ひぐらしのなく頃に 決 【影差し編】   作:二流侍

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■影差し編【Ⅰ-Ⅱ】

 朝の登校では周りを見渡すことの連続だった。村の緑あふれる景色、舗装されていない道路やまばらに置かれた電燈。村人も農業に勤しんでいる姿を何度も見た。ここでは会社勤めという人たちは小数派になるようだ。その分村人同士の交流が強いようで、行く先々で仲良く喋っている姿やカップルらしき姿を見ていた。

 友達……出来るかなぁ。

 あれだけの仲の良さを見せつけられると、ここから介入出来るかどうかが分からない。やはり都会っこと話の内容も変わってしまうのだろうか。

 何はともあれ、最初が肝心であることには変わりないだろう。目立つ必要はなくとも、友達は1人でも出来ておきたい。……性格上、量より質を選んでしまう人だし。

 肩掛け鞄を担ぎなおす。目の前の教室のドアを前にして、気合いを入れているのだ。

 ドア越しからでも聞こえる騒がしい教室を目の前に緊張していた。先ほど出会った茶髪の女の子といじわるだった男の子カップル。あの二人もこの学校の生徒だろうし、というより同じ年に近いと思えた。あの子たちなら、仲良く出来るかな。

 

「……」

 

 不思議だ。正直不安で仕方ないのに何でだろうか。上手くいくような気がする。とりあえずこのままいても仕方がない。好印象を与えるためにも、笑顔で対応していくことが大切だ。

 鏡が無いから出来ているかどうか分からないけど、目元を上げて、口角を上げればそんな感じになるはず。そう思って優しい表情を作った自分は一息ついたのち、ドアを開けた。

 

「かかりましたわね!!」

「へ?」

 

 笑顔の後の明るい挨拶。これが上手くいく秘訣だと信じていた。

 なのに嫌なフラグを立てられた気がした瞬間、立ち止まった自分の目の前に突如チョークが――――

 スコーーーン!!

 

「いったぁ!!」

 

 僕の額とチョークから良い音を発した。チョークなんてただのカルシウムの塊だと思っていたのに当たってみるとめちゃくちゃ痛い。もしかしたら後で痣が出来てしまいそうだ。

 思わず、膝をついてしまって自分の身体の状態を確かめる。外傷は額だけだし、他はないけど……。

 しかし何でこんなことをされたのだろうか。しかも初めて会ってこれから仲良くしたいという人に。

 

「何で……」

 

 いきなりの仕打ちに少しショックを隠し切れない。転校初日にこんな仕打ちにあうなんて、今後に不安を感じてしまう。もうこんな事ないと思っていたのに……。

 蹲る僕の視界に細い足が近づいてきたのが分かる。床に転がったチョークを拾いながら、面白みのなさそうに挑発をしてきた。

 

「あら、今日はいつにも増してお間抜けですわね? これはフェイクのためだったのでそこまで威力を求めていませんのに」

 

 威力って何さ威力って……。というよりこれで序の口なら、ラストは陥没してしまう威力とでも言いたいのだろうか……。こんな悪戯をする奴は一体誰なのだろう。

 痛む額を手でさすりながら主犯の姿を確認する。だが顔を上げ、相手が僕よりだいぶ年下の女の子だと知ったときは思わず驚かざるを得なかった。

 

「女の子……?」

 

 金髪に見えるショートカットの髪にカチューシャを付けた女の子。夏にあった薄い緑の制服と黄色いネクタイが悪戯好きな性格である彼女によく合う。明るい雰囲気を醸し出していた。時折見せる犬歯も彼女の行動的な性格だという物的証明に見える。

 ……静寂が訪れる。クラスの中で気まずい雰囲気が流れていた。

 唖然としてしまう僕。そして、そんな彼女も僕と同じように口を開けている。

 

「圭一さんではありません事?」

「誰? 圭一って……」

 

 まさかの人違いなのか。いや、それなら僕に謝るべきではないのだろうか。そしてそもそもこんな事をしてはいけないのではないだろうか。

 思わず文句を垂れそうになる僕を止めたのは後ろから聞こえる扉越しの会話だった。

 

『だから、圭一君が開けるべきだよ』

『へ! 今回は全部回避してやるぜ!』

 

 意気揚々とそんなやり取りの後、ガラガラと教室に入ってくる者がいた。

 みんなの視線が一斉にドアの方へと向けられる。当然自分もそうで、振り向けば朝見かけたカップルがいた。

 扉を開けた男の子の方は開けて早々柔道の構えをして、来るべき被害に対しての構えを見せていた。

 ……きっと、あの人が圭一という人なのだろう。

 数秒の間。シュールな時間が流れている。ようやく構えを解いたと思ったら、次の行動は誰かに向けた賞賛だった。

 

「……おぉ、何もねぇ! 沙都子の奴、ようやく自分の罪を理解してやめるようになったか」

「ねぇ、圭一君」

「お? どうしたレナ?」

「目の前の子……」

「――――おい! そいつって!」

「今日の朝見かけた人かな、かな」

 

 どうやらこの男の子は圭一君というようだ。同じクラスの生徒という事で間違いはない。そしてレナと呼ばれた女の子も机まで鞄を置きに行こうとしているので、クラスメートになるはず。

 ……そもそも違うクラスが存在するのかが不明なんだけど。

 とりあえずまだ展開に追いついていない。分かることはこの状況で一番の中心人物は一人しかいないことだけ。

 

「ええっと……」

 

 やはり誰という疑問がこの教室で渦巻いていた。みんなからの視線が矢のように刺さってくる。

 何か言うべきなのはわかってはいるのだけれど、このような事態を招いていてしかも転校生。大人数と喋るのがあまり得意ではない僕からしたら、恥ずかしくて発狂してしまいそうだ。

 笑顔だ。笑顔になろうと考えるのだけれど、今やれば攻撃を受け視線を浴びて喜ぶただのMにしか見えない不思議。

 どうしよう。こんな状況になるなんて考えてもいなかった。いや、考えられてもそいつの頭はどうなんだって思われそうなんだけど……。

 

「篠原さん、こんなところにいたのですか!? 何をしてるんですか!?」

 

 初めての登校をしただけです。それがこんな公開処刑に巻き込まれるなんて予想していなかったです……。

 というより新たな登場人物、今度は一体誰なのか。

 圭一君を押しのけて入ってきたのは青い髪のショートの女性だった。手には出席簿、大人びた細長い体躯、優しげでありながら厳しい一面を見せそうな瞳。

 そして何より大人がここにいるという事を考えたら、結論は一つしかない。

 

「せ、先生……」

「全く、今日は話があるので先に職員室にきて下さいと言ったはずですよ?」

 

 そういえば昨日────詳しく言えば引っ越しの日に学校行ってそんな事言われたような気がする。すっかり忘れていた。どうやら中々に大切な話だったようで、先生の顔は厳しい顔つきに変わっている。

 これはすぐにでも謝るべきだろう。忘れていた僕の失態であるのだから、そう思って素直に頭を下げる。

 

「ご、ごめんなさい……」

「……もう、次からは気を付けてくださいね」

 

 そして、と言葉を繋いだかと思うと僕に向けていた目線はレナさんたちへと変わる。

 

「これはどういう事なのですか?」

 

 やはり現状の違和感に気づいたようだ。というより気づかない方がおかしい。

 僕の額を指さして、先生は事の経緯を説明するように言った。それはそうだ。このようなハプニングがあれば先生が気になるのも当然の事だろう。いじめの現場にも見えかねない状況に、圭一という人も軽く狼狽しているように見えた。

 

「お、俺じゃねぇぞ! そいつは沙都子がやったんだぜ」

 

 首謀者と誤解されたくない彼は沙都子さんのせいだと言い張る。

 どうやら先ほど名前出された沙都子というのは少女のことで合っていたようだ。

 実際間違ってはいないのでみんな何も言えない。もちろん沙都子さん本人も。

 

「そうなのですか? 北条さん」

「……はい。私がしましたわ」

 

 素直に頭を下げて、自分の失態を認める沙都子さん。いや、北条さんというべきだろうな。

 それから先生が軽く注意をしている。当然だ、いくら小学生だとしてもやっていることは軽視出来るものではない。これからはさせないようにするためにも、今ここでしっかりと注意をしておくべきだろう。

 

「人を傷つける行為は許されることではありません」

「ほ、本当は違う人にやってもらう予定でしたわ」

「それは理由になっていません。他にする人がいるということさえいけないことなのです」

「……はい」

「分かりましたら、まずはやることがあるでしょう?」

 

 あえて明言をしないあたり流石先生というべきなのか。

 北条さんはすたすたとこちらに近づいて僕に頭を下げてきた。

 

「本当にすいませんでした」

「え、あぁ……」

 

 いきなり謝れてはこちらとしても気まずいというものだ。実際みんなが見ているのだ。今は僕の言動について注目をしている。ここで断れば一体みんなからどんな評価を受けるのだろうか。嫌な奴か、はたまた心の狭い人間か。そんな評価はされたくない。

 そもそもまだ知り合ったともいえない少女に頭を下げさせるの辛いのがある。

 この対応に対する答えは一つしかなかった。

 

「別に……いいよ。そこまで大きなけがをした訳じゃないんだから」

「それでも私はひどいことをしてしまいましてよ?」

「自覚があるようならいいよ。なら次からはしないように……気にしないで」

「……ありがとうございますわ」

 

 今度は頭を下げることもなく、笑顔でこちらを見てくれた。そちらの方がこちらとしても気が楽だ。

 ……みんなも安心してくれているようだし。先生もこのやり取りを見てよいと思ってくれたのだろう。

 僕の背中を軽く叩いてきたと思うと、そのまま先生は教壇の前まで歩く。クラスメートはいつの間にか各自席に座り始めていた。

 

「はい、じゃあ朝礼を始めましょうか! みなさんおはようございます!」

「「「おはようございまーす!!」」」

「今日は新しく来た転校生を紹介しますね! もうみんな分かるとは思いますがここにいる――――」

 

 その時廊下側からベルだろうか、カランカランと鐘のような音が聞こえた。

 

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