空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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Act23 - ただいまグランコクマ!

 

 タルタロスをローテルロー橋に着けて歩くことしばらく。

 

 「疲れちゃったからおんぶしてぇ☆」とアニスさんに輝かしい笑顔で背中に飛び乗られたり、便乗して「足痛くなってきちゃったー☆」とか棒読みで言った大佐に押し潰されたりしつつ、たどり着いたのはグランコクマ 一歩前を象徴するテオルの森。

 

 ようやく見慣れたものとなってきた景色に俺はほっと息をついた。

 ここまで来れば庭も同然、勝手知ったる故郷の一部だ。自然と足取りも軽くなる。

 

 そんなわけで俺がめずらしく先頭切って森へ入ろうとしたとき、

 

「何者だ!!」

 

「ぅわハイぃ!」

 

 前方から響いた怒声に思わず背筋を伸ばして敬礼の姿勢をとった。

 

 だってこの腹式呼吸な硬い声。

 ごめんなさい教官と続けたくなるのを堪えて見れば、二人のマルクト兵士が警戒心もあらわにこちらを睨みつけていた。

 

 ああ、この短い人生の半分以上を軍属で過ごしてきたものだから、軍隊仕様の喋りには反射的に絶対服従体勢を取ってしまう。だって俺下っ端。

 

 落ち着いてみれば彼らと俺の階級は同じのようだったが、かといって強気に出ることも出来ずあたふたする俺の横から大佐がすいと前に出た。

 

「私はマルクト帝国第三師団師団長ジェイド・カーティス大佐だ」

 

 りりしいですジェイドさん、と頭の中で男惚れすることは忘れない。

 

 とりあえず完全不審者ではないという事は分かってもらえたようだが、大佐はともかく後ろで控える俺たちについてはまだ微妙らしく半分不審者だ。

 渋るアニスさんとルークに対して彼らは、これが罠とも限らない、と重々しく首を横に振った。

 

 状況は着々と本格的にまずい方向へ向かい出しているらしい。

 このテオルの森にしたって、いつもならこんなところに見張りの兵士なんて居ないのに。

 

「皆さんはここで待っていて下さい」

 

 久しぶりに戻れた故郷のぴりぴりした空気に眉を顰めたのも束の間、そんな大佐の声を聞き、俺は慌てて兵士のひとりに詰め寄った。

 

「俺、ジェイド・カーティス大佐直属部下のリック一等兵です!! ダメですか!? 通れませんか!?」

 

 いま己を駆り立てるのは「またおいてかれる」という恐怖だ。ダアトの二の舞は絶対避けたい。何がなんでも避けたい。

 

 だがこちらの焦りとは裏腹に、兵士さんたちは笑みを浮かべながら顔を見合わせて、その後に俺を見た。

 

「存じております、お通りください」

 

 階級は変わらないけど、大佐直属という豪勢な肩書きゆえに敬語を使う彼ら。

 あまりにあっさりと出た許可に俺はぽかんと目を丸くして、二人を見返した。

 

「……あの……俺、知られてるんですか?」

 

「ええ、もう、有名ですから」

 

 再び顔を見合わせた兵士二人の何か含みのある笑顔。俺なにで有名なんですか。

 

 色々と不安になりつつも、とりあえず付いて行けるということは素直に喜んでおく事にした。

 ずりぃ!と怒ったルークに土下座する勢いで謝って、いってきますとみんなに一言かけてから、俺と大佐は一人の兵士さんの後についてテオルの森へと進んだ。

 

 

「あの、大佐……俺はなにで知られているんですか?」

 

 気になっていた事を、前方の少し離れた兵士さんに聞こえないように小声で話しかけると、大佐はいつもの人をバカにする顔で肩をすくめた。

 

「毎日毎日飽きもせず些細なことに脅えてあれだけの悲鳴を上げてればねぇ。有名にもなるんじゃないですか?」

 

 それとまあ顔だけは無駄に良いですし、とどうでもよさげに付け足されたフォローに涙しつつ、俺は懐かしの景色を噛み締めるように歩いた。

 

 大佐と一緒で嬉しいけど複雑な道のりです。

 

 

 

 

 そして。

 そして。

 そして。

 

「~~~……っ!」

 

 帰ってきましたグランコクマ!!

 

 流れる水の音に耳がじんと痺れる。

 俺が感動に目を輝かせて拳を握っているうちに、さっさと先へ進んでしまった大佐を慌てて追った。

 

 今度は置いていかれないように歩調を調節しながら、辺りを見回す。

 そしてここを出発したときと何も変わらない見慣れた町並みに、自然と口元が緩んだ。

 親書届けの旅がなんだかとんでもないことになってしまったけど、ようやく戻ってこられたんだ。

 

「グランコクマ~グランコクマ~、やっぱり良いですねぇグランコクマ!」

 

「あなた段々陛下に毒されてきてませんか?」

 

「だってグランコクマですよ! 大佐だってグランコクマ好きでしょう?」

 

「この短い時間に五回も連呼するほどは好きじゃないですねぇ」

 

 瞳のキラキラをそのままに笑顔で詰め寄ると、大佐は俺の額をぐいっと押して遠ざけた後、軽く息をつきながらそう言った。

 

 でも俺は知ってる。大佐もグランコクマが、マルクトが好きだってこと。

 そうじゃなければ誰があんな書類の山脈と格闘するものか。だって大佐だもの。

 

「うぃへへへ」

 

「気持ち悪いですよ」

 

「だってジェイドさぁん、グランコク…」

 

「はいはいはいはい。嬉しいのはもう分かりましたからそれ以上は結構です」

 

 

 そんな感じでずっと大佐にうざがられつつ、たどり着いたグランコクマ宮殿。

 ほとんど毎日通っていた見慣れた建物が今日ばかりは輝いて見える。

 

 途中すれ違う兵士という兵士、メイドさんというメイドさんが、魔王でも見たような驚愕っぷりで大佐を眺めていたが、まぁそれはそれ。彼らの内心は推して知るべし。

 だがその直後すぐに納得したような顔になったのはやはり「大佐だから」というやつだろう。正直俺もジェイドさんなら閻魔大王をミスティック・ケージで倒して地獄の底から帰って来れそうな気がしている。

 

 ひやりとした通路を歩き、階段を上る。

 現れた謁見の間入り口を前に、興奮ではちきれそうな心臓を押さえて息を飲んだ。

 

 扉が、開く。

 

 

「よっ。ひさしぶり」

 

 そんな、久しぶりに会うピオニー陛下はいつもどおりに笑っていた。

 はぁっと息を吐いて、俺は思い切り地面を蹴った。

 

「ピオニーさ、ガふッ!」

 

「ただいま戻りました、陛下」

 

 己で掛けたGと素早く掴まれた襟首が超クラッシュ。

 

 嫌な音がした首とか腰とかはさておき、襟を掴んだ張本人ジェイドさんが涼やかに告げた言葉を聞いて、ようやく玉座の周りに控える他の兵士や大臣たちの姿に気付いた。

 

 あたまをひやしなさい、と大佐の声ならぬ声が聞こえた気がした。そうだよ俺一般兵。

 慌てて背筋を伸ばし敬礼の姿勢をとった俺に、控えていたゼーゼマン参謀総長が苦笑するのが見えた。

 

 そして陛下が。

 

「いつもどおりでいいぞ、リック。……よく帰ってきた」

 

 いつもどおりの陛下の、いつもどおりのピオニーさんの笑顔。

 ソレを見て涙腺が一気に崩壊する。

 

「ぴっ、ぴおっ、ピオニーさぁんんー!!」

 

「あぁ泣くな泣くな。ジェイド、お前もごくろうだったな」

 

 言葉は“陛下”のものだったけど、その声色は間違いなく“ピオニーさん”だった。

 柔らかな語調にジェイドさんも幾分緩やかに微笑んで返す。

 

「ええ、残念ながら死に損ないましたよ」

 

「ハハッ、まったくだ。さて早速だがジェイド。色々と説明してもらおうか」

 

 その言葉を合図に友人としての対話を打ち切り、二人は皇帝陛下と大佐の顔で目を細めた。

 

 

 

 

 全ての話を終えて、謁見の間は静まり返っていた。

 どれもにわかには信じられないことばかりだからだろう。みんな思案するように顔を見合わせている。

 

 ダアトのヴァン謡将。バチカルのルーク。超振動に、パッセージリング。

 アクゼリュスの降下。クリフォトの存在。ユリアシティと、秘預言。

 

 それでもってセントビナーが危ないんですなんて、大佐が言うんじゃなけりゃ誰も信じやしない。

 陛下がもはや感心したように溜息をつきながらこめかみに指を当てた。

 

「現にアクゼリュスが崩落してなきゃ、よく出来た童話だと笑い飛ばしてやるんだがな」

 

「本当は怖いなんとやらですか? ですが、信じていただかないことには話になりません」

 

「まあ待て。信じないなんて言ってないだろ」

 

 陛下は周りの臣下たちを見回し、険しい表情を一転、勝気な笑みを浮かべて声を上げた。

 

「他の客人が到着次第、話を詰めようじゃないか」

 

 みんなが強く頷いて、各々やらなければならない事をするために、一旦 場を離れていく。

 

 俺も何か、と思い大佐に指示を仰ごうとしたところで、ふと陛下が満面の笑みを浮かべた。

 

「やっぱりな、ジェイドが死ぬはずないんだよ。こんなやつ殺したって死ぬもんか」

 

 大佐が生きていると信じていたのは陛下だけ、というネフリーさんの言葉が脳裏によみがえった。

 肩をすくめる大佐の横から、授業中の生徒のように手を上げた。

 

「陛下、陛下! 俺のことは?」

 

「……お前はちょっと死んだかなと思ってた」

 

 酷いよ陛下!

 

 うなだれた俺に、陛下は玉座を立って歩み寄ってくると、「わりぃ わりぃ」と笑いながら嬉しげに頭を撫でてくれた。

 ああ帰ってきたんだなぁ喜びを噛み締めていると、では、と“大佐”の声で切り出された会話にハッとして大佐のほうへ向き直る。

 

「リック。あなたはフリングス将軍と一緒にルーク達を迎えに行って下さい」

 

「りょ、了解しました!」

 

 そうだった。感動の再会は後だ。

 俺たちにはまだ、やらなきゃいけない事があるんじゃないか。

 

 ぴしりと敬礼を返してから、急いで謁見の間を飛び出した。

 

 

 今行きますから待っててください、みんな!

 

 

 

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