空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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Act8.3 - 誘拐と、女嫌いと漢と幼女

 

 

 目の前にそびえる巨大な音機関。

 それを見たとき、なんだか頭の後ろのほうがざわついた。胸に妙な感情がうずまく。

 

 嫌な感じじゃないけど、嬉しいわけでもない。それは懐かしさに近かった。

 

 苦々しく揺れる大佐の赤い目が、俺を見た。こっちも信じられない思いでその顔を見返す。

 

(ジェイドさん、これは、)

 

 そんな声にならない呟きを彼は汲み取ってくれたらしかった。

 大佐は一度眉を顰めてから、姿勢を正して口を開く。

 

「……まだ結論は出せません。もう少し考えさせてください」

 

 俺の動揺に配慮するように、それは幾分しっかりとした声で告げられた。

 その声に少し平静を取り戻す。

 

 あれが何か、俺にはなんとなく分かった。なんていうか勘だ。

 

 だってもうアレがある意味 俺のお母さんみたいなもんじゃん。

 でもこれは同機種なだけかな……じゃあ叔母さん?

 

 ああ、めずらしく難しい事を考えようとするから どんどん思考がそれていく。

 

 

「うわっ――……やめろぉっ!!」

 

 何とか思考を本題に戻そうと四苦八苦しているところに響いた悲鳴。

 

 驚いて顔を上げると、ガイが自分の体を抱えるように震えていて、尻餅をついたアニスさんがいて、みんなが呆然とガイを見ていた。俺も同じく。

 少しすると落ち着きを取り戻したガイがアニスさんに謝罪をしたけれど、二人の間には不自然な距離がある。

 

 

 ガイから女性恐怖症の原因うんぬんについての話を聞いた後、歩き出してから俺はおもむろにガイの後ろから肩を叩いてみた。一応そっと。

 

「ん? どうした?」

 

 笑みを浮かべて振り返ったガイ。俺は目を丸くする。

 

「男は平気なんだな」

 

「……リック。おっまえなぁ、実験かよ?」

 

「あ、いや、そんなことは……あ~……ある、かな?」

 

 背後がネックなのか調べようと思った、っていうのは紛う方なく実験なんだろうな。

 正直に頷くとガイが溜息を吐いた。ごめん、俺 大佐に感化されてるのかもしれない。

 

「背後からでも何でも、男は平気なんだよ。ああなるのは女性だけだ」

 

「そっか……念のため聞いてみるけどソッチの人じゃないんだよな?」

 

「ソッチでもコッチでもないっての!! 俺は女性が大好きだよ!」

 

「声高らかに言い切った!」

 

 いっそ清々しいぞ。漢の鏡だな。

 ただ響長とアニスさんの白い目には気付かないふりをした。

 

 し、仕方ないじゃないですか俺たち男の子なんだから!

 

 

 

 

 やっとの思いでコーラル城のてっぺんについたと思ったら、ルークさんがさらわれてしまいました。

 

 皿割れた、なんてどうしようもないシャレを過ぎらせている場合ではありません。

 ルークさんが、ルークさんが、

 

「ルークさんが さらわれてしまいましたー!!」

 

「二回も言わなくていいですよ鬱陶しい」

 

 少し前を走る大佐がこっちを見もしないで吐き捨てる。

 あれ、俺一回目 口に出したかな……。

 

 ともかくさらわれたルークさんを追って、俺達はさっき通ったばかりの道を大逆走していた。

 大佐の言葉で例の音機関のところへ向かっているのだが、すごく不安だ。

 

 みんなが無言で走り続ける中、こそっと大佐に話しかける。

 

「大佐、ルークさん大丈夫ですかねぇ」

 

「まぁ殺す気は無さそうでしたから。さっきもそう言ったでしょう」

 

「はい……でもルークさん、ルークさんホントに大丈夫で、」

 

「うざい」

 

 一刀両断ですか。

 

 

 

 

 

 

 ガイの攻撃をかわした六神将らしき人が去っていくのを見届けてから、音機関の中に横たわるルークさんに駆け寄った。

 大佐がなにやらパネルを操作すると、放たれていた光が消えて、ルークさんが体を起こす。

 

「ルークさん、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫なもんかよ……」

 

 無理もないけど機嫌は悪そうだ。

 しかし彼の体に目立った異変は見受けられず、ほっと息を吐く。

 

 

 そのあとは結局、また同じ場所に逆々戻りすることになった。

 

 途中、このまま帰りたいです、と泣き言を零したら、俺の相手が大分めんどくさくなってるらしい大佐に例のイイ笑顔で「ひとりで帰れ」と言われました。もう敬語ですらないんですねジェイドさん……。

 さらに、「ああ人質を見捨てて帰るつもりですか それはそれは後ほど良い悪夢が見られそうですねぇ」と追い討ちをかけられ、俺は完全に退路を断たれてしまった。

 

 いや、人質の存在は忘れていなかったし、本気で帰りたい気持ちも(0.00001ぐらいしか)無かったんだけど、あまりにもばっさり切られてさすがに少しヘコんだ。

 ユリア様、俺の上司は今日もきびしいです。

 

 

 

 そして現在。

 六神将のアリエッタさんと交戦中……なんですが。

 

「うわあああん! ばか ばか ばかーッ!」

 

 その声にびくりと身をすくませた瞬間をフレスベルグに殴り飛ばされる。

 

 地面を滑るようにしながら、何とか体勢を立て直した場所で詠唱していた大佐が、ふぅと溜息を吐いたのに俺は再び身をすくませた。

 

 分かってます。言いたいことは分かってるんです。

 だけど、どうしてもダメなんですよぅ。

 

 半泣きの俺の視線を受け取った大佐は仕方ないというようにまた息をついた。

 

「リック、泣き言は後で聞きます。アリエッタの声に動揺するのも結構ですが、とりあえず死なない程度になさい」

 

「はいぃい……」

 

「…………、ガイと一緒にライガの動きを止めてください。その隙に私が譜術で仕留めます」

 

「! はい! 了解です!」

 

「あなた命令されると活き活きしますねぇ」

 

 だって命令されると落ち着くんです!

 もしも大佐に「自由に生きろ」なんて言われた日には泣き崩れられる自信があります。

 

「どこかのバカそっくりですよ」

 

 え、それは、どちらの?

 

 

 

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