空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken- 作:甘味RX
「ルーク、これこのまま!? このまま投げればいいの!? それともフタ取ったほうがいいの!? 中身だけがいいのっ!?」
「べ、別にどうだっていいけどちょっと待て! やっぱ俺がやるよ! オマエ手ぇ震えすぎで怖い!」
氷の種が、鈍く煌めきながら火口の中へと消える。
常に立ち込める煙や蒸気のせいでこの位置から下の様子を伺うことは出来なかったけれど、少し待ってみても大きな変化が起きないことに安堵の息をついた。
とりあえず辺り一面 氷漬け、というやつは回避出来たようだ。
「でもあんなもの投げ込んで、火山の中、大丈夫かな?」
「マグマって凍るとどうなるんですか?」
アニスの言葉を聞いて、リックがおっかなびっくりと火口を覗き込みながら尋ねる。しかしそんなに身を乗り出してたら危ないんじゃないか。
声を掛けようかどうしようか短く考えている間に、ジェイドが俺と同じようにリックの足元をちらりと伺うと、おもむろに口を開いた。
「そうですねぇ。端的に言えば、貴方の足元と同じになりますね」
「足元?」
言われて下を見たリックは、ようやく自分が思ったよりも端に寄っていたことに気づいたのか、口元を引きつらせて一歩あとずさる。……うまいなジェイド。
「えぇと……地面になっちゃうんですか?」
「まぁ大体そんな感じです」
ものすごく軽い調子で相槌を打ったジェイドの様子に、今絶対なんか色んな説明をはぶいたな、と察して半眼になるも、当のリックが特に気にした様子もなく「へぇ」と感慨深げに地面を眺めていたので、なんとなく自分もそちらに意識を移した。
「そうなると、大規模な環境変化が引き起こされている可能性もあるわ」
「え」
真剣な声で告げられたティアの言葉を聞いて、火口側を背にする形で屈んで地面に触れていたリックが、小脇で軽く手を振りながら(熱かったらしい)慌てて身を起こす。
そこでまだ持ち慣れない武器の重心を補助するためか、腰元にある剣の柄に添えられていたリックの手が、瞬間、するりと空を切った。
すっからころかーん。
一振りの剣が、実に小気味の良い落下音と共に、先ほど氷の種が消えていった火口へと落ちていく。
それがすっかり煙の向こうに消えたところで、みんなの視線が緩々と一か所に集まる。
この灼熱のザレッホ火山において、ひとりだけ暑さとは違うところで冷や汗を浮かべたリックが、そっと顔を俯けた。
「何してんのリック」
「据わりがっ! 据わりが悪くて!!」
半眼のアニスにぽつりと問われるが早いか、リックは勢いよく顔を横に振る。
いつものように剣に手を添えただけのつもりが、留め方が甘かったのか鞘ごと外れてしまったようだ。
本来ならただ地面に落としただけの話で済むところを、このタイミングであの立ち位置でやってしまうあたりが、なんていうか、すごくあいつらしい。
また火口をそっと覗き込んだリックが、恐る恐る俺達のほうを振り返る。
「こ、このまま見なかったことにしたらダメですかね」
例のアレだった剣がやっぱり怖いのか、わりと本気のトーンで告げられた言葉にジェイドがにこりと笑みを返した。
「祟られないといいですねぇ」
「!!!?!?」
「……中の様子、見ていくか。リックの剣拾いがてら」
そうして声なき悲鳴をあげたリックが涙目で固まるのと、ガイが苦笑を深めつつそんな提案を口にしたのは、ほとんど同時だった。
「うわ~、あんなとこまで固まっちゃってるよ」
「あの氷の種というもの、とてつもない威力ですわね」
火口に降る道を進みながら、徐々に視認できるようになってきた地表の状態に、驚くを通り越して感嘆の声を上げる。
前回来たときは確かにマグマが煮え滾っていた場所はすっかり冷え固まり、それなりの範囲が、今自分たちが歩いている所と遜色ない状態の地面に変わっていた。
もしこれが街やアルビオールの中で“発芽”していたらと思うと、じりじりと皮膚を焼く暑さも忘れて身震いしそうになる。
そこでふと、真っ先にそういうことを怖がりそうな男の声が先ほどから聞こえていないのに気が付いた。
まず前方を見て、あの常に自信のなさそうな背中がないことを半ば当然のように確認する。あいつが俺より前を歩いている光景なんてものは、記憶の中に数えられるほどしかなかった。
くるりと体の向きを反転させて後方を見ると、案の定、最後尾を俯きがちに歩くリックの姿を見つけて、足を止めた。
「リック?」
目の前までたどり着くのを待ってから声をかけると、どうやら全く気付いていなかったらしいリックが、びくっと身をすくめて顔を上げる。
「な、なに? ルーク」
「いや、なんか、さっきから静かだよなと思ってさ」
そうかな、と何だか情けない顔で笑ったリックと並んで、最後尾を歩く。
待っていればもうちょっと喋るだろうか。
こちらからは言葉を継がずに黙ったまま横目で様子を伺うと、そこにいつになく真剣な横顔があって、俺はほんの少し目を丸くした。
足元を睨みつけるように歩いている姿に、やはり声をかけるべきかと悩んでいると、やがてリックが何か思い切ったように顔を上げる。
「あのさっ」
まっすぐにこちらを見据えた目に少々たじろぎながら、なんだよ、と聞き返した。
「ルーク、……オレ、」
その雰囲気に飲まれるように、俺も思わず息を飲んだ。
リックがぐっと拳を握る。
「――ひらめいたんだ! キルマカレーのコツをっ!!」
コツをっ……と溶岩煮え滾る火山の中に反響する声の名残を聞きながら、目を瞬かせる。
キルマカレー。ああ、そうだ、例の試作なんたらカレーだ。
そういえば、ずっと試行錯誤してたっけ。
頭の中から情報を引っ張り出すと同時に、肩の力が抜ける。
俺は脱力気味にひとつ息を吐いて、笑みを浮かべた。
「へぇ、そっか。スゲーじゃん。どんな?」
「えっ」
「え?」
なぜか目を丸くして固まったリックと見合ったまま、短い沈黙が落ちる。
その視線がやがて緩々とそらされた。
「えぇっ、とぉ……。ほら、オレいつも、キルマフルーツを……そのまま、入れてただろ?」
「うん」
「……だから……あ~~。あの、先にさ……」
「うんうん」
例のカレー作り、というか試食には最近よく付き合っていたし、リックが色々と悩みながら頑張っている姿も見ていたので、何か思いついたというなら俺としても喜ばしいところだ。
まじまじと相手の顔を見返しながら続く言葉を待っていると、ふと泳ぐ目線を足元に移したリックが、ポンと手のひらに拳を打ち付ける。
「っ凍らせて……、あの、そう! 乾燥させて! ドライフルーツにして入れてみたらどうかなって思ったんだ!!」
「お、いいんじゃねーの? 今度やってみようぜ!」
まぁ作るのは全部リックなわけだが、こうなってくると俺だって完成したものを食べてみたい。
試食ならまた付き合うからな、と言って笑えば、リックは一度ぴたりと動きを止めた後、すごく嬉しそうに笑って「うん」と頷いた。
そのまま二人で他の具は何がいいとか、キノコは入れるなとか、そんなたわいのないカレートークを続けていると。
「……おぉっとぉー!」
突然聞こえてきた声にはたと前を見れば、歩みを止めてこちらを振り返ったガイの姿。
その向こうには二手に分かれた道があった。
「なんだよガイ、どうし、」
「いやぁそれが道が分かれてるみたいでな! 俺達はあっちの道から火山の様子を見てくるから、お前はとりあえずリックと一緒にあの剣を拾って来いよ!」
「な!」と有無を言わさぬ勢いで、ガイは俺とリックの背を片側の道に押し出す。
分かれ道に立つ仲間達の姿を伺ってから、隣のリックと顔を見合わせて首を傾げつつ、よく分からないけどまぁいいか、と俺達は火口に降る道へと向き直った。
偽スキット『分かれ道、その後』
アニス「ガイ、過保護~」
ジェイド「本当ーに難儀な性格ですねぇ」
ガイ「だって! 見てられないだろ!!」
なんか もどかしすぎて もう。
(by.ガイ)