空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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Act8.2 - おいでませコーラル城

 

 やっと大佐と再会できて安心してたのに、今度は軍港が六神将に襲われて整備隊長さんが誘拐されて、俺達はコーラル城に行くことになった。

 

 いや、うん。

 整備隊長さんは心配なんだけど、

 

「……本当に入るんですね」

 

 目の前には、女の人のすすり泣きとかピアノの音が聞こえてこないのが不思議なくらいの廃城。立っているだけで涙がちょちょぎれそうだ。

 

「嫌ならここに残ってもいいんですよ」

 

 大佐がさらりと告げて俺の横をすり抜けて行った。

 

 その言葉に一度辺りを見回す。

 カラスの鳴き声。海から吹くしけった風の反響音。

 

 俺は急いで大佐を追いかけながらわめいた。

 

「こんなとこにひとりでいたら余計怖いじゃないですかぁ!」

 

「じゃあ頑張ってください」

 

 うう。怖い。

 

 

 

 

 

 

 薄暗い城内。

 

 ビビる俺に引っ付かれるのが面倒な大佐がすでに「私の後ろに立つんじゃない」オーラを撒き散らして、すたすたと離れたところを歩いているので、俺はルークさんの傍をキープしていた。

 

「ぎゃー!!」

 

「バッカ、ただの魔物だろ」

 

 目の前を過ぎっていた小さな影に悲鳴を上げてルークさんの背中にしがみつくと、ルークさんは呆れたように背後の俺をかえりみた。

 

「だだだ、だけどルークさん……」

 

「あーもう、しょーがねーなぁ年上のくせに」

 

「そう言うわりには、まんざらでもなさそうだけどなぁ」

 

「ガイ!」

 

「はいはい」

 

 睨まれたガイが楽しげに肩をすくめる。

 

 彼らは主従関係だっていう話だけど、とてもそうは見えない。まるで普通の親友同士みたいだ。

 そのあとガイが俺たちから離れたときに、俺はちらっとルークさんに聞いてみた。

 

「ガイと仲良いんですね」

 

「あ? ああ、まぁな。ずっと屋敷に軟禁されてたから、年近いやつってアイツくらいだったし」

 

「へぇ……」

 

 事情はよく分からないが、ルークさんは七年前、マルクト帝国に誘拐されかけたときのショックで昔の記憶がなくなってしまったらしい。

 

 直接関係ないとはいっても、自分の国のことだから複雑だ。

 大佐もそのことは知らなかったようだった。よく考えたら大佐が知らないってちょっと珍しい。

 

 考え込んでいると目の前をまた過ぎた魔物の影に、俺は再び悲鳴を上げた。

 

 

 

「なぁ、なんでリックのやつを今回の旅に同行させてるんだ?」

 

 前方を歩くガイのそんな言葉が聞こえて、俺は内心まったくだと頷いた。

 そんなハタから見れば至極当然の意見に、問いかけられた大佐が首をかしげる。

 

「なぜですか?」

 

「……見てるとなんか気の毒なんだよ」

 

 それは俺がさっきから魔物に遭遇するたびに悲鳴を上げているからだろう。

 同情的なガイに対して、大佐はなぜか愉快そうに低く笑った。

 

「あれでも、頭さえ冷やしてやればそこそこ使えるんですよ。リック」

 

「ぅへい!? はい!」

 

 まさか呼びかけられると思わなかった俺は声を裏返しながら返事をする。

 そんな俺を見て大佐はにっこりと笑い、優雅に俺を指差した。

 

 いや、俺の、後ろを?

 

 反射的に後ろを振り返ると、そこには大きな腕を今にも振り下ろそうとする石像型の魔物の姿。

 

「うわ……っ!」

 

 驚くルークさんの声を遠くに聞きながら、ふいに頭が真っ白になった。

 

 

 隣にいたルークさんを突き飛ばす。

 剣を抜く。

 

 剣の腹で硬い腕を受け流し、同時に魔物の胸元へ滑り込む。

 

 そして、下から上へ、一気に切り上げた。

 

 

 地に伏してただの石像になった魔物を見下ろして、かちん、と剣を鞘に収める。

 

 

 後ろでガイが小さく口笛を吹いた。

 

「すごいじゃないか」

 

「あれさえなければねぇ」

 

 バカにした溜息と共に押し出された大佐の言葉に、ガイが「へ?」と声を上げるのを聞きながら、俺はゆっくりと大佐たちのほうを振り返った。

 

 ぼたぼたと滴る涙。あとちょっと鼻水。

 

「なんでいきなり戦わせるんですかぁ!!」

 

「いきなりじゃないとビビるからですよ」

 

 恐怖で笑う膝をそのままに怒鳴ると、大佐がひょいと肩をすくめた。

 その隣でガイが苦笑している。

 

「なるほどな。一応 戦えるわけだ」

 

「ええ。というか、あれで剣技がなければただのニワトリです」

 

 ……チキンってことですね。

 にこやかにそう言った大佐の姿に涙が止まらない。

 

 本当に酷い人だ。

 

 分かってたけど。

 

 

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