空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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Act72.4 - 陛下のおくりもの

 

 

 その後、女性陣の活躍でどうにか剣を借りることが出来た。

 次はマクガヴァン元帥のいるセントビナーに向かう旨を話し合いながら部屋を後にしようとした俺達を陛下が呼びとめる。

 

 大佐が嫌そうな顔で振り返った。

 

「何です、今度は花嫁探しでもさせるつもりですか?」

 

「違うっての」

 

 なんのかんの言いながらも陛下がネフリーさんを想い続けている事を多分誰よりもよく知っているだろう実兄ジェイドさんからの痛烈な嫌味を受けて、さすがにブウサギ関連でからかい過ぎたと感じたらしい陛下が少し控えめにそれを否定した。あ、良かった間一髪です陛下。多分もうちょっとでフレイムバーストでした。

 

「渡すものがあるんだよ。ほらコレだ」

 

「ちょっと陛下! 投げないでくださいよっ!」

 

 ぽいっと俺のほうに向けて投げられた小さな袋をどうにか受け取った。

 まったくもうとぼやいた俺に軽く笑って返した陛下が、いいから開けてみろと促す。

 

 言われるままに袋を開けて、中に入っていたものを取り出した。

 

 きれいなデザイン。

 手の平サイズの長方形。

 

「これ何ですか? カード?」

 

「はぅわっ! それはぁ!!」

 

 背伸びして俺の手元を覗きこんだアニスさんが瞳を輝かせる。

 

 その様子に笑みを深めた陛下が、ケテルブルクにあるメガロフレデリカというスパの会員証だと補足した。

 アニスさんいわく、貴族御用達の会員制高級スパだとか。

 

 喜ぶ女の子達とは反対に、隣でじっとりと半眼のルークに気付いて首を傾げる。

 

「ルークは嬉しくないのか?」

 

「嬉しくないっつーか喜べないっつーか……」

 

「ま、男はそんなもんだよな」

 

 肩をすくめてそう相槌を打ったガイに、でもジェイドさんは好きだって、と返すと「旦那はまぁなんというか」と濁された。あれか、これも大佐だからってやつなのか。

 

 というかそれ以前の問題として、俺には分からない事があった。

 

「スパって、何?」

 

 翠の瞳がきょとんと丸くなる。

 

「え? 何って……あー、そっか。お前ずっと軍人だったんだもんな、知らないか」

 

「そもそも一般市民にはわりと縁遠い施設なんだよ、ルーク」

 

 納得顔になったルークに、使用人生活の長かったガイが苦笑してささやかな訂正をいれる。

 

「簡単にいえば温泉が一緒にある宿ってところだ」

 

 温泉付きの宿。俺の頭で想像できる限界を超えた存在に、しかしほんのりと夢が膨らむ。

 控えめに目を輝かせた俺をちらりと見たガイが小さく噴きだした。

 

「機会があったら寄ってみるのもいいかもしれないな」

 

 そう言ってぽんと軽く撫でられた頭に手を添えて、俺は感動のまなざしでガイを見上げる。

 

「うん、お母さん……!」

 

「……ああ、もう母でも祖母でも好きなように呼んでくれ」

 

 やけくそなのか諦めたのか、遠い目をしたガイに改めてわしわしと髪の毛をかき混ぜられた。いやごめん。何かもう俺の中でイメージが定着してしまっていて。

 

 そこで陛下が何やら、傍にいたメイドさんに合図を送る。

 

「それはブウサギ達を探してくれた礼だ。んで、こっちが餞別な」

 

 するとさっと身をひるがえして一度部屋の外に出ていこうとしたメイドさんが、すれ違いざまに俺と目を合わせてちらっと浮かべた苦笑がなんだか意味深だった。

 

 だがその意味を深く考えこむより前に大きな包みをかかえて戻ってきたメイドさんは、それをうやうやしく机の上において、小さく会釈をしてから下がる。

 

 なんだろう、あの包みどこかで見たような……。

 

「ルーク。開けてみろ」

 

「は、はい」

 

 指名されたルークが恐る恐る包みを広げていく様子を、後ろから覗きこむようにして皆が見守る。

 嫌な予感がするのか少し離れたところに無言で立つジェイドさんの隣で、この妙なデジャブの正体について首を傾げて考え込む。

 

 そんなに昔の事じゃない気がするんだよなぁ。

 包み、包み……包みの、中……?

 

 …………。

 

「あ」

 

 俺がぽくんと拳を手の平に打ち付けたのと、包みの中を見た皆がぎしりと動きを止めたのはほぼ同時だった。

 ルークが、音がしそうなほどのぎこちなさで荷の中を指さす。

 

「これ……何、ですか?」

 

「アビスマンだ!!」

 

「アビスマンだよルーク!」

 

「だから何なんだよソレは!!」

 

 陛下と二人で拳を握って力説すれば、混乱のあまりか軽く涙目になったルークに怒られた。

 苦笑したガイが、子供向けの劇に出てくる正義の使者だととりあえずアビスマンの説明をしてあげている。

 

「これがその衣装ってのは分かりましたけどぉ~……」

 

「なぜ私達にこれを?」

 

 餞別、と言われて高価なものを期待していたらしくダメージが大きそうなアニスさんと、心底怪訝そうな顔をしたティアさんの問いかけに陛下は満面の笑みで胸を張る。

 

「だってカッコイイじゃないか!!」

 

「ただの貴方の趣味じゃないですか」

 

 しばし二の句も告げずにいた様子の大佐がようやく口を開いて、眉間に皺を寄せたまま眼鏡を押し上げる姿に陛下は肩をすくめる。

 

「分かってない。お前分かってないなジェイド。正義のヒーローは男の夢だろ!」

 

「夢です大佐!」

 

「バカふたりが はしゃいでいる分には構いませんが、そこに私達を巻き込まないでください」

 

 笑顔のままふつふつと音素を渦巻かせる大佐の後ろで、ガイが所在なさげにびくりと肩を震わせたのが見えた。うん、やっぱりちょっとは夢だよな。俺たち男の子だもんな。

 

「何だよ、きたるべき決戦衣装にでもすればいいじゃないか」

 

「哀憫の眼差しを一身に受けての最終決戦はご免です」

 

 すみません陛下、俺もそれはちょっと。

 シンクあたりにすごい目で見られそうだ。

 

「まぁ受け取るだけはタダだ!とりあえず持ってけ持ってけ」

 

 目配せで指示を受けて、前にどれが誰のか教えて貰った俺が、とりあえず微妙な顔のみんなに一着ずつ配る。

 

 そうしてすべてを渡し終え、いつか何かの拍子には着てもらおうと心に決めながら空になった包みを畳もうと伸ばし掴んだ手に、ふと重い手ごたえが伝わった。

 俺が貰った例のやつはすでに寮部屋にしまってあるから、もうここに残っているものは無いはずなのに。

 

「おっとリック。もうひとつ入ってるのあっただろ」

 

「は、はい。なんですか?これ」

 

 中にあったものを手に取って広げる。

 それは前見せてもらったときには無かった、新たなヒーロースーツだった。

 

「ちょっと遅れたが、この間ようやく出来あがったんだ」

 

「……まさか、これって」

 

 陛下が口元に笑みを浮かべる。

 俺はうるんだ目で彼を見つめ返した。

 

「ッピオニーさ、」

 

「そう! アッシュの分だ!!」

 

「…………アッシュのぶん!!?」

 

「ああ! アッシュの分だ!」

 

 きらきらと輝く瞳をした陛下の二度の肯定に俺の期待が粉々に打ち砕かれる。

 いや、確かによく見たら衣装の首のところにアッシュって書きなぐってあった。

 

 分かってただろうリック。シルバーとかそんなカッコイイ色が自分に来るわけないって分かってたじゃないか。涙声だとかそんなことは断じてない。

 

「今度来たら渡してやろうと思ってるんだがな。それともお前ら会ったら渡しといてくれるか」

 

「お願いします! 陛下直々に渡してやって下さい!」

 

 ルークが心底必死な顔で頼みこむ。

 ただでさえ複雑なアッシュとの関係をこっぱみじんに烈破掌するのは避けたいらしい。

 

「ん? そうか」

 

 それについてはあっさり引き下がった陛下が包みの中にアビスシルバーの衣装を収めたところで、大佐が「さて」と軽く手を打ち合わせる。

 

「要件は済みましたし私達はそろそろ行きましょう。進軍の準備にまだ掛かるとはいえ、時間は無尽蔵じゃありませんからね」

 

「だな」

 

「はい。それじゃ陛下、またちょっと行ってきまー……」

 

 身をひるがえそうとしたところで、背中に鋭い衝撃。

 あえて言うなら固い小さなヒヅメにものすごい勢いで蹴り倒されたような。

 

「リック、なんてゆーか……生きてるぅ?」

 

 背中の上のずっしりとした重みと、ブヒッという誇らしげな鳴き声を聞きながら、俺は床に突っ伏して涙目のまま微笑んだ。

 

 もう、好きにしてください。

 

 

 

 

***

 

 

 

 賑やかな子供たちが去って、すっかり広くなった私室の中。

 足元でジッと彼らが消えた扉を見つめているブウサギの首筋を撫でてやる。

 

「大丈夫だ、元気に帰ってくるさ」

 

 だからその時はまた背中にパンチのひとつもお見舞いしてやれ、とあの子供が聞いたなら顔を青くしそうな言葉をひとつ与えて、ピオニーは『ジェイド』と書かれたネームプレートを軽く指で弾き、静かに笑ってみせた。

 

 

 




可愛いほうのジェイドさま不機嫌の秘密。
いたらいたでウザイけど、姿が見えなきゃそれはそれで気になる。
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