時は21XX年、地球外生命体によって人類は衰退━━━━っつーか絶滅しました。
しかし、実はたった一人だけ生きていた男がいた!
それが僕!
……の、はずだったんだけど、僕、人間じゃなかったみたい。
脳波パターンは、バイオロイドっていう、人間と生殖機能その他一切変わらない人工生物が盲信するレベルで人間の脳波だった。
ちなみにバイオロイドに男性型はいない。男性型は攻撃的だからっていう謎の理由で全部廃棄されたからね。女性だけしかいないぞ! ハーレム万歳!
とにもかくにも、僕はバイオロイド式判断基準に則って、脳波パターンが人間だったはずなんだけど、外見は完全に化け物。
全身が、人類を滅ぼした宿敵━━━━
鉄蟲は、ゴビ砂漠に落下した隕石に付着していた地球外生命体。この一番最初の鉄蟲━━━━『NW101』を巡って企業間で戦争が起こり、そのどさくさに紛れてNW101がワープゲートを開いて、仲間を呼んで人類と戦争が始まったんだ。しかもこいつ、機械に寄生するっていう特徴持っててさ。機械産業が盛んな世界にとっては致命的だったんだよ。
まぁ人類が絶滅したのは戦争のせいっつーか、『ホイップノース病』っていう伝染病が主な原因なんだけどさ。こいつに感染したら最後、眠ったように目を閉じて死ぬ前目を覚まさなくなる。
しかも感染経路は空気でも粘膜接触でもなく、なんと
終わりだよ、どう防げってんだ。
このようにクソヤバイ伝染病で人類は絶滅した。その定義に則るなら僕は人間じゃない。
男性型バイオロイドはすべて廃棄された。男性型バイオロイドを作成する技術はとうの昔に失われいてる。なら男の僕はバイオロイドじゃない。
人類に仇をなす鉄蟲は、バイオロイドによって最優先で排除される。だからバイオロイドと共に生活してる僕は鉄蟲じゃない。
じゃあ
これが最近の悩みの種。ただし、哲学よりも生物学的な疑問だけどね。
「おはよう、こんにちは、こんばんは~」
僕が人類が残してくれた本を読んでいると、ムニッと、背中に柔らかい感触が触れたかと思えば、視界が真っ暗になった。
「だ~れだ!」
「……ケルベロスだな?」
「正解!」
泣きほくろがチャームポイントな彼女の名前はケルベロス。三つ首の地獄の番犬の名前だ。まぁこの子の首は一つなんだけどさ。
じゃあなんでケルベロスなんてネームが与えられてるかというと、おっぱいって二つあるじゃん。頭とおっぱいで計三つ。だからケルベロス━━━━っていうのは冗談だけどね。
実際は彼女が、暴動やテロを鎮圧する警察的な役割を担っていたのが主な理由だ。制服は警官っぽいし、電流の流れる警棒と、頑丈なライオットシールドを武装している。だから地獄の番犬の名前を付けられたんだ。
ただ、そんな冗談が飛び出るくらい、彼女はおっぱいが大きい。おっぱいが頭部と同サイズだもん。巨乳通り越して爆乳レベル。別の制服に着替えたら乳輪はみ出ちゃってるし。乳首見えないのが不思議なレベルで見えちゃダメなところが見えてる。
最初の頃、遠回しにそれを伝えようとしたら━━━━。
「
と叫ばれて拒否反応を示されてしまった。理不尽だ。ちなみに水着も見えちゃダメなところが見えててヤバイ。
まぁこの世には僕しか男がいないから、開放的になるのもわかるんだけどさ……。
「司令官様、また悩みごとですか?」
「僕って人間じゃないじゃん。だから生物学上、どういう生命体の括りになるのかなって」
「……? 司令官様は司令官様ですよ?」
「まぁそうなんだけどさ……」
僕は誰か、という問いに哲学的に悩まない理由がこれ。『僕は僕』って結論がついてる。でも人類史が滅んだ以上、僕が
僕を司令官や指揮官と慕ってくれてるバイオロイドのためにも。
「じゃあサル目ヒト科チョルチュン属。鉄蟲ヒューマンでどうでしょう」
シレっと部屋にいた、別のバイオロイドがそう提案した。
「ナイトエンジェル、いつの間に……」
赤いかきあげヘアの彼女は、ナイトエンジェル。下半身のムチムチ具合とは対照的に、上半身は目を覆いたくなるくらいの壁っぷり。一部のバイオロイドの間では、「(乳が)無いとエンジェル」なんて呼ばれてるらしい。しかも本人はそれをめちゃくちゃ気にしてる。巨乳のボディが書かれた自分の顔ハメ看板を作り、そこに顔をハメてご満悦の表情を浮かべていたし。
あとはおっぱいでかいバイオロイドに刺々しい。特に滅亡のメイちゃんを目の敵にしていて、前にすると鬼の形相になるんだよね。前にみんなで水着に着替えてビーチに行ったけど、ずっと目が死んでたもん。
「ケルベロスさん、司令官をご飯に呼ぶためにどれだけの時間をかけてるのですか?」
「そうだった。司令官様、御飯ですよ!」
「もうそんな時間だったか」
「ところで司令官、先ほどの質問ですがドクターにお聞きになってはどうですか? 親身になって相談に乗ってくれると思いますよ」
「うーん……。ドクターはマッドの気があるから、何されるかわからなくて怖いんだよなぁ……」
「それではフォーチュンにしてみたらどうでしょうか」
僕をお兄ちゃんと慕うドクターは、マッドサイエンティストっぽい側面がある。一方のフォーチュンは機械工学・研究開発などに特化した技術屋だ。しかもケルベロスに負けず劣らずの爆乳。
「うーん……両方に聞くだけ聞いてみようかな。ドクターを訪ねて危なくなったら……逃げよう」
「司令官様は私が守るから安心していいよ!」
「頼りにしてるよ。とりあえず、顔洗っていくから二人は先に行っててくれ」
二人を部屋から追い出し、僕は本を机の上に置いて洗面所へ向かった。タオルを手に、お湯を捻りだす。水だけは潤沢にある。なぜならここは
水を苦手とする鉄蟲対策に作られたドーム状の施設で、人間の技術の粋が詰まった最後の砦。海水のろ過技術もなんのその。もっとも、ホイップノース病には敵わなかったが。
「……気持ち悪いなぁ」
鏡に映った僕の顔は、我ながら醜く感じる。黒ずんで赤いラインが走った皮膚は、人間らしい肌色の部分が少ない。機械に寄生する鉄蟲による鉄成層末期だ。どうやら僕の身体の一部が機械化していたらしい。技術方面に明るいバイオロイドによると、機械化していたのは脊椎とも言われている。
ここまで外見が違うと、人類史を滅ぼした宿敵、鉄蟲とどう違うのか。
それにしても、ラビアタの剣に映るまで自分自身を人間と信じて疑わなかったとは、我ながら傑作だ。
「……この体とももう少しでおさらばか。そう考えると少し寂しいな」
そう、何を隠そう僕のボディは新しいものになる予定だ。僕が生物学上の分類に真剣に悩みだしたのは、この様々な要素がミックスされたボディとおさらばするからだ。寂しくなるぜ。
少し前に、バイオロイドを作り出した企業『サムアン事業』の創設者の墓に訪れた僕たちは、新たなボディを一から作成できる技術を発見した。
けど即断即決ができなかった僕は、基地に戻って少し悩んだ後、結局は新しい肉体にすることにした。近日中に出撃し、新たなボディに脳みそを移し替える予定だ。
ちなみに体は『少年』に設定する予定。まだまだ肉体的に長生きしてもらわないと困るからね。そうバイオロイドたちに伝えたら、やたらマリーが喜んでいたのが印象的だな。
しかし脳みそが無事だからできる芸当。脳波はバイオロイドが人間と盲信するレベルで一致していた。つまり脳みそまでは鉄蟲に侵食されていない証。
二足歩行で進化の過程はサル。脳みそという大事なところはヒトのまま。けど見た目はチョルチュン。
「……サル目、ヒト科、チョルチュン属」
ナイトエンジェルの指摘は、言いえて妙かもしれない。