空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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ガイ視点


最終決戦編
Act83 - そして歯車は動き出す


 

 

「リックお前……ぶっ、はははは! なんだそれ!」

 

「わっ、笑うなよルーク!」

 

 中庭に続く扉を開けると響いてきた賑やかな声に、ガイは小さく笑って二人のもとへ歩み寄った。

 

「ルーク、リック。何してるんだ?」

 

「あ、ガイ! ちょっと聞いてくれよ、リックのピコハンがさぁ、」

 

「ううう……」

 

 ここしばらくもどかしさの塊と化していた彼らだったが、どうやら一段落ついたらしい。

 人の心配そっちのけですっかりいつも通りの様子に、アニスなどは「なんかもう心配するだけ無駄だよね」と半眼で吐き捨てていた。

 気持ちは分からないでもないが、あの状態が長引いたら確実に胃を痛めていただろうガイとしては安堵のほうが大きい。

 

 惑星譜術を巡る短い旅を終えた一行は今、バチカルで束の間の休息を取っていた。

 

 ナタリアはさすがに城へ戻ったが、それ以外の仲間達はファブレ邸に滞在して、来たるべき時に向けてそれぞれ英気を養っている。

 

「ピコハンがどうしたって?」

 

「あの、じ、実はオレ……この間からティアさんに習ってピコハンの練習してたんだ」

 

 ああうん知ってた、とは言わずにガイは相槌だけ返す。

 本人的には内緒でやっていたつもりなのだろうが、おそらく仲間全員に筒抜けの事実だった。

 

「それで一応、一回は成功したんだけど、あとは全部ピコハンじゃないものが出てくるっていうか」

 

「は?」

 

 意味が分からずに目を丸くしたガイの隣で、ルークがまた「ぶっは」と思い出したように噴き出す。

 その笑い声を聞きながら、リックは死にかけのウオントのような目でガイに向き直った。

 

「……ちょっと、見てて」

 

「あ、ああ」

 

 やってみせてくれるらしい。

 ガイ達から数歩離れると、両手を軽く体の前へ掲げたリックがゆっくりと目を閉じる。

 

 譜術を使うための動作がずいぶん様になっていることに、ジェイドのスパルタ訓練で毎日ずたぼろになっていたころから見守り続けてきた身として、ちょっとした感動を覚えながら結果を待つ。

 

「ピコハンッ!」

 

 カッと光を放ち上空から降ってきたその物体は、地面にぶつかる前に霧のように散って消えた。

 

「……何に見えました?」

 

「…………眼鏡、かな」

 

 なんで敬語、と思いつつも見たままを答える。

 若干諦めた顔のリックが今一度「ピコハン」と唱えると、また違うものが宙から落ちてきた。今度はカレーライスの形だった。

 

「ま、まぁ見た目がどうでもピコハンとしての効果があればいいんじゃないか?」

 

 リックが無言で首を横に降る。

 ……見た目がアレで効果も無い、と。

 

 両手で顔を覆ったリックの肩をぽんぽんと叩いて慰めていると、先ほどガイが出てきた扉から、今度は執事のラムダスが顔を出した。

 

「おぼっちゃま、大変名誉なお知らせでございます」

 

 常に冷静なラムダスには珍しくやや興奮した様子で発せられたその言葉に、三人はそろって顔を見合わせたのだった。

 

 

 

 

「ランバルディア至宝勲章?」

 

 夕刻。

 今後の相談も兼ねてジェイド(とリック)が泊まる客室に集まった仲間達にあの後ファブレ公爵から聞かされた話を伝えると、ティアやアニスも驚いた表情を見せた。

 

 ラムダスが言っていた“名誉なお知らせ”は、この度の瘴気中和の件でインゴベルト陛下からルークに、特別に勲章と爵位を送られることになったというものだった。

 

「素晴らしいことですわ」

 

 陛下から話を聞いていたらしいナタリアが嬉しそうに微笑む。

 だが当のルークは、公爵に話を聞いていたときから変わらない複雑そうな表情で頬をかいた。

 

「俺、別に世界を救いたいとかそういうんじゃなかったのに……いいのかな」

 

「国家というものは、そういう形でしか人に感謝を表せないものだから」

 

 喜んでいいと思うわ、とティアが小さく口元に笑みを乗せ、その隣でジェイドも「いいんじゃないですか」と肩をすくめた。

 

「特に信念でもないなら受け取っておきなさい。もらって困るものではありませんから」

 

「オレ、前にピオニー陛下からもらった『俺を楽しませたで賞』はちょっと困りました」

 

「あのいらない書類の裏に手書きされたやつですか。さすがにアレと比べられては歴代キムラスカ王家も怒りで化けて出るんじゃないですか?」

 

「勝手に化かさないで下さいませ」

 

 ナタリアがじとりとジェイドを睨み、化けて出るという言葉を聞いたティアが挙動不審になったのを見ながら、ガイは苦笑する。

 

 基本的に、ピオニーがリックに物をやることは無い。

 例え菓子のひとつであったとしても、皇帝が一兵士に何かを与えることに良い顔をしない者は多いからだ。

 

 だがいらない書類に書いた落書きのような、アビスマンの敵スーツのような、見るからにいらないモノならば周囲も同情こそすれ やっかみはしない。

 

 要するにアレは一種の愛情表現というか、甥っ子に何か買ってやりたい精神みたいなものの成れの果てだと思うのだが、何とも分かりづらい事だ。ジェイドよりはマシだが、ピオニーも結局そういうところは不器用なのかもしれない。

 

 まぁ、ちょっと困ったと言いつつもリックはその殴り書きの賞状を大事にしているようだし、肝心なところが伝わっているならそれでいいのだろう。見守っている方はわりともどかしいが。

 

「……お父様は、ルークにお詫びをしたいのだと思います」

 

 アクゼリュス。レムの塔。

 国を背負う王としてやむを得ない判断だったとしても、二度も見殺しにしようとしたことを謝罪したいのだろうとナタリアに言われて、ルークは少し考えた後にようやく「分かった」と頷いたのだった。

 

 

 そしてバチカル城の謁見の間にて、子爵の称号と、ランバルディア至宝勲章の授与式が執り行われた。

 

「すごいかっこいいよルーク! 普段のもすごく似合ってるけどそれもすごい、」

 

「わぁかった! 分かったからもう止めろ!! あああホントにこんな服着るんじゃなかった!」

 

「見事な褒め殺しですねぇ」

 

「貶されるよりあっちのほうがきついんじゃないか? ルーク的に」

 

「本気で褒めてる分タチ悪いよね」

 

 正装に着替えたルークとそれを見たリックとの騒がしいやりとりがありつつも、無事に式を終えた翌日。

 

 

「城に新生ローレライ教団の使者を名乗る者が参りました!」

 

 

 嵐の前の静けさのような、穏やかな日々は終わりを告げ、

 

 

「とにかく俺達も城に行こう」

 

「あれ、ちょっと待ってリックは?」

 

「ほんの数分前に出て行きましたよ。散歩がてら城下を散策してくるとかで」

 

「マジで間ぁ悪いなアイツ!!」

 

 

 ――歯車が、動き出す。

 

 

 

 




▼リックは『間の悪い男』の称号を手に入れた!
解説:肝心なときにいない

>俺を楽しませたで賞
ピオニー九世陛下の腹筋を崩壊させるとたまに貰える。たぶん例のピコハンもどきを見せればまた貰えるで賞。


偽スキット『いつかの悪夢ふたたび(ルーク的に)』
リック「あっルーク」
ルーク「うん?」
リック「…………」
ルーク「なんだよ」
リック「やっぱファブレ子爵さまって呼んだほうがいいかなぁ!?」
ルーク「やめろ」

公爵子息さまー。
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