空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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Act20.2 - なのにあなたはダアトへ行くの!?

 

 俺達は今、ローレライ教団の本拠地、ダアトに来ている。

 囚われの身となったナタリアさんとイオンさまを救出するためだ。

 

 

 ……しかし俺は何故か、教会内の図書室にて本を片手にぼんやりと机についていた。

 

 気持ちばかり開かれたまま一向にページが進まない『誰にでも出来る やさしい譜術』が、よりいっそうむなしさを引き立てている。

 

「…………」

 

 おかしい。なんでこんなことになってるんだ。

 全く頭に入らない文章を睨みつけながら、俺は少し前の記憶をなぞる。

 

 ダアトについて、アニスさんとも合流できて、さあいよいよ突入だというときになったところで、大佐は突如俺に残れと言った。

 

 もちろんごねた。

 いや、正直戦うのは怖かったから行かずに済むなら行きたくなかったけど、みんなが行くのに俺だけ残るっていうのは寂しすぎる。

 

 何でですかどうしてですかと泣きながらすがりつく俺に、それはもう寒気がするほど輝かしい笑顔を浮かべた大佐が言った。

 

 『目立ってはいけないってときに一々ビビってギャアギャア騒ぐ人連れて行けませんから』

 

 ほんと、もう、とても綺麗な笑顔でした。

 回想を終えたと同時に机につっぷして無言で泣く。

 

 最初は偉い人が使ってるとかで貸切だったんだけど、少し前にそれが解かれたようだったので、俺はまだほとんど人がいない図書室にてこうしてみんなを待ってる。寂しいです大佐……。

 

 ただ待っていると、どんどん不安になってくる。

 ナタリアさんは大丈夫だろうか。イオンさまは具合悪くしてないだろうか。

 

 そもそも、みんなは無事に二人の元へたどりつけるんだろうか。

 

 導師派や中立の人たちもいるとはいえ、神託の盾騎士団本部なんて、俺たちにしてみれば敵だらけじゃないか。

 

「…………はぁ」

 

 マイナス思考の無限ループを少しでも脱却しようと本を読み出したものの、状況はあまり変わらなかった。

 

 結局ほとんど読めなかったそれを閉じて、つっぷした顔の向きを変える。

 そこには適当な本棚から持ってきた何冊かの本が出番のないままに積まれていた。

 

 その中に一冊だけフォミクリーについての本が混じっているのに気付く。これはもちろん無機物に対する方法が書かれた一般的なものだ。

 

 それをぼんやりと眺めながら、俺は小さく溜息をついた。

 

 

 生まれてから最低限の常識を覚えるまで三年。

 大佐を追いかけたくて、兵士になるための研修に一年。

 兵士になってまた三年。

 それで、大佐の直属部下になって、三年。

 

 なんだか怒涛のように過ぎた十年間だったけど、俺はちっとも変わっていない気がする。

 

 生まれたときから?

 

 違う、あのときから。

 

 『 おにいちゃんの ――― 』

 

 ぎゅっと眉間に皺を寄せた。

 

 アラミス湧水洞で変わりたいと思ったことは嘘じゃない。

 

 でも、この十年で、どれだけのことが出来たんだろう。

 それに十年かかっても進歩のない俺が、今更、変われるんだろうか。

 

「……ルークは変わったよ」

 

 ぽつりと呟く。

 

 彼も本当はまだ変われてはいないのかもしれない。けど、変わろうとしている。

 俺はこのまま足踏みしてるだけなのか?

 

 

 そこまで考えて、ぐったりと机に体重を預けた。

 やっぱり、ひとりって寂しいです、ジェイドさん……。

 

 このままだとどんどんおかしな方向に思考が流れていきそうだ。

 俺は限界を感じて、本を元の位置に返してから図書室を出た。

 

 さらにひろいホールを通り抜けて教会の外に出る。

 出入り口の大きな扉の前に立ち尽くし途方にくれていると、門番の兵士さんたちにちょっと心配された。うう、おかまいなく……。

 

 

 いよいよ涙がちょちょ切れてきた俺の後頭部に、突如鈍い衝撃が走る。

 

 それが中から思い切り開かれた扉が当たったのだと気付くのに時間は要らなかった。いやだってこれすごいデジャブ。

 勢い良く地面につっぷした後、俺は違う意味で涙を浮かべながら後ろを振り返る。

 

 そこに大好きな赤い瞳と、大好きな赤い髪を見つけて、これもまた違う意味で泣いた。

 

「おかえりなさいルーク、ジェイドさぁああんっ!!」

 

 歓喜のあまり抱きつこうとして大佐に額を押さえられたところで、その後ろから現れた綺麗な金と優しい緑に、俺は涙が枯渇しそうだ。

 

「ナタリアさぁんっ! イオンさ、ま ぉグッ」

 

「急いで逃げますよ。感動の再会は後にしなさい」

 

 全力でお二人に詰め寄ろうとした俺の首根っこをすばやく捕まえた大佐が淡々とそう告げるのを、半分の思考で聞いた。もう半分は、なんだか久しぶりにお花畑へ片足をつっこんでいる。

 

 あ、ユリアさま……。

 

 

 

 

 第四石碑の丘までたどり着いたところで、俺はようやっと首周りの拘束を解かれた。

 酸欠でぐらぐらしながらも、あらためてナタリアさんとイオンさまに向かい合う。

 

「おっ、おふたりとも、ごっ、ご無事で、よ、よかっ……!!」

 

「……僕らは無事ですが……」

 

「まぁ、顔が紫色ですわよリック」

 

 言いづらそうに苦笑したイオンさまの隣、言葉を続けたナタリアさんが小首をかしげた。

 

「どうしましたの?」

 

「いえもう本当にお気になさら……気にしないでくれ」

 

 途中できらりと鋭くなったナタリアさんの目に気付いて慌てて敬語を外す。ずっと補給できなかった酸素と運命の再会を果たしただけなんです。

 斜め後ろでたぶん他人事のような笑顔を浮かべているのであろう大佐を脳裏にえがく。

 

 ふ、と短く息をはいてから、笑みを浮かべたアニスさんが口を開いた。

 

「またこのメンツがそろったね~」

 

 ちょこっとだけ俺への助け舟でもあったようなタイミングに、彼女に向かってひっそりと両手を合わせると、すぐさまあくどい笑みと共に手が金という意味の形に作られたのに肩が下がる。だ、だから俺、薄給で……。

 

「ユリアの預言に関わる者、各国の重要な立場の人間……偶然ではないような気もいたしますわ」

 

「若干重要でもなんでもないただの兵士とかただのビビリとかただのヘタレとか混じってますけどねぇ」

 

「超ピンポイントー!! うわあぁんもうみんなして俺のことイジメて全くもうホント帰って来てくれてありがとうー!」

 

 いじめられてる事さえちょっと嬉しい俺はなんなんだ。あの図書室で一人きりが本気で寂しすぎたのがいけないんだ。

 

 にぎやかな話し声を聞きながら、俺はそっと涙を拭ってみた。

 

 

 

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