「さて、投票も無事終了したし、結果発表に移ろうと思う!」
園崎さんの発声にみんながどよめく。教卓の前に立つ園崎さんが高らかに手を上げると、椅子や机に各自座っていたクラスメートも腕を突き上げ、歓喜をあげていた。
何せ待ちに待ったといえる結果発表なのだから、期待に胸を膨らませるのは当然だろう。アルミ製の箱に入れられた紙は集計済みらしくて、その結果は園崎さんしか知らない。票の操作などの不正は行われないように、みんなでその様子を眺めていたから不正もないだろうし、とにかく結果がどうなるのか知りたかった。
「では早速1位――――の前に2位からの発表にする!」
「あ、2位からなんだね」
「確かに1位を先に発表してしまうと興ざめだもんな」
机の上に座っていた前原君が納得したように頷く。
「もう一度確認するけど、罰ゲームは1位の人からの命令だからね」
「……了解なのです」
「誰が罰ゲームを受けるのかな?」
「まるで自分だけは違うみたいな言い方だね」
確かに竜宮さんの料理にはそれほどの自信があるのかもしれないけど、さてはて結果はどうなるのやら。園崎さんはみんなの顔を一人ひとりじっくりとみていくと、何も書かれていない黒板を強く叩いた。
「2位は…………竜宮レナ!」
その瞬間、竜宮さんが椅子から立ち上がって喜んだ。
「はぅ~! やったかな、かな!」
「どうやらみんな。日頃慣れ親しんだ味だったから評価は高かったようだね。レナが2位も納得出来るよ」
『実際おいしかったのもありました』
誰かがニコニコさせながら理由を述べてくれることを竜宮さんは「ありがとー!」と感謝していた。2位という結果は彼女的に好印象であるようだ。まぁ、罰ゲームなど受けるよりも上位に入っていることの方が嬉しいだろうから。
その後も園崎さんの発表は続いていく。
「その次は……北条沙都子!」
「え!?」
発表受けて、北条さん自身が驚いている。まさか自分がこんな順位になるとは思わなかったのだろう。
「ほ、本当ですの?」
「私が嘘つく理由なんてないからねー。ほら、みんなの感想を聞いてみなよ」
『油っこいからなんて言ってたけど、味は誰よりもおいしかったよ。ほんと、食べれないなんて言ってごめんなさい』
『最初は竜宮さんと思ってたんだけど、味勝負だったからかな。やっぱりおいしかったのは素直に北条さんだった』
「みなさん……」
他のクラスメンバーの評論を受けて珍しく感極まっている北条さんであった。
「さぁて、これからもどんどん言っていくよ~! 時間ないし」
「確かに結構時間経ってるからね」
試食含め、昼休みの時間はもうほとんどない。みんながスムーズに進めてくれたからこそ、この後はポンポン進めていかないといけない。
「えーっとね――――」
その後続いていく発表で名が出たのは、4位園崎さん、5位前原君だった。
お互いに奮闘はしたのだけれど、やはり上位に比べると何か見劣りするモノがあったようだ。
感想を聞いていると、味という点で子供は影響を受けやすいのがよく分かる。高級食材を使ったとしてもやはり世界の狭い舌では味の区別が出来ないようだ。親しみやすい味を求めるべきだったと悔やむ園崎さんは次の戦いに向けての意気込みを語っていた。
因みに前原君は5位だったことに対しては温情の部分が多いようだ。流石に料理というにはほど遠いけど、努力していたことについては認めての……という人が投票したようだ。
「くそ! 流石にノリを巻くべきだったか……」
「いやそういう意味でもなかったと思うよ?」
「まぁ圭ちゃんにはこれからも分からないことかもしれないし」
残ったのは2人。
僕と古手さん、この2人だけの状況。園崎さんが最下位を言わずに1位を先に言うと言ったとき、古手さんがトコトコとこちらに歩み寄ってきた。
「……みぃ。勝負なのです」
「あーうんそうだね……」
「どうしたのです? もう悟ったような顔をしてますわよ?」
「ははは……だってその通りだし」
北条さんが首をかしげているが、園崎さんは僕の顔を見て腹を抱えて笑っていた。
「あっはっは! 孝ちゃんは諦めが早いねぇ」
「こんな状況で笑えるわけないじゃないか!」
「何さ。あれだけ自信があったのに、ここにきて弱気かい?」
「うぅ……もういいから早く発表してよ……」
「はいはい。1位は梨花ちゃんだよ」
分かり切っていた話である。あれだけのインパクトを残してなお勝ち目があるとは思えなかった。
古手さんはこちらに来たかと思うと頭を撫でてくれた。
「みぃ。かぁいそかぁいそなのです」
上から目線の慰めにしか見えない行為は自分の心を癒してくれるどころか、深く掘り下げてくれたような気がした。
「結構接戦だったからねー。ほとんど票は変わらなかったしねー」
「本当に?」
「だーかーら。卑屈にならないでよぉ、実際そうなんだからさ」
「そうだぜ。勝負に敗北はつきものだ」
「あーあ。やっぱり味を付けられないのがきつかったか……」
その後みんなに聞いて回ってみると、やはりその部分が大きかったようで。その他にも評価しづらい微妙な点が多かったという。まずデザートという点でどう評価していいのか分からないし、味の差を感じにくいのがあったという。
みんなより努力をしている部分が少なくみえたのも評価として低く見られてしまったようだ。
それと違って古手さんは懐かしの味でみんなの心をしっかり掴み、なおかつ母親の味という身近に評価できる素材を使ったことが勝利を招き入れたようだ。
竜宮さんとは良い勝負していたのだけれど、やはり食べなれたものよりは新鮮な物に目を引かれやすい子供は古手さんの料理がよりよく見えたようだ。
「どうやら梨花ちゃんは味という評価で圧倒的だったらしいからね。ま、負けてしまったのは仕方ないよ」
園崎さんもそう評価して古手さんを褒めていた。いや、僕を慰めてくれたのか?
「しかし私が3位だなんて……」
北条さんが茫然と結果を受けきれていないようで、前原君が肘で北条さんの肩をつついていた。
「なんだ、ショックなのか?」
「当たり前ですわ。1位、悪くて2位を考えていましたのに」
「よく言うぜ。さっきまで最下位かも、なんて弱気吐いてたのに」
「う……それとこれとは別ですわ」
「はう~。沙都子ちゃんもお疲れ様」
「ま、試食したとき沙都子の味には勝てないと思ってたけどな」
「圭ちゃん。いくらなんでも、おにぎりで勝とうなんて無理あるから……」
「みぃ。残念なのですよ、沙都子」
「梨花ぁ。それは嫌味ですの?」
勝者である古手さんからの言葉に北条さんもかみつく。
とにかく良かった。楽しそうにしている北条さんは先ほどのような陰鬱としたものはない。この間に自分も北条さんの評価を褒めておこう。きっと喜んでくれるはず。
「北条さん、おめでとう」
「孝介さん。最下位ですのに嬉しそうですわね……」
「確かに少し悔しいけど、でもこればかりはね。北条さんもちゃんと部活で勝てたんだから、良かったと思うよ」
「ま、まぁ? 私も朝早く起きて準備したんですからこれぐらいは出来て当然ですわ」
顔を赤くしたようで、誤魔化そうと顔を下に向ける北条さんはいかにも子供らしい逃げ方だと思った。
「偉いね、北条さんは」
そう言いながら、手を頭の上に置く。僕なんて朝のちょっとした時間で作ったものなのに、北条さんみたいな上級者でも準備を怠っていないのだ。取るべくして取れた上位、ということなのだろう。
少し俯いていた彼女だったが、手を置いた瞬間には少しビクつかせていた。
「あ、ごめん。気に障った?」
「いえ、その……」
身体全体で反応したその仕草にやりすぎたのかもしれない。もしかしたらあまり慣れていないことなのかも。親がいないということだし、もしかしたらそうなのかもしれない。
しかし、嫌な態度を示そうとはせず自分のされるがまま、頭を撫でられることに抵抗はしなかった。
「…………にぃに」
「え?」
北条さんは何か言ったような気がしたのだが、小さな声で聞き取る事が出来なかった。
「どうしたの? 北条さん」
「いいえ、その……あの、ありがとうございます」
「あぁいいよ。僕も昔母さんによくやられたことをしただけだから」
「……そうですか」
そのまま黙りこくってしまう彼女が少しおかしくて笑ってしまう。
「な、なぜ笑いまして!?」
「いや、いかにも深刻そうに事態を重くみてそうだから」
「そうだねぇ、孝ちゃん。自分も今の立場を考える、という意味では一緒のはずだけど?」
忘れていたとは言わないけど、やはりそれ言われると辛い。周りを見ればすでに臨戦態勢。目に眼光を宿して、いつでも抑えつける準備は出来るよと手をわなわなと動かしていた。
「罰ゲームの内容は一位の人が最下位に罰を与える……だよね?」
「さて、梨花ちゃんは一体何をご所望なのかねぇ!」
僕の不安をあおるかのように、園崎さんはわざとらしい口調で古手さんに尋ねる。さてはて優勝者さんは一体何を望むのだろうか。もしかしたら神社の清掃なんて頼まれるのかも。いや、それよりも賽銭箱に有り金全部おいていけ的な恐喝もありえる。
「……みぃ。やってもらいたいのはたった1つなのです」
ちょっと間を作ったかと思うと、古手さんは北条さんの肩を叩いた。
「……沙都子と一緒に買い物行ってもらうのです」
「…………え?」
意外な発言に耳を疑ってしまった。何か物凄く簡単な罰ゲームを言いつけられたような……。それは他の4人も感じ取っているようで、古手さんに再度の確認を取っていた。
「おい、そんなんでいいのか?」
「……構わないのです。沙都子には今日買い物を頼んでいるのですが、荷物が多くなりそうなのです」
「なるほどね。荷物が多くなりそうなのを孝ちゃんでお願いしようと」
「……その通りなのです」
「えっと、それってどれくらいなので?」
「……にぱ~☆」
「う~ん。笑うだけじゃなくて正直に言って欲しいな~」
まさかこんな事態になるなんて誰が予想していたのだろう。買い物に付き合わされる。それ自体は構わないのだけれど、荷物がどれほどのものなのか、部活として執り行われていく以上、厄介なことしか考えられない。
北条さんの方を横目で見てもそれは同じであった。
「それは……遠慮なしで?」
「……当たり前なのです」
「了解ですわ。梨花は今日は家に帰ってゆっくりしてくださいまし」
なるほど、古手さんはこうやって楽をしようというのか。確かに買い物は大変だし、今日行くとなると――――て。
「え、今日なの?」
「今日スーパーに行きますわ」
……うん? すーぱー?
「えっと、スーパーってここらへんにあるっけ?」
「ないね、近くにはないよ」
「えーじゃあどこまで行くのでしょうか……」
「それは――――」
その言葉を聞いた瞬間、明日は全身筋肉痛で登校しなければならないのかと悲観的になってしまった。