空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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Act51 - ナタリア姫様お久しぶりです!

 

 外殻降下後はじめて訪れたバチカルの街並みを見渡しながら歩く。

 

 視覚的な変化はほとんどなかったけど、耳に入ってくる会話はやはり預言の詠み上げが撤廃された事に対する不安だった。

 やはり大半の人はまだ預言の無い生活に慣れないらしい。ずっと何より身近にあったものだから、当たり前なのかもしれない。

 

 しかしナタリアが決めた事ならばそれに従おうと考えている人も多いようだ。

 ナタリアの国を愛する気持ちはとても大きい。それがちゃんとみんなに伝わっている事をひしひしと感じると同時になぜか俺が誇らしくなって、口元を緩めた。

 

「そういやリック、ナタリアには手紙出したのか?」

 

 そこで前を歩いていたルークがふと振り返って言う。

 その問いに俺は視線を泳がせて肩を落とした。

 

「ルークはさ、ガイ繋がりって事で、なんとかなるかなって思ったんだけど」

 

「うん?」

 

 要点を得ないというように首を傾げるルーク。隣でガイが苦笑している。

 俺はぐっと拳を握り、もう片方の手で顔を覆った。

 

「……ただの兵士がバチカル王城に手紙とか……!!」

 

「……お前、俺宛てのもかーなーり悩んで出したろ」

 

 納得した表情を浮かべた後、半眼になったルークが零す。もちろんだ。

 

 ただの兵士が公爵子息に手紙を出す恐れ多さに悩み(陛下が後押ししてくれた)

 文面に悩み(貴族に宛てるような手紙の書き方を大佐に聞いた)

 どの住所に出せばいいのかを悩んだ(ガイが教えてくれた)

 

 そんなこんなで執筆に二週間を費やしたいっぱいいっぱいな俺が、バチカルの王女様に手紙なんて出せるわけもない。

 

「じゃあナタリアとは一ヶ月前の……ええと、リックにしてみればアブソーブゲート以来かしら。連絡は取っていないの?」

 

「怪我の具合とかも?」

 

 ティアさんとアニスさんに尋ねられて、はいと小さく頷く。

 みんな心配してくれたと聞いていたから、せめて元気になった事だけでも教えたかったのだけど。

 せめてルークからナタリアに伝わればという小さな願いを込めたのだ。

 

「俺もこのひと月ナタリアには会わなかったからなー」

 

「そっかぁ」

 

「今日会ったら元気な顔みせてやれよ。あー、でもナタリア戻ってるかな……」

 

「呼びまして?」

 

 そのとき、タイミング良く背後から凛と響いた声に振り返り、振り返った先で見つけた綺麗な金色の髪に目を輝かせる。

 

 そこで同じように俺に気づいた深緑の瞳から険しい色が抜けて、一度大きく見開かれた後、その表情がすぐ花が咲いたようにほころんだ。

 

「ナタリア!」

 

「まあ……リック! 怪我はもうよろしいんですの?」

 

 このとおり、と両腕を広げてみせれば彼女もまた嬉しそうに微笑んでくれる。

 久々の再会を喜ぶ勢いでナタリアの手を取って笑い合ったその瞬間。

 

「ぅひっ!?」

 

「リック?」

 

 突如奇声をあげて肩を弾ませた俺に、目の前のナタリアが不思議そうに首を傾げた。

 

 集まる視線に「な、なんでもない」と首を横に振ってから、ナタリアの手を離し、肩越しにそろっと自分の背後を見やる。

 

 その先には豪華かつ丁寧に作られた庭があるだけで、人影はひとつも無い。

 だけどでも、今の首筋にぴりっとくる鋭い殺気は。

 

 ……バ、バチカルでばったり? まさかのガイの大当たり?

 

「そういえば!」

 

 俺が滴る冷や汗をぬぐっていると、ナタリアが はっとしたように再び目を吊り上げ、今までなりゆきを傍観していた大佐の胸倉につかみかかった。

 

 キムラスカ王国はマルクト軍に対して軍事活動を起こしてはいない。

 そう言い切ったナタリアを見てやっぱりなと苦笑する。アスランさんの考えは間違っていなかったんだ。

 

 しかしあまり大っぴらに続けられる話では無かったため、詳細についてはインゴベルト陛下の部屋ですることになった。

 

 

 

「私は、マルクトを攻撃するような命令は下していない」

 

「そうですわ。我が国は無実です」

 

 事情を伝えると、陛下とナタリアは改めて、国としての襲撃の事実はないと否定してくれた。

 

 ならアスランさんを襲った集団は何者なのかとガイが疑問を上げると、ずっと何か考えていた様子の大佐が「そのことなのですが」と口を開く。

 

「断定はできませんが、フォミクリー実験による症状に似た事例があるのです。リック、貴方は分かるでしょう」

 

 そう言って僅かに眉を顰めた大佐の赤い目を見ながら、思い出す。

 正体不明の兵士集団は死人のような目をしていたとアスランさんは言っていた。

 

 最初の記憶。無機質な部屋の中。消毒液の匂い。

 

 自分と、自分の周囲にいた人たち。

 その表情。それは、確かに死人のようだったかもしれない。

 

「レプリカ……」

 

 六神将が動いている事を考えるとレプリカで兵士を作った可能性も捨てきれないとする大佐の言葉に、何か思うところがあったらしいルークはそう呟くと少し黙って、それからちらりとこっちを見た。

 

「……俺たちと同じ……?」

 

「う~ん」

 

 俺は曖昧な調子で首を傾げる。

 

 こうしてルークやイオンさま、シンクといった自分以外のレプリカと会った今、元々線引きが薄かった俺は余計に人とレプリカの違いを感じられなくなってきていた。

 人かレプリカかということは、キムラスカ人かマルクト人か、第二音素か第三音素か、そのくらいの大きなくくりの違いでしかない。

 

 もちろん、過去にレプリカである事を笠に着た自分がやらかしたことを忘れるつもりはないけど、被験者と違う存在として生きる分には、そこまでこだわらなくてもいいような気がする。

 

 ああ、だからルークは悩んでいるのかと、そこでようやく思い至った。

 

 イオンさまの被験者はすでに亡くなっている。

 俺の名前と居場所は、被験者のものじゃない。

 

 でもアッシュは生きている。

 そしてルーク・フォン・ファブレは、アッシュのものだった。

 

 ルークは、そこらへんが引っ掛かっているのかもしれない。

 

「お父様。 私をダアトへ行かせてください」

 

 そこで突然、力強くそう言ったナタリアは、あの旅の後ずっと預言のことを考えていたという。

 

 預言に頼ろうとする人たちはまだまだ沢山いる。

 それらをどうしていくのか、預言をどう扱っていくのか、国際的な会議を開くべきだと。

 そのためにはイオンさまの力が必要だ。

 

 インゴベルト陛下は少し考えてから、旅立ちを許可してくれた。

 嬉しそうに「ありがとうございます」と告げるナタリアを見ていると、ふいに微かな呟きが耳に届く。

 

「……ダアトへ行くんだ」

 

 いつもとは違う僅かに沈んだ声。

 それは、アニスさんのものだった。

 

 あらましは手紙で知らせてあるからダアトへ行くのは止めないかと言うアニスさんに、なんだ帰りたくなのか、とルークが目を丸くする。

 

「そうじゃないけどさ」

 

 そう言いつつもやはり気のりしない様子だった。

 

 どうしたのかと内心首を傾げつつ、結局ダアトに向かう事に決定して動き始めたみんなに続いて、足を進めた。

 

 

 

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