空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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Act54 - ベルケンド歯ぐるま殺人事件?

 

 

 ベルケンドについた早々、俺たちの目の前でひとりの男性がばたりと倒れた。

 

 ティアさんがすぐに治癒術をかけたけど、その人が起き上がる気配はない。

 間も無くして、緩々と首を横に振ったティアさんに、俺は衝撃で一歩あとずさりながら大佐をかえりみた。

 

「は……犯人はこの中にいたりするんですか!?」

 

「療養中の本の読み過ぎです」

 

 人聞きの悪い、とちょっぴり眉をしかめた大佐が至って真剣な顔で話を続ける。

 

「第一私ならもっと上手くやりますよ。こんな下手をしたら自分に疑いが掛かりそうな状況ではしませんね、絶対に」

 

「あんたが言うとシャレになってなくて怖いな」

 

「おや、シャレに聞こえましたか?」

 

「…………」

 

 半眼で突っ込んだガイにきらきらとした笑みを浮かべながら返す大佐。

 懸命な彼がそっと口をつぐんだ。俺も静かに目をそらす。

 

 そんなやりとりをこなすうちに少し落ち着いた気がする。

 改めて倒れた男のひとに目をやろうとすると、ちょうど向こうから騒ぎを聞きつけたキムラスカ兵が駆けてくるところだった。

 

 するとその兵士は取り乱すでも、俺たちに容疑をかけるでもなく、ひとつため息をついて「これで今日は三人目だ」と呟いた。

 

 話を聞くと、ここ数日、先ほどの男性のように突然命を落とす人が増えているという。

 

 あとこれは確かな調査の結果というより、この兵士さん個人の考えのようだが、ローレライ教団に預言を詠んでもらいに行った直後に倒れる人が多いらしい。

 

 でもそれはおかしな話だ。

 アニスさんが、すでに教団では預言の詠み上げを止めている件を持ち上げる。

 

「いや、この瘴気ってのが出てくる、ちょっと前から再開したみたいだぜ。旅の預言士が各地を回っててね」

 

 亡くなった男性を肩に担ぎあげながら、俺も詠んでもらったぜ、と言う彼に嘘をついているような様子はない。

 とすれば、いったい誰が預言の詠み上げをやってるんだろう。教団の人かな。

 

 その預言士はバチカルのほうへ向かったようだという情報を残して、兵士さんは立ち去ってしまった。

 

「大佐、預言を詠んでもらうのって危ないんですか?」

 

 預言を詠んでもらった後に突然死するという今の話。

 ほとんど教会へ足を運ぶことの無かった俺は真偽を計りかねて、おそるおそる尋ねる。

 

「そんなわけないでしょう。預言と突然死、それ自体は無関係です。 ですが……」

 

 大佐は一度言葉を濁し、しかしすぐに口を開いた。

 

「今のは、フォミクリーでレプリカ情報を抜かれたのかも知れませんね」

 

 実験で、情報を抜かれた被験者が一週間後に亡くなったり、障害を残したりした例があったらしい。それがさっき倒れた人の症状とよく似ているとか。

 

 俺の被験者は確か戦で亡くなったはずだから、レプリカ情報云々は直接の死因ではないはずだけど。

 もしもレプリカが作られたせいで被験者が亡くなったとしたら、被験者の家族や、親しい人たちはどう思うのだろうか。

 

 あまり楽しくない想像に頭が向かうのを感じて、ぶんぶんと首を横に振る。

 

「おーいリック! 何やってんだ、行くぞー!」

 

「え? あ、うわっ、待ってよルーク!」

 

 振り返って手を振るルークの声で、すでに歩き出していたみんなに気づいて、慌ててその後を追った。

 

 

 

 

 辿り着いたのは第一音機関研究所。

 

 今は罪を償うと決めたスピノザが研究をしている場所だ。

 スピノザは自分に負けずに、しっかりと頑張ってるみたいだった。

 

 話の内容は、まず地核の振動について。

 この調子でいくとまた遠からず大地が液状化する危険性があるということ。

 

 瘴気を封じ込めるとしても、パッセージリングを停止させた今となっては前回と同じ手段は使えない。

 やはり根本的な瘴気の消滅を考えたほうがいいんじゃないかというのは、ルークの言葉だ。

 

「それなんじゃが、ルークの超振動はどうじゃろうか」

 

 超振動には物質を原子レベルまで分解する力があるらしい。

 それを使えばなんとかなるのではないかと、スピノザとここの研究員さんは言う。

 

 ルークが超振動を使えば、かぁ。

 そうか。ルークなら何とか出来るんだ。

 

(ルーク、なら?)

 

 ちかりと目の前が眩んだような、気がした。

 

「そういえば先ほどの口振りでは、先客がいらしたようですが?」

 

 一瞬どこかへ入り込みかけた思考が、ジェイドさんの声でまっさらに散らされる。

 大きく目をしばたかせて、オレ今なにを考えていたんだっけ、と首を傾げた。

 

 先客の正体はなんとアッシュだった。

 ひとまずはと諦めた早々に足取りがつかめるというのも不思議なものだ。

 

 アッシュは第七音素の流れとかいうものを調べていて、ここではロニール雪山の情報を見ていたとの話を聞いた。

 

 バチカルに向かったという謎の預言士の件は後にすることにして、とりあえずアッシュを追ってみようと、今度は一路 ロニール雪山に向かう事になった。

 

 

 第一研究所を出て、息つく間もなくアルビオールを目指して歩き出しながら、ふと考える。

 

 さっきスピノザが超振動を使ってはどうか、と提案した時、そういえば大佐が何も言わなかった。出来るとか出来ないとか、いつもなら何かしら結論を口にするのに。

 結局、超振動では瘴気を消すことが出来ないのだろうか。

 

「たい……」

 

 尋ねようと横を見て、そこに彼の人の姿がないことにようやく気付いた。

 慌ててきょろきょろとあたりを見回す。

 

 前方には先を行くガイ達の姿。左右にはベルケンドの人がちらほらと。

 

「……あれ?」

 

 そして重ねて気づき、もう一度前方を見る。

 どこにいても目を引くあの赤の髪が、その中にない。

 

 ルークまでどこに行ったのかとしばし考えて、後ろを振り返った。

 そこには先ほど出てきたばかりの研究所の扉の前で立ち止まり、何やら言葉を交わしている二人の姿。

 

 距離があるので話している内容は聞こえてこない。

 でも口論というほどではないようだけど、あまり穏やかな雰囲気でもなさそうな空気を感じて眉尻を下げる。

 

 駆け寄ろうかと迷ったが、そのときちょうど話が終わったようで、立ち尽くすルークをその場に残した大佐がこちらに歩いてきた。

 

「大佐、あの、ルーク……どうかしたんですか?」

 

「なんでもありませんよ」

 

 前を見据えたままの大佐が切り捨てるようにそう言って、立ち止まっていた俺の横を通り過ぎて行く。

 目の前を流れた金茶の髪を見送って、声をかけるときに持ち上げた右手を緩々と下ろした。

 

「そう、ですか」

 

 行き場を無くした右手をしばし眺めた後、今度は後方のルークに向けて持ち上げ、思い切り振る。

 

「ルークー! 行こうー!」

 

「……あ、ああ」

 

 何故かぎくりとしたように顔をあげたルークが重い足取りで歩き出すのを見届けて、俺は自分自身わけもわからないまま、ひとつ息をついた。

 

 

 

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