空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken- 作:甘味RX
一度はオアシスにたどり着いた俺達は、また砂漠を歩いていた。
ザオ遺跡?というところにイオン様がいる?という、六神将のアッシュ?からの情報?によって。
なんでこうも疑問符だらけかというと、情報を仕入れてくれたルークさん自身がいまいちよく分かっていないらしいからだ。
「それにしても、誰かの声が聞こえる、ですかぁ」
「な、なんだよ。疑ってんのか?」
隣を歩いていたルークさんがギッと俺を見た。
だけどどことなく不安そうな翠の瞳に、そんなわけないと笑顔を返す。
例の身長騒ぎがあった後くらいから、ルークさんはちょっと俺に気を許してくれたようで、こうしてたまに隣を並んで歩いているようになった。
それで嬉しくてしばらくニコニコ笑ったままルークさんを眺めていたら「なんだよ! こっち見んな!」と顔を真っ赤にしたルークさんに怒られました。ごめんなさいホントに嬉しくて。
俺はこれ以上機嫌を損ねる前にと慌ててさっき考えていた事を口にした。
「いえ、あの、俺にもそういうのあったなぁと思って」
「……ホントか?」
そっぽを向いていたルークさんが目を丸くして振り返る。
「はい、大佐じきじきの戦闘訓練の最中なんかに、よくお花畑の映像とセットで聞こえてきました」
「お、おまえソレ絶っ対ちがうぞ!」
「綺麗な川もありましたねぇ……」
「まずいって! マジでヤバいって! 幸せそうな顔すんなよ!」
うっとりと遠くを見る俺の肩を掴んでルークさんが前後に激しく揺する。
対岸にいたあの愛らしい女性はもしかしてユリア様だったんでしょうか。そういえばそのお隣では銀糸の髪が綺麗な女の人が手を振っていたなぁ……誰とか達をよろしくねと言われたような気が……あれは誰だったんだろうなぁ……。
「おい!リック! 帰って来い!! なぁってばー!」
俺は結局ジェイドさんに後ろからドツかれるまで、戻ってこなかったらしい。
*
そして何とか体中の水分が乾燥しきる前にザオ遺跡につくことが出来た。遺跡の中は外より格段涼しくて、快適といえば、快適だけど。
「どうして遺跡ってどれもこれも薄気味悪いんだ……。なんか砂だらけだし暗いし怖いし……」
俺がぶつぶつとぼやいていると、大佐が芝居じみた口調でおや、と言った。
「あなたに怖くないところなんてあるんですか?」
「ないです」
「さすがに即答はどうかと思いますよ」
「だって無いですよ! 俺が安心できるのは大佐の傍くらいのもんです!」
恐怖でヤケっぱちになりながら怒鳴るも、すぐにハッと口を押さえる。
しまった、なんてことだ。大佐相手に口答えしてしまった。だって怖くて。いや、今度は違う方向で怖くなったが。
これはタービュランスか、フレイムバーストかと肝を冷やしながら横目で様子を伺う。
「………………」
「……大佐?」
きっとあの怖い笑顔があるはずだ、と思っていた大佐は、真顔のままツカツカと歩き続けていた。心なしか歩調が早い。
一瞬呆気にとられたものの、俺も急いでスピードを上げて大佐の脇に並ぶ。
「ちょっ、大佐、大佐?」
しかし大佐は俺に目もくれない。
「なんなんですか! 急に黙らないでくださいよ! そ、それはそれで怖いじゃないですか! 大佐! 大佐~ぁ!」
「馬鹿がうつるからよらないでもらえますか?」
「えぇええええ!?」
なんで突然 罵倒されてるんですか! 俺なにか……したといえばしましたけど!
そのあと、長いコンパスを存分に生かして歩き去る大佐を走って追いかけ、泣きながらすがりついた俺を笑顔で蹴り飛ばした大佐はもういつもどおりで、ちょっと安心した。
*
「いちいち口出しするな、俺が親善大使なんだぞ!」
「これはこれは失礼しました。“親善大使 殿”」
大佐がそう言うと、ふん、と荒い足取りで先に行ってしまったルークさんの背中を眺める。俺は小さく溜息をついて目を細めた。
「俺、あんなふうになりたいなぁ……」
「そうですねぇ、もしその願いがかなった暁には貴方の上司は変わりますからそのつもりでお願いします」
「ぎゃあ大佐っ!!」
完全に独り言のつもりだった呟きが思いがけず拾われて、びくっと飛び退いた。
続けて、あんな部下冗談じゃないですよ、と吐き捨てた大佐に体が縮こまる。
い、いや、確かに軍属と思うとアレかもしれないですけど……。
……ホントに大佐とルークさん相性悪いなぁ。
「ち、違うんですよ、あの態度っていうか、自信っていうか、そういうのが羨ましいなっていう話で」
未だ自分に自信をもてずにいる俺は あの暴力的なまでの赤に憧れる。
こういうことを言うとまた、情けない、と怒られるんだろうなと肩を落とした俺の耳に届いたのは、浅い溜息だった。
「あなた達は足して二で割ったらちょうど良くなりそうなんですけどねぇ……」
へ?
*
イオン様は、ザオ遺跡の深部にある妙な扉の前にいた。
その両脇を固めているのは三人の六神将。ああなんかすごい矛盾した感じになった。
えーと、まあいいや、三人の六神将で、一人は大佐に封印術をかけた黒獅子ラルゴ、俺たちを呼び寄せた鮮血のアッシュ、そしてあの時の仮面の子だ。緑の髪の彼をアニスさんはシンクと呼んだ。
流れを見るに戦うしか無さそうだ。
剣を正面に構えたまま、俺はそろっと大佐を窺い見た。
「あのぅ、大佐、すごく今更なんですけど」
「なんですか?」
「俺たち七人ですよね」
「そうですね」
「向こう、三人ですよね?」
「数も数えられなくなりましたか?」
前を見据えたままの大佐がにっこりと笑う。俺は全力で首を横に振った。
「いやっ、そういうわけじゃないんですけど! ……あの、あの、これは……いわゆる袋叩きというヤツでh 」
「勝てば官軍です」
真顔に戻ってさらりと言った大佐に、思わず涙がちょちょぎれる。うあぁああ。
「シンク良いヤツなんですよ大佐ぁ。だからあまり酷い事は~……」
「まったく、何を持ってそう判断するんです?」
「なんか傍にいると落ちつきますっ!」
言ったら大佐に鼻で笑われました。
ほ、ホントなんですって!