有希子side
私、神崎有希子はとんでもない光景を目の当たりにしている。
「……私の大切な友達に何をしてくれるの?」
私達の目の前には今まで見た事のない冷酷な眼差しである青年の腕を掴んでいたラムちゃんがいた。
このような事になったのは今から30分程前の出来事……。
~回想~
ラムちゃんは今日用事があるとの事で学校には遅れて来るみたい。これに関しては殺せんせー達も容認している。なんでも暗殺に必要な事らしいけど……。
「俺の名前は鷹岡明!今日から烏間の補佐として此処で働く事になった。よろしくな。E組の皆!」
そう言ってやって来た青年……鷹岡先生は烏間先生の補佐をすべく、早速今日から私達の体育を担当するそうだ。
鷹岡先生が置いたのはカエデちゃんが言うにはかなり有名所のスイーツ等。生徒の皆はそれに食い付く。
「物で釣ってるなんて思わないでくれよ?俺はおまえ達と早く仲良くなりたいんだ!それには皆で囲んでメシを食うのが1番だろう?」
……なんだろう?何か違和感を感じるような。
食事が終わった後、鷹岡先生から新しい時間割が配られる。
「さて、訓練内容の一新に伴いE組の時間割も変更となる。これを皆に回してくれ」
時間割を見てみると授業が終わった後、夜の9時まで訓練となっていた。
「ちょっと待ってくれ!無理だぜこんなの!」
前原君が反対意見を述べ、それに賛同するように他の皆も続く。
「遊ぶ時間もねーし、出来る訳……!」
ドスッ!
前原君が否定しきる前に鷹岡先生が膝蹴りで黙らせた。そしてさっきまでの朗らかな雰囲気から一変して歪んだ雰囲気になった。
「出来ないんじゃない、やるんだよ……」
不気味な雰囲気を現したままで鷹岡先生は話を続ける。
「抜けたい奴は抜けても良いぜ?その時は俺の権限で新しい生徒を補充する。……だが俺はそんな事をしたくない。おまえらは大切な家族みたいなものだから、おまえらの父親の位置にいる身として誰1人欠けてほしくない」
そう言って鷹岡先生は私に近付き……。
「俺達家族で地球を救おうぜ?」
鷹岡先生の腕に捉えられた。以前までの私なら恐怖によって鷹岡先生に従えさせられていたと思う……。でもそれはラムちゃんと出会って変わった。
初めて会った時は高校生の人達から助けてくれた。イトナ君の時も私達に被害がいかないように気を遣って審判役を引き受けたと殺せんせーから聞いてまた助けられたと思った……。
ラムちゃんは私に勇気をくれる。この場にラムちゃんはいないけど、私に勇気を与えてくれる……。だから私は……!
「……嫌です。私は烏間先生の授業を希望します」
強くなる為に勇気を出した。それが気に入らなかったのか、鷹岡先生は腕を振りかぶる。私は殴られると思い、目を瞑った。しかしそれが来ることはなく、恐る恐る目を開けてみると、鷹岡先生の腕を掴んでいるラムちゃんがいた。
「……私の大切な友達に何をしてくれるの?」
私にとってラムちゃんは救いのヒーローのようだった。
有希子sideout
~現在~
遅れてきた私は授業に参加しようとグラウンドに出る(場所はイリーナ先生に聞いた)と有希子が男に殴られそうになったので、未然に防ぐ為に私は男の腕を掴む。
「ぐっ……!なんだおまえは!?」
「……私は大宮来夢。椚ヶ丘中学3年E組の生徒。本日は訳ありで遅刻してきました。それでもう1度聞きます。私の大切な友達に何をしてくれるの?」
「俺はおまえ達の父親位置の人間だ。聞き分けの悪い子供に躾をしているだけだ!」
父親位置ねぇ……。そんなのは家庭によってそれぞれだろうに。
「……ふーん。今時そんな父親は流行らないですよ?」
「……どうやらおまえも聞き分けが悪いみたい子みたいだな!」
男は私の腕を払い殴り掛かってきた。
「止めろ鷹岡!」
私が反撃しようとすると烏間先生と殺せんせーが慌てた様子でグラウンドに駆け込んで来た。
「おはようございます。殺せんせー、烏間先生。それでこの男はなんなんですか?見たところ烏間先生の知り合いみたいですが」
「……こいつは鷹岡と言って俺と同じ防衛省で働いている」
「どういった人物なんですか?」
「……教官としては俺よりも優秀だと聞いている」
この男が烏間先生よりも優秀?そうは見えないけどねぇ……?
「俺の大切な家族だ。勿論手加減しているよ」
「……いや、貴方の家族ではなく私の生徒達です!私が目を離した隙に何をやっている!?」
「なんだ?文句あるのかモンスター?体育の担当は俺に一任されている。それに短時間でおまえを殺す為の訓練だ……。多少厳しくなるのは当然だろう?こういう風にな!」
何やら先生達が話し込んでいる間に律に事情を聞いていると、鷹岡と呼ばれた男が私に殴り掛かってくる。私はそれを難なくかわす。
「……鬱陶しいなぁ」
「っ!」
「そこまでだ鷹岡。暴れたいのなら俺が相手になる」
いい加減煩わしくなったので睨んでいると、烏間先生が私達の間に割って入る。もうそのまま鷹岡とかいう奴を帰してほしいんだけど?
「烏間……。これは暴力じゃなく教育だ。やるなら暴力じゃなくあくまで教師として教育でやろう。烏間、こいつ等の中でおまえの一推しの生徒を1人選べ。そいつと俺が一対一で戦って、1度でも俺にナイフを当てられたらおまえの教育が俺よりも優れていると判断して出ていってやる」
烏間先生が優秀だと思っている生徒は複数いる。男子だと赤羽君、磯貝君、前原君、杉野君、木村君とあとは態度に難ありだけど、寺坂君。女子だと片岡さん、岡野さんかな?あとは力を抑えているカエデも。
「但し使うナイフはこれじゃない。殺す相手は俺なんだ……。使う刃物も本物じゃないとなぁ?」
但しそれは殺せんせーを殺す為に使われる対せんせーナイフに限る話で、本物のナイフになると話は別。一介の中学生が本物のナイフを使うなんて況してや殺し屋でもない限り無理だろう。厭らしい性格をしているね。
烏間先生は悩んだ結果私の元に来て……。
「……ラムさん、頼めるか?」
ナイフを渡してきた。
「…………」
「……俺は地球を救う為の暗殺任務を依頼した側として君達はプロだと思っている。プロとして最低限払うべき報酬……当たり前の中学生活の保障を払うつもりだ。だからこのナイフは無理に受け取る必要はない」
……やっぱりわかっているね烏間先生。鷹岡なんかとは違って私達が中学生だと言う事を加味してくれている。それがわかった時点でE組の教官は烏間先生で決まりだよね。
「……その想い、伝わりました。ですので私はそのナイフを受け取ります」
私はナイフを受け取り鷹岡と対峙する。
「ふん、さっきの生意気な女か」
「どうも。それよりも私が貴方に1度でもナイフを当てられたら私の勝ちで間違いありませんか?」
「……ああ、間違いない。さあ来い!!」
鷹岡のあからさまな態度に対して私は特に構えを取らずに只立っている。
「……来ないなら此方から行くぞ!」
鷹岡が此方に殴り掛かってくるのを私は全部かわす。
「このっ……!」
……鷹岡は見た通りのパワータイプ。烏間先生と同じ防衛省の人間だという話だからもうちょっと期待してたんだけど、つまらないなぁ。
「な、何故当たらない!?」
「……はぁ。もう良いや」
鷹岡の単調な攻撃に飽きた私は高速で鷹岡の後ろに回って首元にナイフを当てた。
「……これで勝負ありですよね殺せんせー?」
「はい。それにしても生徒に本物のナイフを持たせるなんて正気の沙汰ではありませんねぇ」
そう言いながらナイフを食べてる殺せんせーも正気の沙汰じゃないよね。そんなに食べ物に困ってるの?今度御弁当でも作ってあげようかな……?
「……ふむ、E組の新任体育教師の話を聞いて足を運んでみたら何やら面白い光景が写っていますね」
そう思っていると1人男性が此方に来た。
鷹岡の話はもうちょっとだけ続くんじゃ。