空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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Act25.2 - シェリダンで待ってます

 

 藁をも掴む思いで行き着いたシェリダン。

 だがこっちはこっちで、なんだか大変な事態になっていた。

 

 俺たちが到着する少し前に、例の飛晃艇(アルビオールと彼らは呼んでいた)が操縦士ごとメジオラ高原に墜落したという。

 それを聞かされた瞬間、浮遊機関、操縦士、セントビナーの皆、のどれを今心配すればいいのかとかなり迷った。

 

 だが不幸中の幸いか、浮遊機関さえ戻ればなんとか二号機の都合が着きそうだった。

 ただしタルタロスの部品と引き換えに。

 

 何だかんだと長い付き合いだから別れる寂しさはあったけど、タルタロスがそんなすごい音機関の役に立つんだと思うと少し誇らしい。

 

 そういうわけで一行はメジオラ高原へと向かった……わけだけど。

 

「ほれ新入り! そこのボルト取って!」

 

「はいっ!」

 

 ところ変わってシェリダンのドック。

 

 俺は今、技術者の皆さんに全力でこき使われています。

 またもやお留守番です。

 

 ドックの端から端まで動き続ける傍ら、アンタどんくさいねぇ、とタマラさんの愉快そうな声が聞こえた。

 その目の回るような忙しさにもう訳も分からないままハイすみませんと声を上げて、思い浮かべるのは少し前の事。

 

 

 

 

「あなたはここで二号機を作るお手伝いをしてさしあげなさい」

 

 魔物の巣窟か怖いなぁなんて考えていた俺に大佐が告げたのはそんな言葉だった。

 確かに怖いとは思ったけど置いてかれるのはもっと嫌だ。

 

 一緒に行きますとめげずに駄々をこねた俺に、大佐は小さな子供に言い聞かせるようにゆっくりとこう言った。

 

「全員で行って、その間に六神将が手を回してきたらどうするんです? 貴方には手伝いと同時に、イオン様の護衛をしてもらいます」

 

 ぐっと息を飲む。

 

 大佐がイオンさまにタルタロスの案内を任せたのは、今が一刻を争う事態であることと、メジオラ高原が危ない場所だからだ。

 リスクを二者択一して、どちらかといえば安全である、という理由で彼をここに残すんだろう。

 

 そう、危険に変わりは無い。

 確かにイオンさまを一人残して行くのは心配だった。

 

 己の役目は分かったが、やはりこういう状況で置いていかれるのは寂しい。

 それとなく落ち込む俺を見て大佐は肩をすくめ、重要な任務だと思いますが、と呟いた。

 

「私たちが浮遊機関を持って帰れたとしても、アルビオールが出来ていなければ本末転倒ですし」

 

「はい……」

 

 書類の上で重要でもそうじゃなくても、与えられる任務は任務。

 なので俺はあまりそういうことでモチベーションが変わるタチではなかったが、おそらくそれを知った上で言っているのであろう大佐は、ふとさわやかな笑顔を浮かべた。

 

「それと正直な話、バランスを考えても剣士三人は要らな、」

 

「うわーーー!!!」

 

 誰しもうっすら気付いていながら今まで誰もが言わなかった禁句を言ってのけた上司は、今思えばうじうじしてる部下の相手がめんどくさくなってたんだと思います。

 

 

 

 そっと涙を拭いつつ、意識をドックへ引き戻す。

 

 手にしたスパナを作業中の技術者の方へ手渡してから、また雑用を求めて走り出そうとした俺は、はたと体の向きを変えて、入り口近くの木箱に腰掛けたイオンさまのほうへ走りよった。

 

「イオンさまっ。本当に休憩室のほうにいなくていいんですか? 体は……」

 

 宿で休んでもらいたかったが、彼を守るという俺の名目上あまり目の届かない場所では意味が無い。

 なのでせめてドックの脇に設けられた休憩室に、と言ったが、彼は静かな口調ながら、ここにいると譲らなかった。

 

 俺の言葉にイオンさまは緩々と首を横に振った。

 

「大丈夫です。僕こそ、作業を手伝えなくてすみません」

 

「い、いえ」

 

 むしろ俺の心臓が止まってしまうから手伝わないでください。

 騒音と怒号とオイルの臭いが行きかうドックの中に居てもらってるだけで申し訳ない気持ちなのに。

 だけど、なんだかイオンさまの言葉に確固たる意思のようなものがあって、休養を強く勧める事は出来なかった。

 

 そう考えて、俺はふと気付いた。

 なんだがイオンさまも少し変わった気がする。

 

 最初会ったときはもっと儚い感じだったけど、今はなんだかハッキリしたというか、クッキリしたというか……。

 

「僕のために……リックまで残ることになってしまいましたね」

 

 少ししゅんとしたような声に俺は慌てて思考を止めて、首を横に振った。

 そして地面に膝をついて、木箱に座るイオンさまと視線を合わせ、笑う。

 

「イオンさま、大佐はこういうとき、理由のない指示は出さないんですよ」

 

 覗き込んだ緑色の瞳はとても澄んでいた。

 

「だから俺がここに残されたってことは、俺はこの場所でやらなきゃいけないことがあるんです。それはきっと、イオンさまを守ることや、イエモンさん達のお手伝いをすることなんだと思います」

 

 俺がそれを出来るって、大佐が考えてくれたってこと、なんです。

 

 自分に自信は無くても、ジェイドさんの言葉は信じられる。

 だから俺はここで出来ることを精一杯やってみせよう。

 

 寂しいからと小さくなってるだけじゃ、何も動かない。変われないんだ。

 

( ―― 不安は変わらず胸を打つけれど。)

 

 みんなを信じて、俺は、今の俺に出来る事をしよう。

 

「だから、頑張ります!」

 

 イオンさまは少しだけ驚いたように目を丸くしたあと、とても綺麗に笑ってくれた。

 がんばってください、と優しく告げられた言葉に俺もまた笑う。

 

 体を大事にしてくれるのも、応援してくれるっていうのも、イオンさまの立派な任務だと思った。

 だってほら、彼が幸せそうに笑ってくれるだけで、俺はこんなに嬉しい。

 

 

「おおい!新入り! 何しとる!」

 

「あっ、はい!」

 

 背中に掛かったイエモンさんの声に、俺はイオンさまに一礼してから急いで手伝いに戻る。

 指示された部品を手にイエモンさんの元へ向かうと、彼はそれを手に取りながら、ちらりと俺のほうを見た。

 

「お前さんは、本当にあの人らが好きみたいだの」

 

 浮かべられた ほがらかな笑みに俺は一瞬ぽかんと目を見開き、それから、これ以上ないくらい口の端を引き上げて、笑った。

 

 

 

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