空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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ガイ視点


Act74.3 - 森をかけるブウサギ(後)

 

 

「……テメェこらリックーーー!!」

 

「ごめんルーク! ほんとゴメン!!」

 

 二人が地面に転がったまま騒いでいるうちに、アウグストはまた一定の距離をとって仁王立ち(?)でこちらの様子を窺っている。

 そこに小さく苦笑しながら歩み寄っていったティアは、二人の傷の具合をみてやりながらリックを見て首を傾げた。

 

「どうしたの? つまずいたように見えたけど……」

 

「あ、そうなんですよ。何か固いものに足が引っ掛かったみたいで」

 

 木の根や石の感触ではなかった気がするんですが。

 

 不思議そうに言って立ち上がると、先ほど自分がつまずいた辺りの草むらを覗き込んだリックが目を丸くする。

 

「あれ?」

 

「なんだ、なんかあったのか?」

 

 後頭部をさすりながら立ち上がったルークが隣から覗き込み、あれ、と同じような声をあげたのが聞こえたが、こちらからはあまり様子が分からない。

 どうかしたかと問い掛ければ、リックはかしかしと頭をかきながら、今度はこちらに見えるように生い茂る草をかき分けた。

 

「……剣?」

 

 葉の隙間から ちらつく鈍い光。

 そこには、独特な造形をした一振りの剣らしきものが、ひっそりと突き立てられていた。

 

「まあ。どうしてこんなところに剣が」

 

 ナタリアが頬に手を添えて首を傾げる。

 

 何もここは未開の地というわけじゃない、冒険者も盗賊も通るはずだ。

 だが、きっと、そんな人間達が打ち捨てていったものではないのだろう。漠然とそんなことを思わせる、妙な存在感のようなものがその剣にはあった。

 

 しばらくまじまじと地に刺さった剣を眺めていたかと思うと、すごいことに気付いたように瞳を輝かせたリックが手の平にポンと拳をうちつけた。

 

「もしかしてコレ、惑星譜術の触媒だったりしませんか!?」

 

「はぁ? なんでだよ」

 

「だって六つの武器のうち、元々は二つもマクガヴァン元帥のところにあったんだし、もうひとつくらい近くにあっても良さそうな気がしないか!」

 

「そ、そう言われると、何となくそんな気もしてくるな……」

 

 正直なにも根拠にはなってないはずだが、嬉しげなリックの勢いにほだされたらしいルークが納得顔で頷いている。

 

 まあこれはこれで微笑ましい光景だろうかと釣られて絆されかけたガイは、ふと、先ほどからジェイドが沈黙を守っていることに気が付いた。

 いつもならこのへんで、ライフワークに近い嫌味のひとつも飛ばしていただろうに。

 

「旦那?」

 

 かえりみると、ジェイドは思案げに眉根を寄せていた。

 

「妙ですね」

 

「リックがか」

 

「いつもどおりは妙とは言いませんよ。あの剣のことです。とりあえず共鳴が起きていないので触媒ではないんですが」

 

「それを早く言ってやれ!!」

 

 言うものの、ついあの二人に届かないように声を抑えてジェイドに詰め寄ったガイに、この会話が聞こえていたらしいアニスが、ばか親だなぁ、と呆れ混じりの半眼で呟いたのが分かった。いや、でも、あの喜びようを見れば自然とこうなるだろう。

 

 しかしジェイドはこちらを見ることなく、静かに目を眇めた。

 

「……異様な音素が」

 

 ぽつりと落とされた、呟き。嫌な予感が皮膚をかすめる。

 

「とりあえずちゃんと見てみようか」

 

 そのとき耳に届いた声に、ガイは急いでルークたちを振り返った。

 するとリックはあの剣の柄をしっかりと掴み、今まさに引き抜こうとしているところだった。

 

 少し離れたところでなりゆきを見守っていたティアの剣を見つめる眼差しが、ジェイドと同じく訝しげに揺らいでいるのに気付けば、いよいよ胸の内に奇妙な焦りが生まれる。

 

「――リック!! ちょっと待っ、」

 

「え?」

 

 駆け寄ろうと踏み出した足が第一歩目で固まった。

 掛けられた声に反応して振り返った拍子のこと。それはさくりと軽い音をたてて、呆気なく抜けた。

 

 あっさりと、リックの手におさまった剣。

 

 ジェイドが頭痛を堪えるようにこめかみに手を添えたのが視界の端に映った。

 いや、でも、何事もなさそうだし取り越し苦労だっただろうかと、少し楽観的に考えたガイをあざ笑うがごとく、事態は動き出す。

 

 ちりりと首筋を焼く嫌な気配を感じたと思った、その時。

 

「リック、剣を離しなさい!!」

 

 ふいに表情を険しくして声を荒げたジェイドが、コンタミネーションで槍を取り出す。

 リックは指示が届くと同時に、ほぼ無意識だろう、いつもながら見事な条件反射で剣を投げ捨てていた。

 

 皆から少し離れた位置に斜めに突き刺さった刀身が軋んだ音を立てて揺れる。

 

 その揺れが、不自然に止んだ。

 

≪――――我は妄執。叶わぬ願いに捕らわれ彷徨う御霊≫

 

 明確な“音”ではない。

 どこか身の内の一番深いとこから響いてくるようなそれは、しかし確かに“言葉”だった。

 

 刀身から溢れだした黒い霧が、見る間に形をとって大きく膨れ上がっていく。

 頭上に広がる木々が みしみしと悲鳴を上げる音。

 

 空を仰ぐように巨大な影を見上げたガイは、ひくりと口元を引きつらせた。

 近くでアニスが呆然と「……マジでぇ?」と呟いたのが聞こえる。

 

 本当に、マジかよ。

 思わず心中で繰り返した。

 

≪汝は我が望む、我を断ち切る剣たり得る者達か?≫

 

 魔物とも、人型ともつかないまた別の強大な異形へと変貌を遂げた、先ほどまで剣であったはずの その“何か”は、静かにこちらを見下ろす。

 腕か、はたまた触角と呼ぶべきなのか、形状の違ういくつもの剣を持ったそれらが重々しく頭をもたげていく。

 

 どう考えても、話し合いで、などという穏やかな流れじゃない空気の中。

 

 きっちりとした戦闘態勢はそのままに遠い目をしたジェイドが、乾いた笑みで涙を滴らせているリックに向けて、ぽつりと呟いた。

 

「あなた本当にいらんことしかしませんねぇ」

 

「オレも今、心の底からそう思ってたとこです」

 

 

 




▼ソードダンサーが あらわれた!
▼リックは 『いらんことしい』の称号を 手にいれた!!
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