空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

35 / 197
Act20 - みんなで一緒に歩きましょう

 

 アラミス湧水洞の出口を抜けて、降り注ぐ光のまぶしさに今一度目をすがめた。

 

 やっと出られた、と伸びをするガイやルーク、目の上に手を当てて眩しげに光をさえぎるティアさんたちを見ながら、俺は情けなく眉尻を下げた。

 

 もうお別れなんだ。

 

「……あの、」

 

 どう切り出そうかと迷いつつ出した声は、光の向こうからやってくる人影を見つけた瞬間に途切れた。

 

 目と口がパカッと間抜けに開くのを自分でも感じる。

 俺が固まったのに気付いたみんなも同じ方向を向いて、やはり動きを止めた。

 

 あれは、あれは……。

 

「ああ、よかった。入れ違いになったかと心配していました」

 

 金茶の髪。真っ赤な目。青い軍服。

 

 間違いない、間違いない!

 ジェイドさんだ!!

 

「も、もしかして俺を迎えに!?」

 

「イヤですねぇそんなわけないじゃないですか」

 

 こちらを見もせずガイのほうを向いたままそう切り捨てた大佐に、俺はがくりと肩を落とした。

 

「……ですよね」

 

 ううう、分かってたけど、ジェイドさんだ……。

 

 やるせなさやら安堵やら、複雑な気持ちで ぼたぼたと地面に落ちる自分の涙を眺める。久しぶりに浴びる太陽光がなんだかすごく目に染みます陛下。

 

「私は、自分の意思で出て行った人のことなんて知りませんよ」

 

 うなだれる俺の頭上から降ってきた言葉に、べっこりヘコみかけていた心が止まる。

 だって今、大佐の言葉が柔らかかった。

 

 これは、褒めてくれてるときの、声。

 

 勢いよく顔を上げるも、大佐はすでに後姿で、ガイたちと何かを話している。

 

 大佐はなんて言った。

 自分の意思。

 

(じぶんの意思?)

 

 そういえば、俺、大佐に真っ向から逆らってまで自分で“こうしたい”と思って動いたの、初めてだ。

 

「……ジェ……っ」

 

 ぶわりと視界がにじむ。

 そして、それはもう吹き飛ばす勢いで大佐の背中に飛びつく。(でもさすがというか吹き飛ばなかった)

 

「ジェイドさぁん! 好きですー! 大 好 き で す ー !!」

 

「あーハイハイ分かってます分かってます」

 

 大号泣しながらそう叫ぶと、ルークたちが一斉にぶはっと噴き出した。

 

 一級ホラーを見たような顔の彼らに俺は残念ながら気づく事なく、俺の額をガッと掴んで引き剥がそうとしつつ、棒読みで返事をする大佐に全力でへばりついていた。

 

「ところで人の話 聞いてました?」

 

「え?」

 

 

 

 笑顔の大佐からタービュランスをくらった後、もう一度現状についての説明をしてもらった俺は、どこかの絵画よろしく絶句した。

 

 だってナタリアさんとイオンさまが軟禁で、そのせいで戦争が起きそうでと色々大変で大変なんだけど、とりあえずナタリアさんとイオンさまが、大変だ!

 

「二人が泣いてらっしゃったらどうしましょう大佐ぁ!!」

 

「だから前も言いましたけどね。 ええ、もう一度言いますよ。あなたじゃないんですから」

 

 冷めた視線で真っ直ぐ前を見ながら言う大佐。

 しかし俺の脳裏にはすでに、木の枝でつんつくつんつく突付かれる二人の姿が描かれていた。あああ、モースめ何てことを。

 

 

 そんなわけで一同ダアトへ向かう事になった。

 

 なりゆきとはいえルークたちと離れずに済んだし、大佐にも置いてかれないで済んだし、……ただナタリアさんとイオンさまのことは心配だったけど、俺は比較的上機嫌だった。

 

「リック」

 

 パーティの後方を弾むように歩いていた俺に、ふとガイが声を掛けてきた。

 

「ん~?」

 

「お前 機嫌良いな……。いや、ていうか、お前がよくこの状況でビビらずにいるなぁ」

 

 ガイは笑顔の俺を不思議そうに見て、それからツイと視線を前方へうつした。

 そこには絶対零度の風吹きすさぶ笑顔を浮かべる大佐と、しょんぼりと肩を落としているルークの姿。

 

 先ほどに引き続き、どうやらまた何か言われたらしい。

 アラミス湧水洞で再会してからというもの、道中ずっとあの調子だった。

 

「なぁ、適当なところでジェイドを止めてやってくれよ」

 

 心配げな顔をしたガイは、手を軽く前に合わせて「頼む」と続けた。

 その姿に、やっぱりガイはルークのお父さんみたいだ、と思いつつ、俺は歌い出しそうな気持ちで笑みを深める。

 

「アレは大丈夫だよ」

 

「ん?」

 

「大佐の声がとがってないもん」

 

「……そうかぁ?」

 

 俺の笑顔と大佐の背中を何度か見比べて、ガイが怪訝そうに首をかしげた。

 

 でもこれは本当に大丈夫だと思う。

 確かに機嫌としてはあまりよろしくないかもしれないけど、最悪じゃない。

 

 幾度となくあの絶対零度を受けた俺が言うんだから間違いないはずだ。ちょっと泣きそうだとかそんなことない。

 

「あとはもう大佐イコール嫌味っていうか、嫌味で意地悪じゃなきゃ大佐じゃないってくらい大佐と嫌味は表裏一体だから声が尖ってない以上あの嫌味はライフワークとか軽口みたいなモノなんであんまり気にしなくても嫌味が元々だかr 」

 

 

 タービュランスくらいました。

 (本日二度目)

 

 

 

 苦笑するガイに引き起こされながら、ちらりと大佐とルークの背中を見やった。

 

 大佐が本当にルークのことを見限ったならば、きっと会話すらしない。

 だから大佐が嫌味でも言うってことは、まだあるはずなんだ。

 

 “ルーク”を諦めていない部分が、どこかに。

 

 

 俺はまた少し、笑みを浮かべた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告