空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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Act9.2 - 二泊三日ケセドニアの旅

 

 

 俺達は引き続きケセドニアにいます。

 

 泣き喚く俺の声とか大佐の笑い声とか、ケセドニアの説明をするガイや響長やルークさんの話し声とか、いろいろ収拾がつかなくなってきたころ、領事館で話を終えたヴァン謡将の「では」という声に場はようやく収まりを見せた。

 

「私はここで失礼する」

 

 アリエッタさんをダアトの人に引き渡さなくてはならないから、とのヴァン謡将の言葉にルークさんがすぐ嫌そうな声を上げた。

 一緒に行こうとねだるルークさんをなだめるヴァン謡将。

 

 そうか、あの人とはここで別れるのか。

 

「…………」

 

 ほっと息をつき、はたと我にかえる。

 俺なんで安心してるんだろう。

 

 それと同時にまた手が剣の柄に伸びかけていたのに気付き、慌てて引っ込めた。

 やっぱり重大な任務中だしイレギュラーな事が多いしで緊張してるのかな。

 

 首をかしげていると、隣に立っていた大佐とふいに目が合った。すがめられた赤い目に、少しあとずさる。

 

 だけど大佐は何も言わないでまた顔の向きを正面に戻してしまった。

 な、なんなんですか……。

 

 

 

 

 避けきれない砂が頬を殴っていくのはさておき、天気は快晴。

 アスターさんの屋敷の前、花壇のへりに座りながら俺は空を見上げて恍惚と息をはいた。

 

「いー天気だなぁ」

 

 平々凡々とした時間が何より愛しい。

 こうしていると、グランコクマを旅立ってからの盗賊団と追いかけっこやらチーグルの森での大ピンチやらタルタロス襲撃やらが夢のようだ。夢じゃないのが本当に残念です。

 

 大佐たちは今アスターさんに音譜盤の解析を依頼しに行っている。

 俺はといえば、自主的にここでお留守番だ。偉い人 苦手なんだもん。

 

 そんなわけで愛する平和を心行くまで満喫していると、俺の少し向こうに立っている人を見つけた。やぁ、気付かなかった。

 

「こんちはー、良い平和びよりだよなぁ」

 

「へ!? え、ああ、……はぁ」

 

 挨拶をすると、その人は何故だかやたら驚いたけど、そのあと微妙に動揺を引きずりながらも頷いてくれた。

 

 年のころは、俺の見た目よりはずっと年下。中身のほうよりはちょっと上くらいだろうか。

 

 あざやかな緑の髪。

 そして何より顔の上半分を覆う仮面が、他の些細な印象を押し流している。

 

「俺ね、いま連れ待ってんの」

 

「へぇ」

 

 いやしかし個性的な仮面だ。一度見たら忘れられないな。

 

「だってさ、お金持ちとか偉い人とかに会うの緊張するじゃん?」

 

「さぁ」

 

 そんな噛み合ってるような噛み合ってないような会話を続けていた俺たちの間に、突如割り込んだ硬い声。

 

「リック!」

 

 顔を向ければアスターさんの屋敷のほうから駆けてくる大佐たちの姿。

 俺はびょこんと勢いよく立ち上がった。待ち人きたる!

 

「大佐!みんな! おかえりなさいー!」

 

「リック、ゆっくりとこちらに来なさい」

 

 大佐は槍を構えたまま、赤い目を厳しく細めて言った。みんなもなぜか戦闘態勢を取っている。

 

「へぇ? なんでですか?」

 

「……ああもうこれだからアホは……! 何でもいいからこっちに来なさいと言ってるんです!!」

 

 え、あれ、なんか今さりげなく酷い事言われた?

 

 みんなの剣幕にビビりつつ、さっきまで話してた少年をかえりみる。

 すると彼もなぜか目を真ん丸く(いや、見えないけど。雰囲気だけど)させ呆然と俺を見て、何やらボソボソと独りごちていた。

 

「そうだ そういえばコイツ……あー、えぇえと……まぁいいや。……その音譜盤を渡してもらうよ!」

 

 言うが早いか少年はガイに襲い掛かる。

 ふいをつかれたガイはとっさに腕を盾にして防御したが、その後すぐ苦しげに膝をついた。

 

 な、何だ? 何なんだ? どういうこと?

 あまりに突然の展開に、ガイと少年を交互に見て目を白黒させる。

 

 そして再び少年を見た。

 

 緑の髪に、仮面。

 はたと脳裏を映像が過ぎる。

 

 唸る海風、廃れた城内、例の音機関、さらわれたルークさん。

 

 『振り回されて ゴクロウサマ』

 

……あっ、

 

「ここで諍いを起こしては迷惑です、船へ!」

 

 大佐は立ち尽くす俺の腕をがしりと掴んで走り出した。関節が逆方向に曲がりかけて内心悲鳴を上げる。

 自分の足で走り始めたのを見て手を離した大佐のじっとりとした視線を受けて、背中に浮かぶ嫌な冷や汗を感じながら、そろっと俯いた。

 

 

 

 

「なんで気付かないんですか」

 

「ごめんなさい」

 

 

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