空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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Act24.2 - 俺でも できるもん

 

 気付くと、俺の周りではみんなが戦っていた。

 

 ナタリアさんの弓がへんてこロボの足のジョイントに亀裂を入れ、動きが乱れた隙を狙ってルークが攻撃を仕掛ける。

 あたりに響くのはティアさんの譜歌で、続くように攻撃をしているのはガイとアニスさんだ。

 

 俺はなにをしていたんだっけ、と熱くなっていた頭が徐々に平静を取り戻して行く中、周辺で高まり出した音素を感じて、俺はへんてこロボの頭のてっぺんに突き刺していた剣を引き抜き、跳び箱のように手を付いて後方へ跳んだ。

 

「スプラッシュ!」

 

 その声が耳に届いたのと、俺が地面に着地したのはほぼ同時だった。

 背後から大きな物に水が叩きつけられる音が聞こえる。

 

 正面に、こっちの様子を伺っている不安げな住民たちの姿が見えた。

 

 誰も怪我をした人がいなさそうなことを確認してから後ろを振り向くと、そこではあのへんてこロボがバチバチとショートしながら、その場に倒れ伏すところだった。

 

 あいつがいたのはちょうどセントビナーの門の中間。

 巨大な譜業兵器の重量を受けて、象徴的だった街の門がオモチャのように崩壊していく。

 

 いや、まって。ちょっとまって。

 さっと顔が青ざめる。

 

 当然ながら門は積み木製じゃない。

 たくさんのレンガで出来たそれが、今、落ちてくる。

 

 そして俺がいるのは門のすぐ傍だ。

 

「ィイヤァアアー!!」

 

 右手に剣だけ握り締め、全力で街のほうへ退避した。

 すぐ後ろからごすんごすんと嫌な音がしたが振り返らずに走りきる。

 

 そして地面に思い切りスライディングをしたところで、俺は肩越しにそろりと門のほうを窺い見た。

 まず分かったのはレンガが落ちてくる範囲はとっくに出ていた事だ。逃げすぎだった。

 

 次に、遠くに消えて行く例の浮遊椅子。彼に対して己の取った言動を思い出し、今更だが背筋が冷える。

 どうもあの人が相手だとストップがきかなくなってしまうなぁ。それはきっとあの人もジェイドさんが好きだからなのだろうと思う。

 

 はぁと息を吐いて立ち上がりながら、スライディングのせいで土まみれになった服を払う。

 持ちっぱなしだった剣を柄に収め、住民の皆さんに向けて(色々気まずかったので)へらりと笑ってからみんなのほうへ向かって歩き出した。

 

 指令も状況も立場も無視したあの行動を大佐にどう謝罪すべきか、やはりタービュランスだろうかと肝を冷やしつつ足を三歩進めたところで、地面が、ぐらりと揺れた。

 

 また地震だ最近ほんとうに多いなぁ、なんて見当違いのことを考えたのも一瞬で、俺が今歩いてきたばかりの場所が激しい揺れと音を伴いながら割れていくのを見て、零れんばかりに目を見開く。

 

 崩落の二文字が脳裏を過ぎった。それはもう何回も過ぎった。

 

 まだ街の皆さんがいらっしゃるのに、と戻りかけたときには、幅跳びではどうにもならないほどの亀裂が俺と街の間に横切っていた。

 

 アクゼリュスの光景を思い出す。

 

 助けられるかもしれなかった子供。

 助けなかった自分。

 

 助けられなかったんじゃない。

 俺は自分の意思を持って、“助けなかった”んだ。

 

 だって、俺は。

 

(しにたくない、から)

 

 跳べと急かすのは変わりたいと願った気持ち。

 目を瞑ってしまいたいと思うのは俺。

 

 その真ん中で地面同様にぐらぐらと揺れる。

 

 変わりたい。怖い。変わるんだ。怖い。

 それはルークの目を見る事が出来なかったあのときの葛藤とよく似ている。

 

 震える足に力を込めた。

 

 でも変わるって決めたじゃないか。

 いま変われないやつがいつ変わるんだよ。

 

 ばこん、という音が耳に届く。

 

 そりゃ、全てが劇的に動くわけじゃないけど、ここで足を踏み出せばきっと、なにかが変わ……、

 

 ……ばこん?

 

 

 気づいた時には、体の角度は斜め四十度。

 

「ひ……ッ!?」

 

 すっかり考え込んでいた俺は崩落の範囲が広がっている事を全く分かっていませんでした。

 

 足元をぎりぎり支えていたレンガのひとつが、揺れに耐えかねて外れた音。

 さっきのばこんの正体に思い至りつつ、脳内を巡るのは走馬灯。らんらん、らんらららんらんら……、

 

「リック!」

 

 耳に届いた呼び声に、はっと我に返った。

 

 下にはどこまでも真っ暗な魔界。

 落ちたら当然、助からない。

 

 再び上げかけた悲鳴を飲み込んで、俺は死に物狂いで岸壁にしがみついた。

 そしてむき出しになった地層を全力で蹴り上げ、陸に上がる。火事場の馬鹿力ってこれを言うんだ。

 

 亀裂脇の地面にはいつくばって、涙目で息を荒くしている俺のところに駆け寄ってきた仲間たち。

 視界の端に見えた青色の軍服に迷わず飛びついた。

 

「大佐ー! 大佐ーぁ!! 怖かった! すんごい怖かった! 走馬灯で大佐が観音様みたいな笑顔を浮かべて俺の頭を撫でてくれててさらに怖かったです!」

 

「それは走馬灯じゃなくて妄想です」

 

 心底冷えた真顔でそう切り捨てた大佐は、腰元に抱きつこうとする俺の顔をアイアンクローで押さえながら疲れたように溜息を吐く。

 

「……いっそ落ちていたほうが静かで良かったかもしれませんねぇ」

 

 今からでも遅くありませんがと続けた大佐のわりと本気な感じの声色にびくりと身をすくめたのも束の間、対岸のみんなを心配げに見ていたルークが怪訝そうに首をかしげた。

 

「だけどジェイド、焦ってたじゃん。さっきリックの名前呼んだのお前だろ?」

 

 あっけらかんと告げられた言葉に大佐の動きが止まる。

 

 俺はそれを聞いて、さっきの声を思い出していた。

 落ちかけたとき、俺を呼んでくれたあの声は確かに、このひとのものだった。

 

 そう気付いて、ぱぁっと顔が明るくなる。

 

「ジェイドさん……! 俺のこと心配してく ぅいだだだーァ!!」

 

 両こめかみにばっちり決まったアイアンクローの指が一気に力を増した。槍使いの握力は半端じゃない。

 

 俺が久方ぶりに綺麗なお花畑に足を踏み入れている傍らで、マクガヴァンさんたちが、とルークの荒げられた声が聞こえた。

 飛び降りて譜歌を歌えばと提案するティアさんの言葉を聞いて、大佐は俺をぺいっと投げ捨ててから彼女を制した。

 

 

 ……あ、おひさしぶりですユリアさま……

 ところでそちらの銀髪の美しい女性はどなたなんですか……?

 

 

 

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