空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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Act23.2 - こんにちは新たな問題

 

 宮殿前まで飛び出すと先の広場に整列する少数名の兵士の姿が見えた。

 その先頭に立つのは、きらきら光る銀の髪。

 

「フリングス少将!」

 

 走りよりながら呼びかけると、振り返った彼は朗らかな笑みを浮かべた。

 

「リック」

 

「あのっ、俺も少将に付いてみんなを迎えに行けって大佐が! お久しぶりです お元気でしたか!?」

 

 よく大佐や陛下と交流を持っている方だという事もあって、幾分普段の偉い人ニガテ症候群はなりを潜めているけれど、それでもやっぱり上官だ。

 そんなわけでやはり緊張しながら脈絡のない台詞を吐いた俺に、少将は笑みを深めて敬礼をしてくれた。

 

「はい。貴方こそ、無事でなによりです」

 

 はっとして俺も敬礼を返しながら、温かい再会をじんと噛み締める。

 大佐、フリングス少将は今日も良い人です。

 

「ではリック一等兵。私たちは客人の顔を知りませんので、確認のため同行願えますか?」

 

「はいっ!」

 

 他の所属である俺が付いて行きやすくなるように部下たちの前で改めて指示を出し直してくれた少将の気配りに感謝しつつ、隊の端っこにひっそり混じる。

 

 自身、そんなに気にしてはいないが、三年前いきなり大佐直属に抜擢された一般兵の俺を快く思わない人もいた。

 

 いや、抜擢当初こそそんな意見が多かったけど、その後のこき使われっぷりを見て今は同情してくれる人の方が増えた。

 それでもまだ気持ちの奥のほうにくすぶる何かがある人もいるようだ。

 

 正直、正直なところを聞こう。本当に羨ましいのか。

 雨の日も風の日も一日一度は必ず譜術で吹っ飛ばされるこの生活が本当に羨ましいと思うのか。

 

 いやいやいや、俺はジェイドさんと一緒にいられるならば、例えフレイムバーストの中、スプラッシュの中、タービュランスの……。

 

「リック?」

 

「……いま行きます! ハイ行きますとも!」

 

 そっと目頭を押さえながら、俺は先を行く小隊を追って走り出した。

 やったね陛下! 明日はロックブレイクだ!

 

 

 

 

 だが陸側の出入り口についたところで、息を切らせて駆けてきた伝令の兵士が、他の兵士が今ルークたちをここへ連れて来る、という事を知らせてくれた。

 

 ていうか不審者を捕らえたからという話だったけど、それはルーク達のことで間違いないだろう。どうやら迎えに行く前に動き出してしまったらしい。

 ただ待ちくたびれたからと行動を起こす人たちじゃないから、きっと何かがあったんだ。

 

 入り口すぐのところにある橋で小隊と一緒に待機しながら、そわそわ落ち着きなく前方の様子を窺っていたらちょっと少将に苦笑いされた。

 

「不審者という段階なら兵たちも早々危害は加えないし、捕らえた者の中に死者がいるという情報も伝わっていないのだから、大丈夫ですよ」

 

「で、でも怪我はしてるかもしれないじゃないですか。微妙に死なない感じの大怪我とか! そしたら伝令の兵士さんは連絡くれますか!?」

 

「……どうでしょう……?」

 

 苦笑の色を一層濃くした少将から視線を外し、再びルーク達が来るであろう方向を眺めた。

 そしてずっと長く感じられた十数分の時間を経て、ようやく見えた赤色に、俺は目を輝かせた。

 

 興奮で顔を真っ赤にしてはくはくと金魚のように空気をはむ俺を少将が笑顔で振り返る。

 

「彼らで間違いないかい?」

 

「はい! ルークですっ!」

 

 距離が縮まるにつれて、その後に続くみんなの姿も視認できた。

 

 ああ、ナタリアさん、アニスさん、ティアさん。

 イオンさま、ミュウ。

 

 ガ……、

 

 

 やがて目の前までやってきた仲間たち。

 その中の、ぐったりとしている一人の姿に、俺は勢いよくルークに詰め寄った。

 

「そっ、葬儀の準備を ―――!?」

 

「いや死んでないから! 落ち着け! オマエことあるごとに動揺しすぎだよ!」

 

 ガイを支えているルークから全力でツッコまれて少し我にかえる。

 確かにガイに目立った怪我はない。気を失っているだけのように見えた。

 

 それでもまだ焦りまくりの俺を宥めるように、少将の手が肩にぽんと置かれる。

 

「ジェイド大佐から、あなた方をテオルの森の外へ迎えに行って欲しいと頼まれました」

 

 そう言った少将はまた緩く苦笑を浮かべて、その前に森へ入られたようですが、と付け足した。

 

 ティアさんの話を聞くと、森の入り口でマルクト兵が殺されたらしく、それを追って森へ不審者の追跡に入ったらしい。

 

 みんな意外と行動派だ。俺なら早々に逃げていただろう。

 ……兵士として失格にも程があると分かりつつも怖いものは怖い。

 

 

 そして肝心のガイについて。

 いつかシンクが掛けたカースロットというダアト式譜術が発動したらしい。

 

 しかももうかなり悪化してしまったようで、イオンさまは陛下への謁見はせず、ガイの術を解いてくれるという。

 

 体弱いのに大丈夫なのかなぁというイオンさまへの心配と、今現在カースロットに掛かっているガイへの心配が少しばかり胸の内で喧嘩した。でもイオンさまじゃないと解けないっていうし。

 

 葛藤は消えないけれど、とりあえずルークからガイを受け取った二人の兵士の内の

一人に変わってもらって、ガイの体を支えた。意識の無い人体の重みがなんだか不安だった。

 

 イオンさまと、護衛だから一緒に残るというアニスさんと一緒に、ガイを連れて宿へと向かおうとしたとき、ルークも慌てて前へ進み出た。

 

「俺も一緒に……っ!」

 

「……ルーク」

 

 それを遮ったイオンさまは、いずれ分かることですから、と辛そうに話を続けた。

 カースロットは決して対象者を意のままに操れる術ではない、と。

 

「元々ガイに、あなたへの強い殺意がなければ攻撃するような真似は出来ない。……そういうことです」

 

 その言葉を受け止めて驚愕に目を見開くルークに、解呪が済むまでガイに近寄ってはいけないと言い残し、身をひるがえしたイオンさま。

 

 俺は呆然と立ち尽くすルークと、イオンさまの背中を何度か見て、その後に同じように双方を見比べていたアニスさんと顔を見合わせた。

 でも一緒にガイを支えてくれていた兵士からの困ったような視線を受けて、とにかくガイを何とかしなくてはとルークに背を向けて歩き出す。

 

 背後に城下の散策を進めるフリングス少将の気遣わしげな声を聞きながら、俺達は宿の中へと入っていった。

 

 

 

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