空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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ルーク視点


Act17.2 - お前はいったいなんなんだ!

 

 ワイヨン鏡窟を目指しベルケンド港に向かっているみんなが、途中の平原で休憩をとっているのを、俺はアッシュの目を通してぼんやりと眺めていた。

 

 どことなく静かで、どことなく重さを感じさせる空気。

 その原因は、普段みんなの間を取り持つ役割をしていた仲間の不在か。俺を待つといってベルケンドで別れたガイの姿が脳裏を過ぎる。

 

 アニスがなんとか明るい声を出しているけれど、どうしても沈黙が痛い。

 あとそれらしい原因といえば、あいつが静かなせいだろうか。

 

 視界の端に映る青年を見やる。

 

 いつも笑うか泣くか叫ぶかとにかくやかましい男が、静かなんだ。

 まあ相変わらずジェイドの後をついて歩いて怒られてはいるから、当社比でだけど。

 

 そこで思い浮かぶのはタルタロスでのリックだった。

 

 『オ、オリジナルから見たレプリカってどういうものなんだ!?』

 

 俺の事を言っているのかなと思ったけど、どうも様子が違った気がする。

 ああ、そういえばリックが比較的 静かになったのは、あれからのような……。

 

(おい、屑。あいつは何なんだ)

 

 突然響いてきた声に驚いて意識を外へ戻すと、さっきまで視界の端にいたリックが限りなく真ん中にきていて、重ねて驚いた。

 

(え、あ、リックのことか?)

 

(名前なんざどうでもいい)

 

(どうっ……。……マルクト軍の兵士だよ、ジェイド直属の部下)

 

 そう返すと、アッシュの声はなぜかぴたりと止んだ。

 

(……死霊使いの直属、か)

 

 やがて零された声は俺に向けられたものではなく独白のようで、返事をしたものかと悩んでいると、ふいに視界が動いた。

 

「隣、大丈夫?」

 

 気付くと、木の根元に腰を下ろしているアッシュの前に、リックがいた。なんてタイムリーな。

 

「勝手にしろ」

 

「そっか」

 

 アッシュのぞんざいな返事もほとんど頭に届いてない様子でリックが隣に座る。

 そのまましばらく、気まずい時間が流れた。

 いや、アッシュはいつもどおり不機嫌だし、リックは心ここにあらずの状態なので、気まずいのは俺だけみたいだけど。

 

 どうしよう何か喋れってアッシュに促してみようか、なんて俺がすっ飛んだ事を考え出したころ、唐突にリックが口を開いた。

 

「なぁ、アッシュ……さん。ガイが行っちゃって、寂しい?」

 

「そんなわけあるか!」

 

 開口一番アッシュの逆鱗に触れたリックは、いつもだったら即座に脅えて謝るんだろうに、このときはただ遠い目をして「そっかぁ」と相槌を打っただけだった。

 

 アッシュとビビリ無しに会話なんて、何か変なもの食べたのか、よもや熱でもあるんじゃないのか。

 俺がそんなことを疑っている間にも二人の会話が続いていく。

 

「アッシュがルークじゃなくなって、七年だよな。七年って、短かったか? 長かったか?」

 

「お前、斬られたいのか」

 

「いや そういうんじゃないんだけど」

 

「……なんだ」

 

 考え事をしているせいで普段のビビリ脳がいまいち働いていないらしい。

 あまりに手ごたえのない反応に、アッシュも一旦怒りを引っ込めたようだ。

 

「俺は、十年かかってようやくこの程度なのに、七年で“生きてる”世界に放り出されるってのは、どんだけなんだろうなぁ。どんだけ、怖いんだろなぁ」

 

 これは俺のことだ、と漠然と思った。

 

 ぼんやりとしたままリックは言葉を続けた。

 

「でも俺には七年の短さ以上に長さがもっと想像できないんだ。七年は、長いのか」

 

「…………」

 

「“これまで”の自分が突然無くなるって、どんな気持ちだ? 突然“生きてた”世界が壊れるのってのは、どんな気持ちなんだ?」

 

 泣くでも、表情を歪めるでもなく、リックはただぼんやりと呟いた。

 

 何を言っているのか、俺には全然わからなかったけど、ただ少し離れたところにいるジェイドがその赤い目をすがめているのが見えた。

 

「……知るかよ。俺に聞いてばっかりいないでテメェの頭で考えろ。じゃないと一生分からねぇぞ」

 

 アッシュはそう言って立ち上がった。

 出発の号令を掛けに行くのだろうと思いつつも、俺はもう視界に映っていないリックの事が少し気がかりだった。

 

 

「あのひと達は、どんな気持ちだったんだ」

 

 離れていく背中に届いた微かな声。

 それはすでにアッシュに向けられてはいない。

 

 その自問のような呟きが、いつまでも耳の奥に残っていた。

 

 

 

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