空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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Act14 - アクゼリュスは大荒れの模様

 

 アクゼリュス内部の惨状に眉を顰めていたガイが、ふと俺のほうを見て目を丸くした。

 

「へぇ、さすが軍人。こういうところではあんまりビビらないんだな」

 

 俺はガイの空色の瞳をまっすぐ見返して、言った。

 

「怖くて死にそうですが何か」

 

「ごめん俺が悪かった」

 

 

 

 

 

 怖い。

 

 こういう災害現場での任務は何回かやったけど、それでも慣れるもんじゃなかった。もう一回言う、何度でも言う、怖い。

 

 余裕が無さ過ぎて表情が止まっていたらしく、ガイが勘違いして感心してくれたけど本音を言ったら何か心から謝罪された。それはそれで切ないものがあるけど怖いもんは怖い。

 

 脅えるかたわら、俺はルークさんの様子を横目で伺った。

 デオ峠で見せた焦りは少し収まっているようだったけど、なんだかぼんやりしていて、やっぱり様子はおかしいままだ。

 

 声をかけようかと何度も思っては、止めた。

 

 だってルークさんはレプリカだった。

 同じレプリカの俺が何をどう言えばいいっていうんだ。

 

 俺はぐっと唇を噛み締めて、足早に大佐の隣へ向かった。

 

 

 

 あらかた見てまわったアクゼリュスの状況は、とても酷いものだ。瘴気に侵された人達があちこちにいる。

 ここにいる軍医さんたちの手ではとてもじゃないが間に合わないだろう。今ナタリアさんや響長が必死に治療を手伝っている。

 

 ……レプリカが元素の結合を第七音素だけでされてるなら、俺にも第七音譜術士の素質ってないのかなぁ。そうしたら手伝えるのに。

 

「大佐」

 

「無理です」

 

「は、早いです! 早いですよ大佐! せめて最後まで聞いてくださいっ!」

 

「まあ絶対出来ないとは言いませんが、第七音素はろくに訓練もしてない者が扱えるほど簡単なものではありません」

 

 今は諦めなさい、と言う大佐に俺は肩を落としながら頷いた。

 確かに第七音素どころか譜術のひとつもまともに使えないんだから、一朝一夕で出来るはずないか。

 

 うう、マルクトで譜術使えない兵士は本当に肩身狭いよなぁトニー。

 タルタロスで死んだのであろう、同じ兵士仲間だった青年を思い浮かべる。……がんばろう……譜術修行……。

 

 

 とりあえず荷物運び等 出来そうなあたりから手伝いつつ、俺達はいよいよ取り残された人がいるという第十四坑道へ行く事になった。

 でも途中で第七譜石が見つかったとか見つからないとかで響長は別行動になっちゃうし、なんとなく心細い。

 

 あ、でも先遣隊の皆さんは先にいるのか。

 そう思うと同時にヴァン謡将の姿がザッと脳裏を過ぎった。

 

 うっかり剣に伸びかけた手を留めて、慌てて首を横に振る。

 

 ヴァン謡将が何だっていうんだ。

 ルークさんがあんなに信頼してる人じゃないか、大丈夫。大丈夫だ。

 

 自分に言い聞かせながら、坑道の奥へとまた一歩 足を踏み出した。

 

 

 

 第十四坑道の奥は外にもまして酷かった。取り残された人達が息も絶え絶えに倒れている。

 息を飲み、固まった足を叱咤して倒れる人に駆け寄った。しかし相手は意識があるかも怪しい。声を掛けても反応は鈍い。

 

 どうしよう。治癒術が使えるナタリアさんは別の人のところに行ってるし。

 グ、グミ食べさせたら……トドメだよな。重病人に突然グミはマズイよな。ダメだな。

 

 水ってどうしたっけ。

 ああ、上に置いてきたんだ。くそう俺の馬鹿。

 

 ぐるぐると考え込んでいると、上のほうがにわかに騒がしくなった。

 

「……様子がおかしい」

 

 大佐はそう呟くと、すぐに「見てきます」と続けた。身をひるがえそうとする大佐に慌てて駆け寄る。

 

「大佐、俺も行きます」

 

「私ひとりで大丈夫です。あなたはここに待機してください」

 

「……はいっ」

 

 心細さで返事にも力が入らない。

 だけど何とかキリッと顔を引き締めて返事をした俺を見て、大佐は少し頷いてから来た道を引き返していった。

 

「お気をつけて!」

 

 去る背中にそう声を掛けて、その後ろ姿が見えなくなるまで見送る。

 

 

 そして大佐が完全に見えなくなってから、俺は肩に入れていた力を一気に抜いた。(勝手に抜けたともいう)

 

 言われるままに残ったけど、どうしよう。やっぱり怖い。

 

 魔物すらいないほど濃い瘴気の中なのに、つい腰の剣に手が行く。

 無機質な柄に触れていると少し鼓動が落ち着いた。

 

 ……と、とりあえず病人の様子を……。

 

 そう思い足を踏み出しかけたところで、視界の端で動くものを見つけてそちらを見やると、坑道の奥に進んでいくルークさんとイオンさまの背中が見えた。

 俺はこの場所と二人を何度か見比べて、数秒のうちに海より深く迷ってから、二人の後を追って走り出した。

 

 だってルークさんなんか様子おかしいし、イオンさまは体弱いし。

 あの二人はほっとけない。

 

 せめて誰かに言っていければよかったけど、みんなかなり散って看病をしていたので、それが叶わなかったことを心の中で詫びる。主に大佐に。

 ごめんなさい大佐ごめんなさいホントごめんなさい。二人に追いついたらすぐ一緒に戻ってきますから。

 

 

 ルークさんたちが行ったほうへ走ってみると、そこにはぽっかりと開いた扉の形の穴があった。なんだこれ。

 不思議に思いつつも急いでそこへ飛び込む。

 

 

 目の前に広がった広大な光景に一瞬目を疑うも、少し先に二人の姿を見つけて駆け寄った。

 

「ルー、クさん! イオンさ、まっ!」

 

 短い距離とはいえかなり全力で走ったので息が切れる。追いついた俺を見てイオンさまが目を見開いた。

 

「リック」

 

「二人共どうしたんですか こんなとこまで!」

 

「それは、あの……」

 

 イオンさまの目がちらりと動く。ソレを追って俺も視線をずらせば、そこにはまず、ルークさん。

 彼は俺を見て、なんだ着いてきたのか、と言ったけど特に咎めはしなかった。

 

 そして次に、

 

「ヴァン……謡将?」

 

 二人を先導するように歩いているのは、まさしく彼だった。

 すでに触れていた剣の柄を強く握る。

 

 ああ、なんでまた俺はこんなことしてるんだ。だけど何故か手は剣から離れない。

 仕方なくそのままヴァン謡将を見ていると、彼は一瞬だけ俺のほうを見たけど、何も言わずにまた前を向いて歩き出した。

 

 な、なんなんだろう。

 

「まぁいいや、お前も来いよ」

 

 緊張しきりの俺の耳にルークさんの声が割り込んだ。

 目をやると、ルークさんはひどく機嫌良く笑っていた。

 

「ど、どこへ、ですか?」

 

「それは分かんねーけど……とにかく俺は英雄になるんだ!」

 

 英雄。突然出てきた言葉に目を丸くする。

 

「俺が、アクゼリュスを救うんだ」

 

 俺が返す言葉をさがしている間に、ルークさんはそう言葉を続けた。

 

 アクゼリュスを救う?

 

 隣のイオンさまと顔を見合わせる。

 どうなんだろう、出来るのか。でも今までそんな話一度も。

 

 疑問を目でイオンさまにぶつけると、彼も分からないようで首を横に振った。

 

 うぅうん、と唸る。

 

 早く二人を連れて帰らないといけないけど、でもヴァン謡将が二人を連れて行くべきだと判断したなら、所属国が違うとはいえただの兵士である俺はそれに従うべきだ。

 

 だけど、さっきから頭の奥がすごくきしむ。

 本当にこのままついて行っていいのだろうか。

 

(いいやっ、何を疑ってるんだ、俺は!)

 

 ルークさんがこんなに信じてる人なんだから……大丈夫だ。きっと。

 

 また自分に言い聞かせ、俺たちは不思議な建物の中をどんどん下へと進んでいった。

 

 

 

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