「ここら辺のはずなんだが……」
百貨店や飲食店が立ち並ぶ商店街。
そこに、学校からの帰路に着く学生や仕事帰りの会社員たちなどという日常の光景には似つかわしくない怪しい動きをしたスーツの女の姿があった。
手には何やら振り子のような物を垂らしており、ぶつぶつと小声でつぶやいていることもあってか怪しさをさらに倍増させている。
「ダウジングが狂ってきてやがる……はあ、しゃーないか」
女はやれやれという風に振り子を内ポケットへとしまうと、夕日に陰り始めた商店街の裏路地を見た。
「はてさて、鬼が出るか蛇が出るか……」
女は手に持っていた鞄から、一冊の古ぼけた本を取り出し開く。
ふと周囲を見て見れば女のいる周囲からは人の気配が薄なってきており、まるで
「よっし、いきますか!」
女がそう言うと、触れもしていない本のページがめくられ始めた。
パラリパラリと乾いた音を立てながら捲られていき、ページはある場所で止まった。
記載される文字列は暗黒の記録の一つ、そして女の口から紡がれる詠唱によって現れるは魔術師の剣にして杖であるモノ。
『バルザイの偃月刀!』
女はバルザイの偃月刀に、闇が深まる場所。 少し前とある青年が迷い込んだ黒い街へと足を踏み込んだ。
「祝え! これなるは仮面戦士を記録する魔導書『仮面黙示録』と契約を果たし、邪悪なるものを打倒す偉大なる人の守護者。 その名も
刻の傍らに浮かぶデフォルメされたマフラーの男の声が、黒の街へと響いた。
「おっおいどうなってるんだこれ!? 俺どうなってんの!?」
「落ち着き給え我が魔王。 ただ変身しただけじゃないか」
「変身?」
「ああそうさ。時折罪なき人々を襲う闇のモノたちを影ながら救う仮面の戦士、君は今それになっている……と無駄口を叩いている場合じゃないようだ」
「え」
マフラーの男が刻の前方へと指をさす、それにつられて顔を向けて見れば、そこには先ほど吹き飛ばされた怪物が立ち上がり、今にもこちらに攻撃を仕掛けようとしている瞬間だった。
「ぐっ」
認識した瞬間にはもう手遅れ、もろに攻撃を受けて刻はまた吹き飛ばされてしまった。
「いっ……たくない?」
「それはそうだろう、今、君の身体能力や耐久力は人のそれを軽く超えている。 オリンピック選手何て目じゃないくらいにね」
「そうなのか? なら」
刻は立ち上がりこぶしを握り締める、力強く地面を蹴ると怪物へに向かって走り出した。
その走りは先ほど殴りかかったときとは比べのにもならない程の速度を出しており、容易く怪物の懐に入り込むと、拳を叩きつけた。
「■■■!?」
怪物はなすすべもなく、先ほどの刻と同じように吹き飛ばされると、ビルの壁を突き破り崩れた瓦礫に生き埋めになった。
「こういうこともできるってわけか……ざまぁみろってんだ」
刻が先ほどの仕返しと倒せたと思い、喜んでいると、マフラーの男が真剣な表情で告げる。
「仕返しが成功して喜んでいる所悪いが我が魔王」
「ん、なに?」
「どうやらまだ倒せてはいない様だ」
瞬間、瓦礫が吹き飛んだ。
そこには、黒い血液のような液体を流しながら立ち上がる怪物の姿があった。
「マジかよ……なら今度こそ」
刻が再びこぶしを握り、怪物に殴りかかろうとした時だった。
「いやまて、何か様子がおかしい」
マフラーの男に止められ怪物を見れば、怪物の頭部に当たる部分が縦に裂け鋭い歯が剥き出しになっていた。
「■■■■■■■!」
開いた口より、身の毛もたつような声が滲みだす。
――それは、世界を犯す言葉の羅列。
暗黒の者どもが扱う、正気を狂気へと変えてしまう
「なんだ!?」
空より、無数の羽音が刻の耳に届いた。
見上げれば、怪物の群れが空を覆いつくすほどの数が飛び交っていた。
「多!?」
驚きに目を見張るが、怪物の詠唱は止まらない。
「■■■■!!」
突如、空を飛ぶ怪物たちが詠唱をしていた怪物に食らいついた。
「なんだ、仲間割れか?」
共食いを繰り返す怪物たちの体ははだんだんと巨大化していき、そして一体になる頃にはの四階建てのビルほどの大きさまで巨大化してしまった。
「おいおいおいおい、何だよこれ!?」
「ふむ、共食いによる同一化、といったところか」
「関心してる場合かよ!」
「なあに、この程度、我が魔王にとっては何の問題もないさ」
「こんなの相手にどうしろってんだよ」
「その答えは、もうすでにご存じのはずだ」
その瞬間、刻の脳裏にとある映像が走った。
――それは、どこかの記憶
『なんか、行ける気がする!』
――それは、二十番目の戦士の記録
『俺の将来の夢は、王様になること』
――最高最善を謳う、
映像が途切れるとともに、刻の口より呪文が走る。
「これ成るは、偉大なる時の王者の一撃!」
『術式起動――
現れるは無数のキックの文字。
文字は怪物を囲うと、その動きを拘束、あふれ出る膨大な魔力は刻の足へと収束されていく。
「はっ!」
刻が大きくジャンプし怪物の上を取った。
「はああああああ!」
そして、怪物との間に現れた連なるキックの文字を通って怪物に強大な威力の蹴りを叩きこみ、そして怪物の体を貫通し地面へと着地した。
「こんどこそやった……か?」
「ああ、当然の勝利だ」
「そうか……って視界が遠く」
そういうと、刻は地面に倒れ変身も解けてしまい気絶してしまった。
「おやおや、初の実戦で緊張の糸が切れてしまったか……さて、どうしたものか」
マフラーの男は元のサイズに戻ると、刻を抱えて空を見た。
空はいつの間にか元に戻っており、月夜の光が彼らを照らしていた。
次回予告?
『ここは……?』
目覚めるは見知らぬの事務所
『私はこの町でしがない探偵をやっている者だ』
そこで出会う謎の女性
『双子……風……ベェストマァッチ……』
そして現れる謎の敵!
一体どうなる刻の人生!
次回 その女、魔導探偵
※作品の内容は突如変更になるかもしれません