西住まほの漸進的横滑り旅行   作:jeux

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2. Sammein

「はいこれ」

 目の前の明るい髪色の少女はバスケットを手渡してきた。彼女は青色のジャージを着ていた。あれは継続高校のものではなかったか。ほどなくして、私も同じ服装をしていることに気がついた。

「私とミッコは北側の広い森を探すから、まほさんは南側の小さい森をお願いね」

 はて。聞きたいことは山ほどあるのに、しかし私の口からは別の質問が出る。

「あの…『探す』とは一体…」

「え?言ってなかったっけ?コケモモだよ」

 そう言って少女はある方向を指差す。目を向けると、大きなカゴに赤色の小さい果実が入っていたが、その量はカゴの高さの10分の1と言ったところだった。

「もうあんなに減っちゃったんだ。誰かさんが夜中に起き出してはジュースを飲んじゃうから。砂糖も買い足さないと」

 あれがコケモモというのか。

「あれを集めればいいのか」

「うん。そういうことだから、よろしくね」

 そう言って少女は立ち去ろうとするが。

「あ」

 思い出した様にこちらを振り返り。

「カオパメに気をつけてね」

「カオパメ?」

「そう、カオパメ。頭をコケモモに擬態させて獲物を狩るんだ。怒らせると襲ってくるからね」

 なんだそれは。こわいじゃないか。

「携帯電話は持ってる?」

 持ってはいるが。一応スマホだ。つい最近買い換えた。なぜ今それを聞くのか。釈然としない顔でスマホを見せる。

「あー、スマホじゃダメだよ。こういうのじゃないと」

 見ると、それは薄い長方形がわずかに湾曲した形の黒い携帯電話だった。少女が側面のボタンを押すと、カシャっという音とともに下半分がスライドし、ダイヤルボタンが現れた。ノキア8110。何かの映画でみたことがあって、かっこいいと思って名前を調べたことがある(肝心の映画の名前はなんといったであろうか)。

 少女は、それをアンダースローでこちらに寄越した。

「カオパメはそれが大好きなんだよ。もしカオパメに遭遇しちゃったら、『The body cannot live without the mind』と言って」

「言って」

「そのあとにこれを思いっきり遠くに投げてね」

「投げる」

「そう。思いっきりね。あ、でも、ただ遠くに投げればいいってわけでもないよ。芸術点も考慮されるから」

「芸術点」

「そう。現代社会に対するフラストレーションを爆発させると高得点だよ。…『I thought it wasn't real』」

「…『Your mind makes it real』」

 はて。今私の口から何が。

「分かってるじゃん」

「え?」

「それじゃ、今度こそ。適当なところで切り上げて帰ってきてね」

「あ、ちょっと」

 少女は、消えていた。

 

 

 

 さて、困った。彼女は『適当なところで切り上げろ』と言ったが。

「…全く適当じゃないな」

 私のバスケットは空だった。

 南の森に入ったはいいが、コケモモは全く見つからなかった。進むうちに、とうとう森の南端にたどり着いてしまった。森の先には草原があり、それが小高い丘を形成していた。森の外周を回って帰ろうと思って、私は森と草原の境目をうろうろしていた。

 かれこれ10分ほど草原に沿って歩いたであろうか。

「あった…」

 ようやく針葉樹の間に茂る赤い実を発見した。

 赤い実に手を伸ばす。その時、遠くから弦を弾く音が聞こえてきた。

「何だ?」

 丘の頂上。そこにはいつの間にか大きな丸太が置かれていた。そこに座る二人。

 一人はチューリップハットを被り、膝の上に琴の様な楽器を乗せて弾いていた。あれはカンテレだ。間違いない。忘れもしない。毎年毎年手を焼かせてくれる継続高校戦車道部隊長、ミカだった。

 もう一人は…。

「みほ!?」

 隣にみほが座っていた。みほは、あいも変わらずあのりんご飴をなめていた。しかし問題はそこではない。

 なぜ二人は肩を寄せ合っているのだ。

 寄せ合っているというか、みほの方がミカに体を預けている様にすら見える。

 どうしたんだ、みほ。私に懐いてくれないのはわかる。痛いほどに理解している。だからといって、どうして懐く相手がよりにもよってその似非スナフキンなのだ。

 ミカがカンテレをみほの膝に乗せる。みほにカンテレのレクチャーをしようとしている様だ。みほはミカに促されるがまま、不器用にポロン、ポロンと弦を弾くと、笑顔を浮かべた。ミカも微笑む。

 その時、違和感に気づく。いつの間にかミカはりんご飴を持っていたのだ。ミカは、極めて自然な笑みを崩さないまま、それを口に近づけていく。

 べろり。

 あっ、ミカ、お前、おい。おい、お前、ミカ、あっ。

 豪快にいきやがった。あいつ今ほとんど全面なめたぞ、おい。あっ、かじるなバカ。

 信じられん。なんということだ。

 込み上げてくる怒りを堪えきれずに、思わず思いっきり地面を蹴ってしまった。

「あ…」

 しまった。コケモモを踏み潰してしまった。やっと見つけたというのに。そう思っていると。

 不意に、コケモモのあった地面が動いた。

 むくり、と地面が盛り上がったかと思うと、中から人型が現れた。身体中がコケに覆われていて、その全容は見えない。

「ぐぐぐぐぐぐぐぐ」

 カオパメ。

「The body cannot live without the mind!」

 叫ぶ。

「ぐご?」

 そいつの顔と思しき部分がこちらを向く。

 すかさず携帯電話を取り出し、西住流奥義『たいぎゃ遠くにぶりやるやつ』を発動。私の手から放たれた超高速の携帯電話は、ごうっ、と音をたてて燃え始めた。

「ぐわーーーーーーっ!」

 カオパメはそれを追いかけて行った。

 ふう。我ながらうまく行ったのではないか。

 しかし、問題に気づく。このままではカオパメは携帯電話を追いかけて北の森まで行ってしまう。あの少女が危ないではないか。連絡しなければ。スマホを取り出すが、しまった、そういえば彼女の番号を知らない。というか、このスマホなんだかおかしい。なんか曲がってるぞ。あれ?

 ノキア8110。

 なんでここにあるんだろう。

「あ」

 間違えた。思いっきり間違えた。私は自分のスマホを投げたのだ。

 私はその場に崩れ落ちた。

 そのとき。

「落し物ですよ、西住まほ殿」

 背後から声がした。

 振り向くと。

 カオパメがいた。

 私は驚愕した。あの速度で投げた物をこの短時間のうちに回収したことにでもなく、カオパメが人語を解したことにでもなく。

 コケがとれて顔が露わになっていた。西絹代だった。

 

 

 

 彼女は、私の手からノキア8110をひったくり、んんんんんん、などとよくわからないうめき声をあげながらひとしきり頬ずりした後、満足げな顔で、右ポケットにしまった。そして、左ポケットから焦げて真っ黒になったスマホを取り出し、私に見せながらカオパメ、もとい西は言った。

「あなたの投擲は素晴らしいものでした。飛距離11358m。世界記録です」

「世界記録」

「それだけではありません。芸術点も高かった。あの名台詞によるあぷろおち、投擲姿勢、現代社会に疲れてる感じ、全て完璧です」

「あぷろおち」

「隕石ぼおなすも付きますね」

「隕石ぼおなす」

「しかし、ただ一つ。とても残念なことがございます」

 カオパメは一息置く。

「すまほはこの大会においては、れぎゅれえしょん違反です」

「れぎゅれえしょん違反」

「のきあハチヒトヒトマルのみが許されております。よってあなたは失格です。失格者は……」

 みしっ、という音がした。あら。彼女はそこそこ長身ではあるが…こんなに高かったかしらん。というか、私の方が高かったはずでは。みしみし、みし。あらあら。これは、見上げ入道か何か?みしみしみしみし。彼女、今や大洗マリンタワーぐらいあるのだが?

「……捕食されます」

 おやぁ?

 

 

 

 ずがぁぁぁん。ずがぁぁぁん。(すごぉく重厚な足音。爆音上映せよ)

「に〜げ〜る〜な〜」

「うわあああああああ」

 あのなあ。仮にも黒森峰の隊長である私がカオパメもとい西もとい巨人に追い回されているのだぞ。だのに、何の救援もよこさぬとはどういうことだ。おい、ミカ、お前のことだぞ。お前のことだぞ、ミカ、おい。何みほと楽しそうに傍観してやがる。あっ、あんのやろう今こっち指差したぞ。あいつ楽しんでやがる。冗談じゃなく命の危機なのだぞ。え?命の危機、傍観、救援?あっ。

 そのとき。森の中からエンジン音が響く。

 ぶろおおおおおおん。(以降、別に爆音でなくとも可)

「おらあああああ段階を踏まずにいきなりクリスティー式じゃああああ」

 待ってました救世主。BT-42。操縦席には赤い髪の少女。砲塔からはあの明るい髪の少女。

「待っててね、今からその子をおとなしくさせるから!」

 ばああああん。

 何と。実弾撃ってきた。生身の人間がいるんだぞ。あと、人と呼べるかはかなり怪しいが一応人っぽい何かもいるんだぞ。

 その弾は私の頭上を通り過ぎ。

 がきいいいん。

 巨人の右ポケットに命中した。右ポケット。あ。

 ごん。

 鈍い音がした。走りながら振り返ると、そこには落下した巨大なノキア8110の残骸が。へえ。所持品ごと大きくなるのか。そうじゃない。

「うおおおおおお」

 余計怒らせてどうするんだ。

「次は外さないよ!」

 ばああああ あ あ お お  お

 世界が、スローモーションになる。徹甲弾が、衝撃波を発生させながら飛んでいく。(衝撃波って見えるのか?)

 しかし。

 どぅおお お お  お   お    (超重低音の大地がえぐれる音。100Hzくらい。そこそこのスペックのスピーカーを用意せよ)

 カオパメが、跳ねた。

 背面飛びだ。

 徹甲弾の衝撃波が、障害となるバーを作っていく。巨人はそれを、まさに陸上競技のそれで飛び越えていく。

 飛び越えていったその先に、ミカとみほがいた。

 みほはミカと一緒に私を指差していた。表情は見えなかった。

 巨人の足は、ちょうどミカとみほの真上にあった。

「ミカ、みほ!退け!退くんだ!退かないと踏まれるぞ!」

 

 

 

退かないと踏まれるぞ

 

 

 

どかないとふまれるぞ

 

 

 

土管Night/踏まれるゾウ

 

 

 

ぎゅいいいいいいいいいいいん




……。
ルールは……把握して……いただけたでしょうか……。
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