空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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Act22.2 - 初めましてケテルブルク

 

 やってきました、銀世界。

 目の前に広がる光景に俺は目を輝かせた。

 

 すごい、ここが大佐の生まれ故郷なんだ。

 雪国っていうのは陛下から聞いていたけど、こんなに綺麗なところだとは思わなかった。そういえば雪っていうやつは冷たいけど温かくて、大佐によく似ている。

 

 小さなころの大佐はこのへんで遊んだりしたのだろうか。

 いやいや、このへんかもしれない。

 

 そんなことを考えてきょろきょろと辺りを見回しながら蛇行していると、大佐にキュッと服の首根っこを引っ張られて、俺の体はあえなく引きずられていった。

 

 ああ、もうちょっと、もうちょっとジェイドさんの故郷に浸らせてください……!

 

 

 知事邸に向かって歩き進めるうち、街の人の話がちらほらと耳に入ってくる。

 そしてその中でも多いのが、バルフォア博士とネイス博士についての話だった。

 

 やっぱりジェイドさんは頭が良いんだなぁと誇らしい気持ちになる反面で、首をかしげる。

 

「バルフォア博士とネイス博士というのは……大佐と?」

 

 同じように不思議に思ったらしいティアさんの声が聞こえたのと同時に、つかまれていた俺の首根っこが解放された。

 俺は重力そのままに地面にしりもちをついてギャッと声を上げた。だ、だって凍ってて冷たい上に硬くなってて痛いし。臀部をさすりつつ立ち上がる。

 

 ティアさんの問いに答えたのは、大佐ではなくてイオンさま。

 

「ディストですよ」

 

 ほがらかな笑みを浮かべながら告げられたそれに、俺は痛みも忘れて目を見開いた。

 

「はぅあ! ディストが天才!?」

 

「ディストがジェイドさんと同郷!!?」

 

 アニスさんと俺、驚くポイントは微妙にずれていたが、どちらも驚愕の事実には違いない。ただ俺の言葉に大佐が少し顔を歪めたのが見えた。

 

 聞けばアニスさんのトクナガを作ったのはディストであるそうだ。

 トクナガの構造はすごいから、それを作ったのがディストなら、確かにあいつも天才なんだろう。

 

 ……て、ていうかジェイドさんと同郷ジェイドさんと同郷ジェイドさんと……。

 

「悪いやつじゃないんだけど、いいやつでもないんだよね~。二言目には大佐の話しかしないし……あ、そのへんちょっとリックに似てるかも」

 

 大佐とディストが同じ出身ということにひそかにショックを受けていた俺は、アニスさんの言葉にがばっと顔を上げた。

 

「冗談じゃないですよアニスさん! 何で俺があんな大佐に害なすハナタレと!! あの人出てくるたび大佐に構ってもらっててずるいんですよ! どのへんが似てるって言うんですかぁ!」

 

「なんていうか、そのへんが」

 

 握りこぶしをつくって力説しながら詰め寄ると、アニスさんの呆れたような視線が戻ってくる。いや、俺とディストなんてちっとも似てないじゃないか。似てないに決まってる。

 

 そこへ苦笑するガイの声が続く。

 

「……あれ、構ってもらってるっていうより、イジメられてるんじゃないか?」

 

「バカだから区別がついてないんです。あぁ、言われてみると似てますね。あの貶しても貶してもヘコたれないあたりが」

 

「大佐まで!?」

 

 かの人にまで肯定されて、俺はほんのり泣きそうだった。

 

 に、似てませんよ!!

 

 

 

 

 ようやくたどり着いたケテルブルク知事邸の中には、想像していた以上に若い綺麗な女の人がいた。

 その眼鏡をかけた知的な容姿は、どことなく大佐の女性版のようだ。いやはや不思議なことに面立ちまで似ているような。

 

「お兄さん!?」

 

 まぁオールドラントには三人のそっくりさんがいるというし……。

 

「お兄さん!? え、マジ!?」

 

 ほらルークだって驚いて……お兄さんって……。

 ………………。

 

「おにいさん!??」

 

「反応おせぇよ! ……いやっ、つーかお前も驚くのかよ!?」

 

「だだだだってルーク俺ジェイドさんがお兄さんとか知らっ、えええぇー!!」

 

「驚きすぎ!! 落ち着け!」

 

 両肩を掴まれて前後に揺さぶられる。

 

 最終的に大佐の蹴りで微妙に落ち着きを取り戻した俺に向かって、当の大佐がひとつ溜息を吐いた。

 

「てっきりこれも陛下から聞いていると思っていたんですが」

 

 陛下づてに俺が大佐の昔話を聞いていた事はとうにお見通しだったらしい。

 それはもう大佐だから驚くことでもないけど、妹さんがいらっしゃったというのはまだ衝撃だ。

 

 いや、待て、そういえば。

 

「……とにかく綺麗で可愛くて美人で愛らしい女性がケテルブルクにいるんだと、アホみたいに語られたことがあるような……」

 

「それです」

 

 だけど大佐の妹さんとは聞いた事がないと思うんですが陛下。あれ、ねぇ、陛下。

 そして聞くや否やこの上なく輝かしい笑顔になった大佐が怖い。ごめんなさいピオニーさん、俺いらんこと言ったかもしれません。謁見の間に炸裂するフレイムバーストが瞼の向こうに見えた気がした。

 

 

 大佐の妹さん――ネフリーさんは、女性だからか大佐よりは柔和な印象を受けるけど、やっぱりというか雰囲気なんかはジェイドさんによく似ている。

 そのせいか初めて会った気がしなくて、相手は知事なのに俺にはめずらしくあまりビビらず人見知りもしなかった。

 

 新しく知る事が出来たジェイドさんの事や、ジェイドさんと同じ瞳に気持ちをやわらげつつ、俺達はネフリーさんが手配してくれたホテルに向かった。

 

 

 そしてたどり着いた先で、せっかくほぐれた気持ちが物凄い勢いで硬くなる。

 ホテルって、ホテルってここなのか。

 

 豪華絢爛きらきらお金持ち使用、ケテルブルクホテル。

 

 自分でお金払うから安宿に行かせてくださいと言いたい気持ちを必死で堪える。だ、だってせっかくネフリーさんが用意してくれたのに。

 観葉植物の陰に隠れてきらびやかな世界に脅えていると、ルークが突然「あ」と声を上げた。

 

「おれ、ネフリーさんとこに忘れ物したー」

 

 俺も行こうか、というガイの言葉を振り切って、足早にホテルを出て行ってしまったルークを少しの間みんなでぽかんと見送った。

 しかしこの人数でロビーに溜まっているのも迷惑なので、とりあえず先に部屋へ行っていようと皆でエレベーターのほうへ向かう。

 

 ルークの忘れ物ってなんなんだろう。忘れるようなもの持ってたっけかな。

 首を捻りつつ、ルークが出て行った扉のほうを眺めていると、ふいに背中を押された。

 

 突然の事にたたらを踏みながら振り返る。

 後ろには、俺を押し出したなごりで軽く腕を上げたままの大佐がいた。

 

「す、すみません! すぐ行きます!」

 

「ルークと一緒に行ってきなさい」

 

 もたもたしていた事を怒られたのかと慌てて荷物を手に取った俺を制するように、大佐がそう言った。呆気にとられて目が丸くなる。

 

「でもルークは一人でいいって言ってましたよ。ついてったら怒るんじゃ、」

 

「行きなさい」

 

「……大佐?」

 

 だが、いつになく真剣な赤い瞳に、俺はそれ以上なにも言えず頷いた。

 様子の違う大佐が気になりつつも、先を行ったルークを追って走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

「聞く権利、というものが存在するなら、……あなた達にはそれがあるんでしょう」

 

 遠ざかる背中を見やりながら、ジェイドは苦いものを湛えた面持ちで、そっと眼鏡を押し上げた。

 

 





偽会話イベント『そのころレプリカーズ』
ルーク「おまえなんでついてきてんだよ!!」
リック「知らないよ!」
ルーク「なんだそれ!」
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