空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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Act25.3 - これは予感ですか

 

 アルビオール二号機はほぼ完成。

 後は浮遊機関を取り付けるだけ、という段階まで持ち込んだところで、見計らったようにドックへ飛び込んできた人がいた。

 

「イエモン爺ちゃん、みんな!」

 

 息を切らせながらも嬉しそうに笑った青年に、ドック中の人が歓声を上げた。

 みんなが口々にギンジ、というのを聞いて俺も彼の正体に思い至る。

 

 彼が飛晃艇ごとメジオラ高原に墜落したという操縦士だ。

 

「あの!」

 

 ギンジさんが飛び込んできた入り口近くにいた俺は、思わず彼に詰め寄った。

 だが言いたい事が多すぎてうまく言葉にならない。

 

「オレッ、か、ふゆっ、みんな……ッ!?」

 

「あっ、おいらを助けてくれた人達の仲間さんなんですね! ハイ見ての通りピンピンしてます、浮遊機関もこのとおりです! 皆さんも後からすぐいらっしゃいます!」

 

 とりあえず動揺しきりの俺の言葉を正確に読み取った彼はすごい人だと思います。

 心配だった全てのものが無事に帰ってきたことを知って、俺は深く安堵の息をつく。

 

 ギンジさんから浮遊機関を受け取ったアストンさんが急いで二号機のところへ下りて行くのが見えた。

 俺も手伝わないと、と足を進めかけたところで、背後から力いっぱい扉を閉めるバンという音がした。

 

 驚いて振り返ればそこには待ちわびていたみんなの姿。

 ぱっと瞳を輝かせて駆け寄ろうとしたが、すぐに様子がおかしいことに気付いて首をかしげる。

 

「大佐?」

 

「リック、ガイと一緒に扉を押さえていてください」

 

「は、はい!」

 

 突然の言葉に条件反射のように頷いてから、急いでガイの隣に並んで扉を両手で押さえつけた。

 

「おい、ガイっ?」

 

 どういう状況なんだ、と聞こうとした俺の声に、タマラさんの「なんの騒ぎだい」という声が被る。

 返された説明は、キムラスカ兵に見つかってしまったという大佐の一言だったが、その文字数に見合わず事態はおおごとだ。

 

 この緊張状態のキムラスカにおいてマルクトの人間は存在だけで起爆剤だろう。同じキムラスカやダアトのみんなは大丈夫でも、俺と大佐はまずい。しかも今は誤解を解くだけの時間もないときている。

 

 木箱の中にでも隠れたい気持ちでいっぱいだったが、遠慮なく叩きつけられる扉を押さえていてはそうもいかない。

 男二人がかりなのにこれだけきついとは、外はいったい何人がかりだっていうんだ。通りすがりのラルゴでも参戦してるっていうのか。

 

「ルークー! 大佐ーぁ!」

 

「おおい早くしてくれ! 扉が壊される!」

 

 俺の涙声とガイの懇願を受けて、ティアさんが二号機の状態を問う。

 ついさっきまで作業を手伝っていた俺は心の中で、ばっちりです、と頷いた。さすがシェリダンの職人さん達。アルビオールは素人目にも惚れ惚れする出来だ。

 

 腕力では支えきれなくなってきた扉に背中を当てたとき、ドックの中心でルーク達と話すイエモンさんが「よし」と胸を張ったのが、見えた。

 

「外の兵士はこちらで引き受けるぞい」

 

「そんっ……!」

 

 思わず身を乗り出そうとしたところで扉が叩かれ、俺は慌ててまた背中を押し付けた。

 

 口々に自分たちに任せて行けというみんなは、とても晴れ晴れとした顔をしている。

 背筋に走る悪寒に無理やり目を瞑って、俺とガイはすばやく扉から離れた。

 

 後は頼みます、とルークの声。

 二号機の待つ作業場へ下りるリフトの上で、ぐっと拳を握る。

 

「みなさん! ぜったい、絶対に無事でいてください!!」

 

 徐々に下がって行くそこから、めいっぱい体を前のめりにして叫んだ。

 挟まりますよ、と大佐が俺を後ろに引く。

 

 完全に上の様子が見えなくなる寸前、肩越しに振り返ったイエモンさんが、少し笑った気がした。

 

 

 準備を完了した二号機に走りよりながら唇を噛む。

 

 しなないで、とはいえなかった。

 だって口にしたら、その言葉に預言ごと呑まれてしまいそうで。

 

「くそ……」

 

 体に渦巻く重ったるいものが、やけに不快だった。

 

 

 アルビオールの中では、ギンジさんの妹のノエルという女の子が待っていてくれた。

 だけど女の子であることを感じさせない職人の顔で、彼女もまた微笑んだ。

 

「兄に代わって皆さんをセントビナーへお送りします」

 

 セントビナーへ向けて動き出したアルビオールの中。

 窓の外を流れる空をどこか遠くに見ながら、肩を落とした。嫌な予感がまだ消えない。

 

 辛気臭い溜息をつく俺にジェイドさんがちらりと目を向ける。

 

「……いくらこの状況下とはいえ、兵士がそうそう民間人を手にかけることはありません。貴方も兵なら分かるでしょう」

 

「それは分かってるんです、けど」

 

 しかも彼らはただの民間人じゃない、あのシェリダンの技術者だ。

 この状況だからこそ、わざわざ戦争で不利になるようなまねはしないだろう。

 

 なら、なんでこんなに胸が騒ぐんだ。

 

 黙りこくった俺を見て、大佐は小さく溜息を吐きながら肩をすくめた。

 

 

 




今じゃない。けど予感。遠い未来の恐怖。
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