空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

38 / 197
Act22 - 目的地は、雪の街?

 

 ローテルロー橋へ向かうタルタロスの艦橋で、簡単な操作以外は特にやることがない(ありていに言えばヒマな)俺達は雑談に花を咲かせていた。

 

「男は黙ってタルタロスだよな!」

 

「ですのー!」

 

「えぇ~、じゃあリックは?」

 

 少し離れた操作席から身を乗り出して俺を振り返ったアニスさんに、俺は一瞬言葉を詰まらせた末、恐る恐る口を開いた。

 

「お、俺もどちらかといえば……タルタロスのほう、」

 

「プリンセスナタリア号だよね?」

 

「ハイもちろんですアニス様!!」

 

「様!?」

 

 全開の笑顔で頷いた俺を隣の席にいたガイが驚愕の顔で振り向く。

 

 聞くな。なにも聞くな。頼むから。

 彼女には逆らっちゃダメだって俺の中の第七音素が全力で訴えてるんだ。

 

「……脅してやるなよ アニス」

 

「だって面白いんだも~ん!」

 

 緩衝材的にガイとアニスさんの間にいるルークが軽く制すると、アニスさんは両頬に指を当ててとても愛らしい笑顔でそう返した。泣きながら肩を落とした俺の背をガイが同情するように叩いてくれる。

 

 すると、ふと声のトーンを不思議そうなものに変えて、「ていうか」とアニスさんが首をかしげた。

 

「ルークがリック庇うんだ」

 

「……は!?」

 

 突然の言葉に、ガタンと音をさせて椅子からずり落ちかけたルークが顔を真っ赤にしてアニスさんを見やる。

 

「なにが、なっ、なんだよ、ソレ!」

 

「そ、そんなに驚くことじゃないじゃん!? いま私のほうが驚いたよぅ!」

 

 アニスさんは心臓に手を当てて言ったあと、一度呼吸を落ち着かせてからあらためて口を開いた。

 

「だって前のルークだったら絶対ありえなかったし……やっぱ髪切った効果?」

 

「お、オレの一大決心 髪効果で済ますなよ! これはケジメっつーか……」

 

「あーもう。そうじゃなくて、つまり、“なんか仲良くなった?”ってことッ!」

 

 いよいよ真っ赤になったルークの動きがびしりと固まったのを見ながら、俺はといえば、顔が緩みっぱなしだった。

 

 やっぱりなぁ。

 やっぱり、ルークは優しいやつだ。

 

 アニスさんが言ったように、少しでも前より……な、仲、良くっ、なれてるなら、嬉しいなぁ。

 

 仲良くなる。なんて夢のような言葉だろう。

 

 そっぽを向いてしまったルークと、にやける俺を見比べて肩をすくめたアニスさんは、気を取り直すように隣に座るティアさんへ向き直った。

 

「ティアは? プリンセスナタリア号だよねっ!」

 

「わ……私は、トクナガのほうが……」

 

 消え入るような声で呟かれたソレは、俺にはほとんど聞き取ることが出来なかったけど、ただ大佐がわざとらしく咳払いをした後、ティアさんが慌てたように息を詰めたのは分かった。

 な、なんて言ったんだろう……。

 

 

 ためしに聞いてみようか、なんて思ったとき、突如船体が大きく揺れた。

 

 そして揺れがおさまったのを感じると、俺はハッとして立ち上がった。軍で叩き込まれたマニュアルが波のように頭へ押し寄せてくる。

 こういうトラブルが起きたときに動かなきゃいけないのは下っ端で、つまり俺だ。

 

「あ、お、俺っ、確認してきますっ!」

 

「私が見てきます。異常があったとして貴方の頭じゃどうしようもないでしょう」

 

「すみませんその通りです!」

 

「ま、一応ついて来て下さい」

 

 俺に出来るのはまさしく“確認”だけだった。

 故障があったとして、オモチャのような簡単な譜業ならともかく戦艦を直せる技術はないし。だから情けなくも大佐にご足労願うしかない。

 

「俺も行く!」

 

 音機関の修理なら多少は手伝える、と名乗りを上げたガイとも一緒に、俺達は三人で異常個所の様子を見に行った。

 

 

 パネルに出たエラーメッセージを元にたどり着いたのは機関部。

 

 修理は出来ずとも壊れているかどうかくらいは分かるので、俺も一緒に点検をする。

 とりあえず致命傷ではないみたいだ。軽くもないけど。

 

「どう?」

 

「まぁ……動かない事はない、っていう感じだな」

 

 ガイにスパナを手渡しながら聞くと、そんなちょっと不安な返事が戻ってきた。

 うぅん、と唸りながら、伝声管から艦橋のルークたちへ状況を伝えている大佐を振り返る。

 

 応急処置でなんとか動きそうだと言う大佐に、顔のすすを払いながら立ち上がったガイが、出来ればどこかで修理したほうがいい、と声を上げた。たしかにこのままローテルロー橋を目指すのは心もとない。

 

 思案するような間の後に、向こうから返ってきたのはティアさんの声だ。

 

『停泊可能な港で一番近いのは、ケテルブルク港です』

 

 大佐が一瞬だけ、動きを固めたような気がした。

 

『じゃあそこへ行こう。いいだろ、ジェイド』

 

 続けて響いたルークの声。

 それに対し、いつも朗々と流れ出る大佐の声がめずらしく詰まった。

 

「……まぁ……」

 

 そんなイエスともノーともつかない返事に、俺は後ろでこっそりと苦笑する。

 

 大佐はあまり自分のことを話してくれないけど、代わりというように陛下はよく色んな事を話してくれた。

 その話の中によく出てきた。ジェイドさんの故郷で、陛下が一時疎開していたという、雪の街。

 

 それを確かケテルブルクといったはずだ。

 

 大佐の口からはただの一度も聞いた事がない。

 帰省したという話も、俺が生まれてからはまったく聞いていないと思うから、そのへんを考えると大佐はあまり故郷には帰りたくないんだろう。

 

 だけど「行きたくないから」で進路を変えさせる人じゃないし、状況を考えても行かざるを得ないということでの決断だろうが、その本当に珍しい煮え切らない態度に、またすこし苦笑を深める。

 

 ……大佐には悪いけど、俺は正直なところ大佐の生まれ故郷を見られるということで、ちょこっとわくわくしていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告