とある魔術の虚構切断 作: rose
今のところ一話あたりの文字数は少なめにするつもりです。
「虚構……切断」
少年が言い放った単語を、美琴は追いかけるように呟いた。自分が敗北した能力の名を、胸に刻み込むために。
「あらゆるものってのは、具体的には?」
「言葉通り。物質非物質を問わず、あまねく全てを断ち、絶ち、裁つ能力。異能も例外じゃない」
「なるほどね、それで私の電撃が斬られたのか……」
「ま、そういうこった」
彼はそう言って、面倒くさそうに頭の後ろで手を組んだ。その態度が美琴には勝者の余裕に感じ取れてイラッとしたが、ここで質問コーナーを閉店されても困る、と思い直して話を続けた。
「レベルは?」
学園都市の能力開発によって発現する超能力は、その能力の強さや科学への応用性などを基準にいくつかの段階に区別されている。下から順に、能力自体はあるが観測できないほどわずかな強度の無能力者、低能力者、異能力者、強能力者、大能力者、そして学園都市230万人の頂点に位置する七人の化け物、超能力者である。
美琴の見立てではほぼ間違いなく大能力者なのだが、彼が告げたのは予想外の事実だった。
「……ねぇよ」
「ない?」
「そう、レベルなし」
自分の認識を根底から覆すようなことを言われて、美琴は混乱した。学園都市の能力者には例外なくレベルが存在する。それは常識であり、ルールなのだ。
「待って、意味わかんない。レベルがない?そんな訳ないでしょ!?」
「落ち着けよ。ここ店ん中だぜ」
「……っ」
士道に諭されて、美琴は声を潜めてもう一度訊ねた。
「……レベルがないってどういうこと?ちゃんと説明しなさいよ」
「わかったからそう睨むなよ」
士道は面倒だと言うように頭を掻いてため息を一つつくと、一度天井を仰いでから美琴に視線を戻した。士道の目は、今までよりも真剣みが増していた。
「まず大前提として、学園都市の能力開発によって発現した超能力は、演算によって現象を引き起こしている。これはいいよな?」
「アンタ馬鹿にしてんの?私超能力者よ?それくらいわかってるわよ」
「あくまで確認だよ。……んで問題はここからなんだが、俺は能力使うときに演算をしてないんだよ」
「はぁ?」
美琴は訳がわからないという風に両手を広げた。
「じゃあアンタはどうやって能力を使ってるわけ?」
「そうだな……んじゃ実際にやってみるか」
士道はそう言って学生鞄を漁り始めた。なにが始まるのかと美琴が不思議に思っていると、鞄の中からシャー芯の空ケースをとりだし、机上に置いてある食器置きからナイフを手に持った。
「はい、ここにナイフと空のシャー芯ケースがあります。御坂、お前これ切れる?」
「無理ね」
「だろ?見とけよ」
士道はニヤリと笑ってケースを軽く放り投げると、右手で構えたナイフで落ちてきたケースを横一文字に両断した。
「能力を使えば、こんな感じに斬れる」
おおー、と美琴が軽く拍手をすると、士道はまるで観客の歓声に応えるスターのように手を振った。
「んで俺が今コイツを斬ろうとした時にしたことは、ほんとに何もないんだよ。斬ろうと思って斬っただけ」
「……ほんとに演算してないの?」
「一切ナシ」
美琴は再び言い切った士道を見てから、フムと顎に手を当て考え始めた。美琴の知る限りだと、近い能力に対象を切断する能力というものがある。だがそれは念動力に近いタイプのもので、そもそも斬るモーションを必要としない。対象の座標や斬線を演算するだけなのだ。
「たしかに変ね」
「だろ?」
「まぁ無意識下で演算処理してるって可能性はあるけど」
士道は「してないと思うんだけどなぁ」とぼやくと、テーブルにぐでっと顎をつけた。
「ていうかアンタ、最初に私の電撃を斬った時素手じゃなかった?」
「あー、それはイメージの問題だな」
そこで士道は一度言葉を区切ると、体を起こして伸びをした。
「イメージ?」
「そ。いくら能力があるっつっても、素手で岩を斬るのは想像つかないだろ?でも剣で岩を斬るのはなんとなく想像つく。そんなとこだよ」
「ほうほう。つまりアンタには私の電撃を斬ることが容易すくイメージできたって訳ね?」
「おいちょっと待てなにビリビリさせてんだよここ店の中だって言ってんだろ!?」
美琴が前髪に青白い火花を散らすと、慌てたように悲鳴を上げる士道。士道があわあわするところが見れて気が済んだのか、美琴はフンと鼻を鳴らして電撃を収めた。
「お前の電撃に関しては別に軽んじてたとかじゃなくて、アニメの知識だな」
「はい?アニメ?」
「超能力を素手で止めたり消したり斬ったりなんてアニメ、腐るほどあるだろ?だからイメージしやすいんだよ」
「へぇ……すごいわね……」
(私はアニメに負けたのか……)
なんだかもの凄く悲しくなった美琴であった。
「ま、虚構切断に関して言えるのはこんくらいかな」
「なんていうか……変な能力ね」
「だろ?自分でもよく理解できてない能力だから教師含めて秘密にしてんだよ。知ってるのはお前と……あと二人か」
「教師に隠すなんてそんな事できるの?」
「あー、まぁそれは、色々と」
「ふーん」
士道は明らかに何かを隠していると美琴は確信したが、それ以上は何も追及しなかった。本来秘密にしておきたいはずの能力の特性をここまで話してくれた彼が言えないということは、本当に絶対伏せて起きたい事なんだなと判断したからだ。何より初対面にも関わらず、彼はかなりの情報を開示してくれた。これだけでも十分な収穫と言える。
まだ見ぬ強力な能力者。その登場に、美琴は心を踊らせていた。
「ま、とりあえず今日は帰ることにするわ。寮の門限も迫ってることだしね」
「おー、気ぃつけてな」
「誰にもの言ってんのかしら?」
「ちげーよ。無駄に被害者増やすんじゃねーぞって意味だよ」
「ああ、そういう」
そこまで言うと、美琴は席を立って歩き始めた。飲み物は士道の奢りだし問題ない。
「あ、そうだ」
「ん?」
数歩歩いてから振り返ると、美琴は右手を銃の形にして士道に向けた。
「次会った時は、きっちり射抜いてやるからよろしく♪」
「……いらねーよそんな襲撃予告……」
ため息をついてぼやく士道に「それじゃーね」と声をかけ、美琴は店を出た。
☆☆☆
「あー……つっかれたー……」
美琴が店の外を歩いていくのを窓越しに確認してから、士道はぐぐぐっと伸びをしながらぼやいてテーブルに突っ伏した。
(まさか、あの超電磁砲と出くわすとはなぁ……)
学園都市230万人の中に、超能力者は7人しかいないのだ。集団ナンパをされてる女子中学生がその内の一人などと、誰が予想できようか。
今日何度目かわからないため息を深くついてから、それにしても、と呟いた。
「あいつの顔、どっかで見たことある気がするんだよなぁ」
その呟きは、誰の耳にも届かなかった。
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