どうすればいいのか。その答えはいつまでたっても自分の中で渦巻いているだけ。
前原君が目の前で問題の解答を見せてくれている中で、自分は遠い所を見ていた。
授業がタイムリミットのように感じてしまう。放課後までは後1回の休憩をはさんで2回の授業。
それが早く感じる。
問題を解いていない。それどころか、ペンを動かすことさえしなかった。
「はぁ……」
ため息ばっかり、本当に何も出来ていない。
北条さんを助ける。それが出来るかもしれないと園崎さん達は言ってくれた。自分だからこそ出来て、自分にしかないものがあるって。
他のみんなも同意して、そして僕に託してくれた。
……でも、それを僕自身が一番納得出来ていない。
それは言葉の意味が分からないという訳ではない。自分が出来ることとして北条さんの傍にいてあげて、相談に乗ってあげる。不安が無いかを聞いて、そして事実を元にみんなで助ける。
それが自分の優しさがあってこその話だということも。
……でも、だからこそそれを自分がやるべきことなのかと思ってしまう。
それは自分でしか出来ないことなのだろうか。自分にあるのは以前園崎さんに言われた優しさ“だけ”。
そんな自分が出来ることなんて、みんなも出来て当たり前のことである。
前原君も園崎さんも、竜宮さんも。誰もが出来て……いや僕以上にしっかりと出来るはず。それに先生を頼ることだって出来るはずだ。それが駄目なら警察に頼み込むことだって出来る。自分よりも出来る人、方法が周りにいて、ある。
……でも、仲間であるみんなは僕を推薦してきた。
何故なんだろう。それが今の僕の授業、探すべき答えだった。
「どうして……」
やはり出てきたのはそんな気弱な台詞でしかない。
真っ白なノートはまるで自分の頭を表しているようで、嫌になって外を見ることにした。
正午を過ぎたばかりの暑さによって生まれた蜃気楼。それがグラウンドに揺らめきを与え、人影をぼやけさせている。
北条さんは外に遊びに行けているのだろうか。それとも家で籠っているのだろうか。
思い浮かぶのはどちらにしても、楽しそうな笑顔じゃない。
彼女の嫌がっている顔、辛そうな顔、悲鳴を上げている姿……みんな見たこともないのに、そんな負の感情しか見えてこない。
もしかしたら、なんて楽観的考えは出来なかった。
「痛ッ!?」
唐突にこめかみ辺りに軽い衝撃が走る。チクリとした感触に驚いて、机を見ると、丸めた紙がそこにはあった。
投げられた先である相手を確認する。
前原君、園崎さん、竜宮さんが不安を込めた目線で伝えてくる。もう一度紙を見て、それからもう一度3人を見た。
「……ごめん。心配かけたみたいで」
3人は何も言わない。目を伏せる者、目を細める者、唇を噛み締める者。全員、何かしらのアクションをしてくれたけど、口を動かす者はいなかった。
前原君が顎をしゃくって、その紙を開くように指示してくる。
丸め込まれた紙を開いてみると、前原君らしい大きく、かくついた文字でこう書いている。
『後で話がある。トイレの前に集合』
用件だけをまとめた、簡潔な文章。
前原君の方を見やる。彼は既にみんなの問題の解答係へとシフトしていた。何も答えも、見せようともしてくれない。
時計で確認してみる。授業も佳境を迎えたところで、既に先生は今日のまとめに入っていた。最初確認したときは時間もそれほど経っていないように感じたのに意外で仕方ない。
とにかく休憩時間はもうすぐだ。多分そのときに、二人きりで話がしたいということなんだろう。内容が何かなんて分かり切っている。
本当に、情けない話だ。何も考えられていない。このままみんなのいう事に「はい分かった」と言うだけの末路しか見えてこない。みんなに言われて、みんなの計画として進めていく。
それが一番なのかもしれないけど、それじゃいけないような気がする。
何故そう思うのか、いけないと思っているのか。
「今日の宿題です。雛見沢の田んぼや自然、虫たちを見て、一つ、テーマを決めてください。そして感じたことをそのまま、習った漢字を使って記録してくださいね。思った事をちゃんと伝えることは大切です。しっかりと取り組むように。あ、絵日記のようなものでも構いません」
知恵先生が黒板に宿題の内容を書き込んでの総まとめに入っていた。小学生低学年に頭の中でイメージしたことを伝える宿題を与えている。夏休みの自由研究のような課題だと思えた。
「余談ですが、日記というのは大昔に存在していたんですよ? かぐや姫の元を作り上げたこと有名な人も日記も作ったほどです。皆さんも、日頃から意識してみるといいかもしれません」
日記……その言葉を聞いて何か思い出すことがある。
引っ越し初めに見たあの日記。あそこにもそういえば自分と同じような内容が書いてあったはず。
確か前原君のことを信じたい。仲間を信じる気持ちを持ちたい。なんて言葉を掻いていたはず。
それはつまり、最後にみんなを信じ切れなかったからダメだったということなのだろうか。その人は一体どうして、仲間を信じ切れずに単独行動をしたのだろうか。
今になって気になってきたあの日記。不穏な気配、不安な気持ち。状況は違うけれど、あれの通りに事が進んでいるような気がする。
予言の書というのは違うかもしれないけど……それでも見た方が良いと今になって思う。
例え嘘でも、例え偶然だとしても……書き手は何を想って、そして何が起こったのか、それを確かめないといけない。
それが、もしかしたら自分を変えることに繋がるかもしれないから。
「はい! それではチャイムが鳴ったので次の授業まで頑張ってくださいねー」
チャイムという名のベルが鳴り響いた。
そして先生がそう締めくくると、みんなが各自休憩のために動き出す。
竜宮さんや園崎さんもノートを片付けたりして、自分の時間を作っていた。まるで自分は関わらないように、気を使ってくれているとさえ見えてしまう。
そんな中、前原君は机の上を片そうともしない。真っ先に1人立ち上がって教室から出て行ってしまう。その間、目線さえ合わせなかった。
それは多分、僕がトイレに向かうということを見越したことなのだろう。仲間として信頼しているのか、それとも何か違う意味でもあるのだろうか。
行くしかない。
そう思うまで、少しの間があった。変な迷いがあった。
もう一度外を眺める。蜃気楼に包まれる暑さを気にしつつ、遠い場所にいるであろう北条さんの姿を思い浮かべる。
「……あれ?」
ここで何か違和感に気付いた。
先ほどもグラウンドを見ていたのに、何かが違う。揺らぐグラウンドの先を見て、そう思うのだ。
しかし何かは忘れてしまっている。心あらずにいた自分には先ほどまでの行動なんて覚えていなかった。
誰かが大笑いしたのか、クラスメートの明るい話が耳に入り、それで現実に戻る。
今はやるべきことがある。北条さんだけでなく、自分もあんな風に笑えないといけないようにならないと。
そう思いつつ、僕は静かに教室を出て行った。
遅れてすいませんでした……。しかも大きな展開がない場面ですなー。
その間にみなさんに感想や評価もしていただいて……本当にありがとうございました!
じゃあ寝ますw