■影差し編【Ⅲ-Ⅰ】
「では第一回! 部活動主催、ガチンコ料理対決を行う!」
園崎さんの言葉を合図に、クラスで地震が起こりそうなほどの歓声があがった。まるで誕生日パーティーでも行われるような勢い。クラスメートもノリというものをよく分かっているようだ。
昼休みであることを良いことに、各々が言いたいことを騒ぎ合っている。先生から叱られるという考えも毛頭ないようだ。
自分もそのノリに合わせないといけないのだろうが、少し乗り遅れ、その間にも話は進んでしまっていた。
目の前に置かれた六つの弁当を指差しては誰が作ったものかを宣言している園崎さんは実に楽しそう。それに他のメンバー。自分が勝っていると思っているのだろうか、その目には自信が見えている。それぞれ相手の弁当を凝視しては自分の弁当を見比べる。そんな視線の交差が行われていた。
そして観客であるクラスメートも料理を見つめている。
「さて、一通り紹介したところでルールを説明するよ! 今回のルールは至ってシンプルでみんなに食べてもらって、見た目、味からどれが一番食べてよかったと思えるかに投票してもらうよ」
「見た目も判断基準なのか?」
前原君が手を挙げ、みんなが思ったであろう質問をしてくれる。
「そりゃあそうだよ圭ちゃん。見た目もおいしそうじゃなかったらダメだからねえ!」
「なるほどな。見た目も採点基準か……」
「な~に? 圭ちゃんはそこに力を入れたってこと?」
意地悪く前原君を見つめる園崎さん。多分言葉だけで、実際は前原君のことを出来ていないものだと考えているに違いない。
「私たちは投票しないのかな、かな?」
「あたしもそれは考えたんだけどねぇ。みんなは投票無しにした方がいいと思うんだよ」
園崎さんがそう言うけど何か深い意味などがあるんだろうか。
もしかしたらただの気まぐれかもしれないけど、一応聞いてみることにする。
「ん? そんなのただの気まぐれに決まってるじゃないか」
僕の予想通りの答えだ。
いつも園崎さんは気まぐれで色々してくるからなあ…………ん? まだそんなに日が経っていないのによく分かったなー。
「どうしたの? 孝ちゃん」
「いや、別に」
園崎さんと出会って数日しか経っていない。確かにその間、たくさんの遊びやゲームをしてきた。
でも……僕は園崎さんがそんな人物だと確定するような行動を見てきていない。
それだけ園崎さんのキャラが強いということなのだろうか。まぁそうなると前原君とかは滅茶苦茶個性があるといえそうだけど。
「どうしました、孝介さん?」
気づかないうちに顎に手を当てて考えていたようだ。いつもと違ったポーズにみんなが気になっているようで。それが不思議、もしくは考え事をしているのだと感じたのだろう。
北条さんがそのように言って、僕の様子に対して疑問を抱いていた。
「あ、ごめん。ちょっと考えててさ」
「なんだ? 勝利するための方程式でも考えていたのか?」
一瞬でも考えていない内容なのだが、今の状況的にそれで話を通した方が変に探られないで済むだろう。
「うん。まぁそんなところ」
「はぅ~。今日の孝介君、張り切ってるよー」
「ははは……。まぁ今回は……ね」
正直食べ物が無かった時点で、多少テンションは下がっている。
昨日の一件は片付くことが出来なかったのだが、それを言っても園崎さんたちには通用しない。
それどころか負け犬の遠吠えと考えられてしまう。そうやって弄られるのも嫌だったから僕は黙って頷くことにした。
「そういうレナも自信ありそうに見えるねー!」
「うん! みんなに喜んでもらえると考えると楽しかったし!」
「魅音はどうなんだ? お前が弁当を作るなんて聞いたことがないが」
「あっはっはっは! それは蓋を開けてみてのお楽しみってやつだよ!」
「……ボクたちも負けないのです。昨日は朝早くから頑張ったのですよ」
「そうですわね! 昨日は誰かさんのせいで早起きしないといけませんでしたし!」
僕と前原君は心当たりしかないので苦笑いしか出来ない。
「よーし、じゃあみんなの意気込みを聞いたところで!」
「あ、聞いてたんだね。意気込み」
「はいはーい! みんな静かにしてぇ!」
手を叩いて、温まった場を一旦仕切ろうとしていた。園崎さんは続けて片手をあげると、僕らを一通り見渡した。
「じゃあ先鋒は誰がいく? 出たい人は手をあげてもらおうか」
先鋒というのはその後の基準となりやすい。つまりよくも悪くも影響の差が出やすいというものだ。
となれば出る者は必然的に自信のあるもの、多少の経験を積んでいるものとなりやすい。
だからこそ、彼女が手をあげたときは「やっぱり」と口ずさんでしまった。
「レナが行く!」
幸先よく立候補したのは今日の優勝候補No.1。この大会自体を一番楽しんでいる様子の竜宮さんだ。彼女は手を何度も上げ下げしている。
みんなの表情をさっと見るが、誰もこの状況に焦りを感じていない。やはりみんな分かっていたことのようで、それはギャラリーに対してでも同じだった。
「よし、じゃあ箱を開けてもらおうか」
「レナはね、みんなに食べてもらうために色々作ってきたよ~!」
箱を包んでいた紐を解き、綺麗な三段式の重箱を開けると周りから感嘆の声が漏れていた。それは喉を鳴らしたくなるような匂い、そして色とりどりに置かれた料理が並べられている。唐揚げに、卵焼き、そしてタコさんウインナーなど、このままピクニックに行きたくなるような、そんな弁当だ。ごはんもおにぎりにしていて、みんなが食べやすいようにと彼女なりの配慮が光っている。
序盤から圧倒的だ。竜宮さんの力は分かっていたからこそ、ライバルとしてふさわしいもの。
「さぁ、みんな食べてー!」
「「「はい!」」」
みんなが箸を手に取り、好きな物を漁っていく。反応としては上手い、おいしいといった料理の味についてをキチンと評価しているようだった。
「俺たちは食えないのか?」
前原君も竜宮さんの弁当を食べたくて仕方ないようだ。
「一口くらい食べてみたいんだが」
「圭ちゃ~ん。今回は対決なんだから、相手の弁当を食べたらだめだよ」
「いや、でもこれは上手そうだぜ……」
「圭一さんの場合、そうやって味付けに細工をしそうですわー」
「そんなことしねぇよ!」
「味の付け方を間違えそうだしねぇ。偉いものが出来そうだね」
「お前ら俺をバカにしすぎだろ!?」
3人のやり取りを後目に僕はギャラリーの表情を見ていた。
竜宮さんは凄い。やはり安定感というか、慣れていることが今まで通りのやり方でいこうと考えたのだろう。正直それは上手くいっているし、子供にとって親しみやすい味としてよいと思う。
だけど子供たちには食べることはしてもがっつくまでには至らない。つまり今まで通りなのだ。
今回の竜宮さんは対決というのに、あまり普段と代わり映えしないのが特徴。だからこそ意外性が感じられないのだ。それではどうしても評価として入れにくいものがある。
今回それが吉と出るか凶と出るか。非常に悩ましいものだった。
「みんなー! 食べてくれたー?」
「とってもおいしかったです! 満足っす!」
あっという間に無くなった弁当の中身を見ながら園崎さんが言った。
「中々に良い先陣を切ってくれたねー。さぁ、次は誰がいく?」
部活メンバーは誰も挙げずに、少しの間があった。みんなも注目する中、数秒が経過。互いが互いを見つめ合う。
次に出るのは正直怖いものだ。安定感のある竜宮さんとのタイマンをしないといけない今、勝つ自信がある者でないと出にくい。自分の食べ物はどっちにしても後出しじゃないといけないのだけど、他のメンバーも出しにくいことは間違いないだろう。
相手の手札が分からない以上、安易に竜宮さんと対決しその後で大目玉喰らうなんてこともありうるのだから。
誰が出て、どんなものがあるのか。……なるほどガチンコ対決であることは間違いないようだ。
無言の心理戦が場を占める中、ついに手を挙げる者が現れる。
「……次は僕が出番なのです」