空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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Act87 - 決戦はエルドラント

 

 

 最終決戦の地、エルドラント。

 

 様々な出来事を乗り越え、たくさんの人の力を借りて、ようやくたどり着くことが出来たこの場所で、俺は。

 

「ジェイドさぁ~ん……ルークぅ~……みんなぁ~……」

 

 ――早くもみんなとはぐれていた。

 

 今回は俺が何かやらかしたからではない。

 いや、間の悪さという点では俺のせいと言えなくもないかもしれないが、一応違うことにしておいてほしかった。

 

 エルドラントは記憶粒子を逆噴射させて、アルビオールに丸ごと体当たりを仕掛けてきた。

 それをかわし、対空放火をくぐり抜け、俺達がどうにか無事に着陸することが出来たのはまさにノエルのおかげだろう。でもそのすごさを思い知れる状況下での飛行は出来ればこれっきりにして欲しいところだった。心臓がいくつあっても足りない。

 

 俺とミュウだけ早くもよろよろしながらエルドラントに降り立って、最初に目に飛び込んできたのは、黒煙を上げるアルビオール三号機だった。ギンジさんが操縦していて、このところはアッシュが移動手段に使っていた機体だ。

 

 しかしアッシュの姿はすでに無く、残っていたギンジさんはエルドラント落下の衝撃で少し怪我をしたようだけど、命に別状はなさそうだったのでひとまず胸をなで下ろす。

 

 聞けば彼は、迎撃装置の死角から飛び込んで、そこにアルビオールの船体をぶつけることで対空放火を無効化したのだという。つまり俺達はギンジさんの特攻で出来た対空放火の隙間に着陸したらしい。

 色々と無茶だけど、実際に成功させてしまうあたり兄妹そろってものすごい操船技術だ。

 

 それから怪我をしているギンジさんのことをノエルに任せて、俺達は内部に突入するべく周囲の探索を始めた。

 

 エルドラントが体当たりを仕掛けた勢いのまま落下して大陸に突っ込んだせいでこの辺はかなり損傷が激しく、まずは無事に通れそうな通路を見つけなければいけなかったのだ。

 

 崩壊していたり大きな亀裂が走っていたりする場所を避けて、それぞれ進入路を探す。

 俺もまた、暗がりから突然ヴァンが出てきたらどうしようとか怯えつつも、端から順番に通路を覗き込んでいたわけなのだが。

 

 いくつめかの通路の入り口にさしかかったとき、ふっと風が頬の上を滑っていく感覚がして足を止めた。

 

 改めてそこを覗き込んでみるとやはり奥から風が吹いてくるのを感じる。

 空気が流れているなら、この通路はどこかに通じているのだろう。

 

 まぁ床が割れてるかもしれないし、通じているから通れるとも限らないけど、とにかくみんなに報告しようと振り返りかけた瞬間のことだった。

 

「リック! 前方へ飛びなさい!!」

 

 おそらく後退では間に合わないと判断してのことだったのだろう、と考えられたのはだいぶ後で、そのときはただ脊髄反射のごとく大佐の指示に従って動いていた。

 

 ビビる暇さえ与えなければそれなりに良い動きをする、と大佐に評された通り、ビビるどころか何が起きたのかさえ理解していなかった俺の体は全力で前に跳んだ。

 

 床に手をつき、受け身を取るようにくるりと一回転して体勢を立て直したところで、背後からとてつもない轟音と振動が響き、周囲が一気に暗くなった。

 

「………………えっ」

 

 反射で動いていた身にようやく思考能力が帰ってくる。

 冷や汗が一気にぶわりと溢れるのを感じながら、後ろを振り返った。

 

 暗がりに目をこらす。

 

 先ほどまで見えていたはずの風景が、瓦礫ですっかり埋め尽くされているのを認識した。

 

「ちょっ、えぇえ!!!? ジェイドさぁああん!!!?」

 

「おや。無事なようですね」

 

 瓦礫の向こうから聞こえたいつもどおりの声色に安心するやら安心している場合ではないやらで混乱する俺に、大佐……ではなく例によって説明を押しつけられたガイが教えてくれたところによると。

 

 上層で崩れた大きな瓦礫のかたまりが俺の頭上に降ってくる事に気づいた大佐が、とっさに先ほどの指示を飛ばしてくれたらしい。

 潰されずに済んだことは良かったけど、避けるために通路の奥に飛び込んだ俺は、表のみんなとは完全に分断されてしまったわけだ。

 

 ……わけだ。

 

「リック、大丈夫か!?」

 

「ルっ、ルークぅ」

 

 現状を正しく認識した俺が涙目になっていると、向こう側でも焦っているルークの声がした。

 

「なぁジェイド! 譜術でこの瓦礫どうにか吹き飛ばせないか?」

 

「そうですねぇ、七割くらいの確率でもろとも木っ端微塵に吹き飛ぶと思いますがよろしいですか?」

 

「よ、よろしくないです! ていうかそれ本当に生存率三割もありますか!?」

 

 何やら恐ろしい作戦が立ちかけたので俺も慌てて会話に割り込む。

 

「まぁ貴方やたら丈夫ですから、もしかしたら平気かもしれませんよ」

 

「あやふや!!!」

 

 こちらから瓦礫を吹き飛ばせれば一番いいんだろうけど、威力に加えて通路全体を崩落させないように調節して術を使うとか、とてもじゃないが俺にそんな真似は無理だ。

 こっちにいるのが大佐なら何とでもなるだろうけど、外からとなると、どう考えても俺ごと吹き飛ぶ可能性のほうが高かった。

 

「トクナガで殴り飛ばしたほうがまだ良くない?」

 

「……殴り飛ばした瓦礫に粉砕されるんじゃないか? リックが」

 

「では私がまずリヴァイブをかければ……」

 

「譜術による保護にも、さすがに限界があると思うわ」

 

 みんなが打開策を話し合ってくれている声を聞きながら、俺はふと顔を上げた。

 

 少し先の足下を見るのがやっとな暗闇の中、厚い瓦礫の向こうの様子なんてまるで分からないのに、俺にはなぜか、真剣な色を帯びた赤がこちらを向いているのが分かった気がした。

 

「リック」

 

 大佐の声。

 

「今ここから貴方を出すためだけに、無駄に時間を浪費することは出来ません」

 

「ジェイド!」

 

 いつだって残酷なくらいに真実を突きつけるその声が。

 

「――行けますね」

 

 『残るか』ではなく。

 『行けるか』ではなく。

 

 『行ける』と。

 

 一人で行けるだろうと、告げる。

 

 それは俺がずっと欲しかったもの。

 ビビリでヘタレで、どうしようもない俺が、ずっとずっと望んでいた、

 

「……っはい!」

 

 ――ジェイドさんからの、“信頼”。

 

 どこまでも現実を見るあの人が、俺が出来ると信じてくれている。

 そう気づいた瞬間、全身の音素が一気にぶわりと熱くなった気がした。

 

 声をうわずらせつつ肯定を返した俺に、ジェイドさんが微かに笑って「結構」と言うのが聞こえた。

 

「……リック。本当に、大丈夫なのか?」

 

 続けて聞こえてきた心配そうなルークの声に、俺は自分の声がなるべく自信の溢れた響きになりますようにと願いながら口を開く。

 

「奥は通じてるみたいだし平気だよ。オレはこっちを行ってみる。だから、後で合流しよう」

 

 ルークが迷わず先へ進めるようにはっきりとそう言い切れば、瓦礫の向こうからは短い沈黙の後、「わかった」と力強い返事が戻ってくる。

 

「気をつけろよ」

 

「うん。ルークも」

 

 そして徐々に離れていったみんなの足音を聞きながら、俺は己を鼓舞するように「よし」と拳を握り、薄暗い通路の奥に向かって身を翻した。

 

 

 ……なので、厳密に言うと“はぐれた”というより、“別行動を取っている”と言ったほうが正しいのだろう。

 

 俺としても最初は後者の意識が強かったのだが、時間が経つにつれ鼓舞した己はどんどん小さくなって、そのうちに元のヘタレでビビリな自分が舞い戻り、今ではすっかり前者の気分だ。

 

 だって通路がちゃんと内部に繋がってたのはいいけど、魔物図鑑でも見たことない強そうな魔物があちこちウロウロしているし、なんか変なスイッチ踏んじゃったら部屋がグルグル回転するし。

 エルドラントはホド島のレプリカらしいけど……ガイの故郷、すごいところだったんだな……。

 

 一人で行けると返した肯定に偽りも後悔もないが、出来れば早めに合流したいなぁと情けない溜息を零して目を伏せたそのとき。

 

 足に伝わったカチリという感触に戦慄が走る。

 

「ま、またあの変なスイッチ……ひぃ!?」

 

 地響きと共に傾きだした床から逃げるように重心を後ろにそらすが、傾斜はどんどんきつくなり、「床」はやがて「壁」に変わっていく。

 

 そして。

 

「じぇいどさぁああぁあん!!」

 

 俺の体は一気に転がり落ちていった。

 

 いや、かろうじて“駆け下りている”形ではあるけど、もはや両足は坂に沿って勝手に動いている感じなので、やっぱり“落ちている”が正しい気がする。

 

「ちょっ、待っ、止まっ、」

 

 部屋の回転はあっという間に終わったけれど、勢いのついた足が中々止まらない。

 涙目になりながら先ほどまで壁だった床を走り抜けていくと、目の前に大きな扉が立ちふさがった。

 

 ざっと血の気が引く。

 まずい。ぶつかる。

 

「すみません止まってくださいぃいぃい!!」

 

 己の両足にか、それともそこにかかる慣性の法則にか、自分でもよく分からないままに懇願しつつも止まらない足が大きく床を蹴った。

 

 脳裏に、扉に激突して吹っ飛ぶ自分の姿が過ぎるが、そこで奇跡は起こった。

 先ほどまで堅く閉ざされていた扉がゆっくりとその口を開き始めたのだ。

 

「良かった、たすかっ、……ぅわ!?」

 

 安心して力が抜けたせいで、スピードに追いつかなくなった足がもつれる。

 詰んのめった勢いで一瞬だけ宙に浮きあがった体は、まだ人ひとりが何とか通れる幅しか開いていない扉の中にすれすれで放り込まれた。

 

「ぅっわぶ!!」

 

 そんな状況で受け身なんて取れるはずもなく、顔から全身をビタンと床に打ち付けたところで、俺の体はようやく止まったのだった。

 

「~~~~~っ!!!」

 

 背後でまた扉が閉まったことに気付く余裕もないまま、俺は顔を押さえて悶絶する。

 さっきの勢いのまま扉にぶつかるよりはずっとましだが、結局痛いことに代わりはなかった。

 

「うう、助かったような助かってないような」

 

 半泣きでよろよろと身を起こしていると、ふいに、誰かの呆れたような深い溜息が耳に届いた。

 

「…………またお前か」

 

 聞き覚えのある声に、はっと顔を上げる。

 

 緋色の髪。

 ルークより少し濃い翠の瞳。

 

「アッシュ!」

 

 “面倒くさい奴に会ってしまった”というオーラを全身から醸し出し、眉間の皺を三割増しにしたアッシュの姿が、そこにはあった。

 

 

 





>ガイの故郷、すごいところだったんだな……。
待ってくれ誤解だ。(by.ガイ)
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