ひぐらしのなく頃に 決 【影差し編】   作:二流侍

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■影差し編【Ⅲ-Ⅵ】

「では、これも持ってくださいませ! それと、これもですわ」

「あの、それはこの惨状を見ての判断でしょうか?」

「孝介さん。私が聞いてるのはたった一言ですわよ?」

「はい……」

 

 落としそうな袋の山を抱えなおしながら小さく嘆息する。顔が隠れそうになるくらいの大きさ、通称マウント富士の量を腕で支えながら、北条さんに荷物を乗せてもらった。今回は小さな食品のおかげでバランスを取る必要はないけど、重みが増したことだけで心が折れそうだ。

 今は大丈夫だとして、帰り道はこれを持って帰るんだもんね……。

 私ごとを気にもしてくれない北条さんは次から次へと、僕に買うものを要求しては荷物持ちをさせていた。流石にお金までは強要はしてこないけど。

 

「そして、これを買ってくだされば、今日のところは大丈夫ですわ」

 

 新たな追加。うん、このセリフを聞いて何回目だろうなぁ……。気を緩まさせてからの下げ方は流石の罰ゲームといえそうだ。肉体的にも精神的にも追い詰めてくるね。

 

「では、帰りますわ。孝介さんはそのままキープでお願いいたします」

「これ以上動いたら落ちそうなんだけど、どうしよう?」

「落ちてもまた拾えばいいだけではありませんこと?」

「ほほほー……」

 

 にこやかなのにさらっと毒を吐くよねーこれ崩したらどんな悲劇が待っているのか分かっているだろうにー。しかも小物が多いから拾うの大変そうで、本当に意地悪なことに頭が働くこと。これからも北条さんのことは気を付けないといけない。

 ……それにしてもこれだけの量を買う事が出来るなんて。多少は自分のことを考えてのことだとは思うけど、安い商品を量や質をきっちりと考えて購入しているし、北条さんは買い物上手なのかもしれない。

 

「やっぱり買い物情報とかしっかり把握しているの? これだけの量、中々そろえられないよ」

「そうですわね。朝はチラシの確認とかよくしますわ」

「これだけの量を手軽な感じで買ってたし、やっぱりそういうのをしてるとは思ってたよ」

「情報は大切ですわ。トラップでもそう。これからは相手の情報は気にするべきですわー」

 

 積まれた手荷物のせいで北条さんの姿が分からないけど、多分得意げな顔をしているんだろうな。

 

「助言痛み入りまーす。本当に抱えることになると思ってなかったので」

 

 最初の方は手で掴んでいた方が楽ではないかと言っていたのだ。どうせそれほどまでの物ではないのだろうと。そんな楽観的に捉えていたら、あれよあれよの間に荷物を掴みきれなくなったのである。

 

「罰ゲームなんですもの。あまりにも簡単でしたら、意味がないですわ」

「うぅ。それでもこれはきつい……」

「先の分も考えての購入もありますので、非常に助かりますわ―」

「ついでに僕が落とす未来を考えてくれると非常に助かりますわー」

「……ならもう1つ買ってもいいですわよ?」

「すいません」

 

 これ以上は商品と商品の隙間から覗いて歩くことさえできなくなってしまう。視界の悪さを正直に言わせてもらうと、素直でよろしいといった返答をもらった。北条さんも流石に僕の現状を理解してくれるようだ。まぁ見えなくて歩けない、といったハプニングがあったら困るだけなのかもしれないけど。

 

「後は家まで運んでくだされば結構ですわ」

「あー……これは苦行だなぁ……」

「ほら、さっさとしてくださいまし!」

「はいはい!」

 

 足音がどんどん遠くなるような気がする。並行して歩いてくれると思ったのに、まさかの先行である。一応隣町のここ興宮では舗装された道路なので、敷き詰められた石の地面を目印にしながら歩く。とりあえずこれで真っ直ぐ歩いているつもりだ。

 

「孝介さん! 早く!」

「そんな無茶な……」

 

 こぼれる悲痛な呟きを聞かずに指示を飛ばしてくる北条さん。

 

「孝介さん! 荷物が落ちそうですわ!」

「とっとと!」

「孝介さん! 危ないですわ!」

「今度は何――――ってわ!!」

 

 ついに山と積まれた荷物が瓦礫のように崩れてしまう。商品に気を取られていた僕は並べられたバイクに気付かず、横から体当たりする形でぶつかってしまう。条件反射で態勢を整えようとした手は荷物から離れ、バイクのサドルを握る形で掴もうとしていた。

 幸いなことにバイクは倒れなかった。しかし食品、道具などがぶちまけられて派手な音を立ててしまう。

 

「あー……最悪だよぉ」

 

 そもそも何で歩道の真ん中にバイクを駐輪しているのかが分からない。全くこんな場所に置いた人の気が―――――

 

「おいあんちゃん! 何やってるんじゃ! ああん!?」

「へ?」

「こっちじゃこっち!」

 

 腕を掴まれて強引に引き寄せられたかと思うと、目の前にリーゼントが現れた。

 

「は、はい!」

「お前さん、俺さまのバイクに何傷つけとんじゃこらあ!」

 

 どうやら面倒なのにからまれてしまったようだ。これは大変なことに。

 

「あ、あのぉ……」

「とりあえずこっち来いこらあ!」

 

 駄目だ、取り合ってもらえそうにない。襟首を掴まれたまま、店の壁側まで連行され、そのまま壁にたきつけられる。背中が痛いけど今はそれどころではない。目の前にはもっと痛いことが起きそうな予感しかしなかった。

 別にバイクを傷つけていないはず。しかし相手には商品をぶちまけ、少しでも汚したことが気に食わないようで。何とか弁明しようとしたけど、そもそもこういう人にはどう対処をすればいいのか分からなかった。

 口をわなわなと動かすだけで、言葉を出すことが出来ない。

 

「はっきり喋れや!」

 

 そのせいか、ヤンキーの怒りは更にヒートアップすることになる。

 

「え、えぇと……」

「ちょっと! 待ってくださいまし!」

「あぁん!?」

 

 北条さんが慌てる僕を見かねたようで、助け舟を出してくれた。しかし、相手は既に沸点が振りきれて頭から湯気が出そうな状況。説得に応じてくれるのか……。

 

「確かにバイクにぶつかったことは認めますわ! しかし、そちらも歩道のど真ん中に駐輪していらしてよ。私たちが悪いと考えるべきではないと思いますわ!」

「うっせぇ! こっちは高い金払って買ったこ・う・きゅ・う、バイクなんだよ! お子様が買うようなおもちゃじゃねぇんだ!」

「で、ですが!」

「うるせえんだよ!!」

「ひぅ! う……」

 

 相手が面倒に思ったのか、僕から離れて標的を変えた。蛇に睨まれたカエルになってしまった北条さんはなすすべもなく持ち上げられる。

 

「おらおら! さっきの威勢はどうした!?」

「うぅ……」

「ちょっと、彼女は関係ないじゃないか!」

「黙れや!」

「そんなことしてて黙ってるわけないだろう!」

 

 とりあえず彼女を助けないといけない。そんな気持ちしかなかった。

 北条さんの胸倉を掴む手を振りほどかせようと、震える足で相手を蹴る。

 

「いってぇ!!」

「北条さん、大丈夫?」

「げほ、がは……」

 

 むせている北条さん。かなり強く締め上げられたようで、喉元を抑えて苦しんでいる。

 北条さんは肩を震わせていた。目も見開いているようだし、やはり先ほどの威圧にやられたのかもしれない。それでも彼女はヤンキーを見続けている。屈してはいけないとばかりに、強い意志だけは失っていなかった。

 その姿を見て、ようやく自分の弱さに気付いた。

 僕が招いたこと、それを北条さんに任せるなんて違う。そう思わせてくれた。

 身体を奮い立たせ、北条さんとヤンキーの間に割って入った。目的はただ一つ、標的を僕に向けさせることだ。

 

「無抵抗の子供に手を上げるな、このリーゼント野郎!」

「あぁん!? 俺様のアピールポイントだぞ、ごらぁ!」

「自分がバイクにぶつかったんだ。責めるなら僕にしろ!」

「こ、孝介さん……」

「いい度胸じゃねぇか! おらよ!」

 

 一瞬何が起こったのか分からなかった。気付けば床に転がっていて鼻が硬球をぶつけられたかのように痛かった。

 

「孝介さん!」

「おらおら! もう一発行くぞ! いいのかぁ!?」

 

 痛み、響く僕の身体にうめき声を上げるだけが精いっぱいだった。

 相手はそんなこと気にせず、腹を蹴ってくる。

 お腹の中身がかき回されたようだ。正直意識を手放した方が気が楽だと思わせるほど痛い。

 更に相手のターンは続く。肩、腕、足、手のひら……。身体の部位を徹底的に壊していくような攻め方に身体を縮めるしか防御策が思いつかない。寸でのところで意識が残っているのに相手の悪意を感じてしまいそうだ。

 

「おいおいおいおい! その程度かぁ!?」

 

 まずい、口の中は血の味で満たされてしまっている。こんなの、感じたこと無い痛みだ。気絶してしまえば死んでしまいそう。

 ……。

 ……本当に、そうだっけ?

 

「やめて! やめてくださいまし!」

「うっせえ! こっちは大人の礼儀ってやつを教えてるんだよ!」

 

 北条さんが悲痛に叫んでいるけど、それに応える声を上げることさえ出来ない。流石に周りに人だかりができているようだ、視界がぼやけてはっきりとは見えないが、雑音が大きくなったのが分かる。

 

「うぅ……」

「おら! 早く何か言えや!!」

「僕の……せいだ…………北条……さんは関係……ない!」

「そうかよ!」

 

 もう一発受けたような気がした。

 

「……にぃに! にぃにい!」

「あぁん、こいつは兄貴なのか。糞みたいな兄貴を持つと大変だ、な!!」

 

 また腹だ。蹴られているのは自分なのに、もうどこか遠い自分に感じてしまっている。

 アニメや小説ならここでかっこよく相手を倒しているんだろう。でも、これが今の僕だ。本当に無力で笑えそうになる。所詮、こういう場所でいいようにやられる人でしかないのだ。

 

「やめて、もうやめてぇぇえええ!」

「おら、意識飛ぶには――――」

「その辺にしたらどうです?」

 

 連続的に攻められ続けた暴行が止んだ。それだけはすぐにわかった。

 

「あぁん!? ……てめぇ。何様のつもりだ?」

「うーん。あなたのレベルに合わせての下種な名前は持ち合わせていませんね」

「あん、馬鹿にしてんのか!? なめてんのか!?」

「あらら? 怒らせてしまいましたか? まぁ激情するだけの猿だと思っていたんですけど、訂正しましょうかね。猿よりも知能が低いようです」

「なん――――」

「……いい加減にしないと、この街の人間が黙っていないですよ?」

「あん?」

「あなたの行動は周りの人達に迷惑です。突出させるのはリーゼントだけにしてください」

「んだと」

「私は構いませんよ? この多勢を相手にあなたがどこまでやれるか、興味がありますので☆」

「…………」

「……うじうじと情けない。どうするんですか?」

「……ちッ」

 

 何の会話をしているのだろうか。そんなことを最後は考えていたような気がする。ようやく訪れた安心感に必死に繋いでいた意識を手放してしまったようだ。

 誰かが近づく姿を最後に、僕はゆっくりと暗い世界に落ちていった。

 

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