空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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Act7 - アニスさんといっしょ

 

 現在地上んメートル(考えたくない)

 

 どこへ向かっているのかも分からないけど、何だか爪を離してくれないグリフィンに俺は今 必死の説得を繰り返していた。

 

「タルタロスを襲いに来たんだろ! じゃあ職場はあっちだろうが! お前は職務を放棄してもいいのか!? ちなみに俺はよくないぞ!」

 

 俺がいたからってどうなるものでもないかもしれないけど、調子が悪そうだった大佐たちを残してこんなところで悠長に空なんか飛んでいられない。

 

 ていうかただでさえ無理やりくっつき歩いてかろうじて一緒にいられてる感じなんだから、早く戻らないと本気で大佐に見捨てられる。

 今俺が焦っている主な理由はどっちかっていうとソレだった。

 

「とにかく降ろしてくださいお願いします!」

 

 俺は今日も胸を張って低姿勢です。

 

 言葉が通じるのかすら怪しい相手へ繰り返した懇願が聞き届けられたのか、あるいはあんまり騒ぐからうっとうしくなったのかは定かじゃないが、グリフィンは今までしっかと掴んでいた肩を突然離した。

 

 やった、と思ったのも束の間。

 ここどこでしたか。空の上です。

 

「ッジェイドさぁああ~ん!!!」

 

 空中に涙と悲鳴だけを残して、俺の体はまっ逆さまに落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 奇跡、奇跡だ。

 ユリアのご加護か、じゃなかったら呪いでもなきゃ有り得ない。

 

「助かった……!」

 

 きっと俺に大佐の呪いが掛かってたんだ。ありがとうジェイドさん。

 森の木にくの字に引っかかったまま、俺は空の譜石帯に向かって両手を合わせた。

 

 葉の隙間から空を仰ぐと、上のほうでグリフォンが旋回しているのが見える。

 あの高さから落ちたんだとすれば、生きてるのは本当に奇跡、いや呪いだ。

 

 木から降りてすぐに全身を確認したが目立った怪我はない。剣もある。

 

 だけどここはどこだろう。

 

 辺りをぐるっと見渡して、俺はまた少し泣きたくなった。

 

 

 

 

 魔物に出会うたびに全力疾走での逃亡を繰り返しながら森を抜けて、やっと出た平原でもまた魔物から逃げ続け、走りすぎて胸焼けがしてきたころ、

 俺は人影を見つけてふと足を止めた。

 

 距離が縮まり姿形が明確になってくるにつれて、すっかり折れていた心が生気を取り戻していく。

 

 あれは、あれは!

 

「タトリン奏長!!」

 

 大平原に立つ一人の少女の背中に呼びかける。

 俺は彼女がビクッと体を震わせたのにも気付かず駆け寄った。

 

「げ、アンタ」

 

 振り返った奏長は嫌そうに顔を歪めたけれど、そんなの気にならないくらい俺は今 見知った人と出会えた事が嬉しい。

 目の前の小さな体に泣いてしがみつく。

 

「奏長ー! そ~ちょー!! 俺すんごい怖かったんですよぉぅう!!」

 

「なんでリックがここにいるわけぇ? 大佐たちと一緒じゃないの?」

 

「それはもう、かくかくしかじかで何か俺だけグリフィンに捕まってー!」

 

 大佐たちは無事なんだろうか。今更ながら心配になってくる。

 奏長はそんな俺をぐいぐいとひっぺがしながら、軽く頭を抱えた。

 

「う~、ワケわかんないんだけど~、つまりはぐれたってこと?」

 

「そんな感じです……ああもうタトリン奏長でもいい会いたかったー!!」

 

「てめー“でも”って何だ」

 

 ごめんなさい声が怖いです。小刻みに顔を横に振る。

 

 やがて奏長は大きく溜息をつくと、先を歩き出した。俺も慌ててそれに続く。

 

「あの、奏長?」

 

「大佐たちとはカイツールで合流することになったから、一緒に連れてってあげる」

 

「本当ですか!?」

 

「だってアンタ一人だと頼りないし、しょーがないじゃん」

 

 奏長は不服そうに頬を膨らませたけど、それが形ばかりのものだとすぐ分かる。

 だってそういう不器用な優しさを持っている人の傍に、俺はずっと居たんだから。

 

「ありがとうございます! 奏長は、優しいですねぇ」

 

 思ったままに言葉をこぼすと、彼女は一瞬目を見開いたけど、すぐにいつもの顔になった。

 

「そ! アニスちゃんは優しいんだよーだ! だからカイツールに着いたら、そんな優しいアニスちゃんに案内料ちょーだぁい?」

 

「……で、でも俺 薄給で……」

 

「じゃあ大佐におねだりしてきて」

 

「殺されますよそんなん!!」

 

 確実に弁解の余地なくタービュランスだ。

 

 即行で拒否した俺を見て 舌打ちをひとつ零し、これだから庶民は、と吐き捨てた。金持ちじゃなくてごめんなさい。

 俺が小さくなっている間に彼女はさっさかと歩き出す。

 

「リック! おいてくよー」

 

「あっ、アニスさぁん! 待ってくださいよぉ!」

 

 そんなこんなで、二人旅です。

 

 

 

 

 アニスさんから聞いたところによるとフーブラス橋が先日の大雨で落ちたそうで、少し離れた場所にある浅瀬から対岸に渡ることになった。

 

 転ばないように気を使いながら、一歩一歩踏みしめて進む。川として考えれば穏やかな流れだけどやっぱり歩くには少しきつい。

 俺達はまがりなりにも軍人だから体力はあるけど……。

 

 ちらり、と隣を歩くアニスさんの様子を伺う。

 いくら軍人でも彼女はやっぱり女性だし、何よりまだ幼い。

 

 でも泣き言ひとつ言わず(いや、歩きづらいとか冷たいとか文句は言ってたけど)歩いている。

 俺は視線を、その背中にあるぬいぐるみに向けた。

 

「トクナガには乗らないんですか?」

 

「別にこれくらい平気だもん」

 

「トクナガって、ひとり乗りなんですよね」

 

「……何が言いたいわけ?」

 

「いえ」

 

 軽く返しながら俺は流れの強い場所を足で かきわけて、前に出た。

 

「なんでもないです」

 

 そして振り返り、アニスさんに手を差し出して微笑むと、彼女は少しバツが悪そうに顔を顰めたあと、そっと俺の手を取った。

 

 

 

 カイツールまでは、もう少し。

 

 

 




偽スキット『ねぇリック大丈夫?』
ルーク「なぁ、あの、リックだったか? アイツ生きてんのかなぁ」
ジェイド「ま、大丈夫でしょう。臆病者ほど最後まで生き延びる人種はいませんよ」
ルーク「……ほんとかよ」

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