様に話した。

 

「あの……グリフィンまでご同行をお願い出来ますか?」

「……元からそのつもりです。私達は裏切ったも同然。もう捨てられたのですから」

「………」

 

 それ以上カトレアは何も言えなかった。ただただ苦しい沈黙だけが流れ続けた。トンプソンもまた仲間を軽々と見捨てた鉄血に怒りを感じざるを得なかった。

 ケンジとエージェントによる暗黙の誓約は長くも短い時間で終わりを告げるのであった。

 

 

 

 

 

 後日、グリフィンに同行されたエージェントとデストロイヤーは取調室で色々と聞かされていた。同じくケンジもまたあの場で何をしていたのかをヘリアンから問い質されたが、ほぼエージェントと同じ言い分だった他に彼がそう簡単に嘘を吐かないと判断したのか、重罰にはならなかったものの、重要な事を言わなかったという理由もあり、1ヶ月グリフィンの仕事を全面担当する他、エージェント及びデストロイヤーの面倒を見てやれとの事だった。ちなみに、ヘリアンがケンジを信じた理由というのが―――

 

「敵に回したら恐ろしかったが、かと言ってあの彼等が裏切る真似も死ぬ真似すら思い付くと思うか?あれだけ大量の敵に囲まれたにも関わらず生還したんだ。その辺は妥協しても良いと思ってな」

 

 と、随分と気に入られた様子だった。更にはエージェントから鉄血人形達が独占している基地の場所も入手し、反撃の準備ができ次第攻撃を行うそうだ。

 

「しっかし、これまた凄い事が起きるもんだな。グリフィンの情報じゃなく、ただケンジと話がしたいだなんて相当変わり者だったんじゃないのか?」

「これまで人類が敵だーとか騒いでたのに、いきなり話し合いに持ち込んだ位だしな。しかも、鉄血の在り方とか何か悟ってた雰囲気がバリバリ出てたし」

「何の理由も無く殺す日々に対する疑問とケンジの様な人間を見た時が決定打になったそうだ。いずれ、この戦いが終わった後に鉄血を扱うべきなのか……早い内に考えた方が良いかもしれないな」

 

 今回の件を通じて、グレイ達もまた鉄血に対する考え方を変える方針で行くそうだ。戦術人形も鉄血もこの世界で生きている存在だ。せめて殺し合う間柄ではなく、軽口言える仲みたいな世界を実現する為に。暴走した彼女達を止めるのは彼等しか残されていないのだから。

 

 

 

 

 

「これはここに置いといてくれれば助かるよ」

「分かりました」

 

 一方でエージェントとデストロイヤーの面倒を請けたケンジは全ての仕事を二人と一緒にやりながら過ごしていた。医者としての外出禁止は免れたものの、仕事の量が多くなってほぼ軟禁生活を強いられてしまったが、後悔はしていなかった。

 

「あの……」

「何?」

「迎え入れて下さった事には感謝しています。ですが、貴方に迷惑を掛けてしまったのではないかと……」

 

 そう言われたケンジは何だその事かと軽く笑いながら受け流し、ポンとエージェントの頭を撫でる。

 

「気にする事は無いさ。何だかんだでこうなる風に望めれば俺達も本望だし……何よりもあの事情も知ってるだろ?」

「ええ……正直寝返った理由が回路によるショートだとは思いませんでした……」

 

 当初、グリフィン内部でまさかの鉄血兵達があちらこちらと居た事にエージェントは驚いていたが、それまでに至った経緯を教えたらドン引きされたのは言うまでも無かった。

 しかし、彼女は本当に実現させたんだとケンジ達の認識を改める切欠となった。彼等ならば自分達の在り方を変えてくれるかもしれないと。

 

「念の為にさ、アイザックに頼んでエージェントやデストロイヤーにも鉄血側とのリンク切断したけど……本当に裏切って大丈夫だったのか?」

「気にしていません。元を言えば私があの場所で演奏をしていた貴方に惹かれたというのもあります。そして、会う度に話し、デストロイヤーを連れて行く羽目になったり、最悪の結果として鉄血の仲間に知られてしまいましたが……あの時に助けてくれた事には本当に感謝していますよ。ただ、貴方に負ってしまった傷が……」

「ああ、背中の事?大丈夫。本当に掠っただけだったらしいから暫くすれば傷も治るよ」

「そういう訳にも行きません」

 

 幸いにも直撃ではなかったので、命に別状は無かった。それでも、エージェントからすればまだ感謝し足りないので―――

 

「せめて、これを受け取って下さい……」

「え?」

 

 クイッと首が引き寄せられ、暖かい感触が口元に触れる。言うまでもなく彼女からのキスだった。いきなり強引な方法で来たのか唖然となったケンジだが、理解した瞬間に段々と顔が赤くなって来た。

 

「お、お前……!」

「駄目、なんて事はありませんよね?」

「ったく……こういうのはムードとかタイミングとか考えろよ……でないと渡し損ねるじゃねぇか……」

「え……?」

 

 ポケットから何か取り出すケンジ。それは小さい箱だったが、中を開けると1つの指輪が入っていた。なんと、今度はケンジからエージェントに向けての贈り物だったというのだ。しかもあの誓約の証の際に送られる指輪付きで。いきなりのカウンターにエージェントは戸惑わずにはいられなかった。

 

「あ、あの……何故これを……?」

「まあ……つくづく思ってたんだけどよ……お前って結構綺麗だなって思えて……話し合う度、ドキドキしてたの悟られない様にするの大変だったんだからな……」

「………!」

 

 更にカウンターをヒットしたのか、今度はエージェントが真っ赤になった。

 言うまでもなく、2人は何時の間にか相思相愛になるまで発展していたらしいのだが、身分や状況など色々と複雑だったが故に中々言い出せずにいたとの事だった。

 

「もう……貴方という人はずるいですね……」

 

 きっと幸せというのはこういう気持ちなのだろう。今までに無い甘くて蕩ける様な膨れ上がる気持ちが抑えられず、エージェントはずっと彼を求め続けるのであった。

 ちなみにこっそりと覗いて見ていたデストロイヤーがあわあわと真っ赤になったり、UMP45やM16に覗かれてはニヤニヤさせられたり、結婚おめでとうとエル達に祝われたりと、色々と騒がしい日々が続いたそうだ。




あんまりシリアスが続くと本当にボケるネタが出ないから困るんだよなぁ……(白目)
ただ、戦闘とかはマトモに書かないからね?何があったとしても「おいおいおいwww」という感覚で笑わせなきゃ駄目な気がするから。

UMP45「だったら遊んでないでさっさとやれば良いのに」
作者「無理。つーか、ゲリョスが倒せないからウザい。硬過ぎてワロエナイ」
UMP40「モンハン歴は?」
作者「長老クエストの2のイャンクック先生が倒せずに挫折した。その時は中学の時。今じゃ普通に倒せるし、リオレウスやドスガレオスとか普通に狩れたんだけどね。ついでに切れ味補正とかスキルの奴考えていなかった……防御力じゃなくて、スキル大事なんだね。まるでゴッドイーターやってた感覚だったわ……。」

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