空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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Act26.2 - ひよこは夢を見ますか?

 

 テオドーロさんの待つ会議室へ向かう。

 俺はまだ顔が熱いような気がして恥ずかしく、のたくさと最後尾を歩いていた。

 

 ユリアシティの町並みを歩くのは二度目だ。

 当然ながら建物はなにも変わっていないけど、中の人たちは前より少し、落ち着かない空気を纏っている。

 絶対だった預言がくつがえったんだから当然か、とどこか他人事のように納得した。

 

 俺あんまり預言と近い生活してなかったからなあ。

 

 別に大佐や陛下に止められていたわけではないが、詠んでもらってもしもレプリカがどうのとか出たら、と思うと自然に足は遠ざかった。

 

 だから一大事には違いないけど、自分に思うほどの動揺はなかった。

 ていうかもうルークはレプリカだったし地面は落ちるしその下に町あるし、今更そんなんで驚いていられない。頑張れ俺の心臓と精神。

 

 遠い目で胸を押さえた先に、グレン将軍の姿を見つけた。

 住民の避難はあらかた済んだのだろう、時間を持て余したように立ちつくしている。

 

 そこで少し足を止めた。

 すると向こうも俺に気付いたようで、ふいに目が合う。

 

 気まずさとか、照れ臭さとか、ちょっと不本意だとか、色んな苦さが頭の中を駆け抜けたけれど。

 

 俺は彼に向かって、深く頭を下げた。

 

 やがて頭を上げた後に見たグレン将軍はとんでもなく微妙な顔をしていたが、たぶん俺も似たような顔になっているんだろうと思った。

 

 あからさまに気持ち悪そうな表情の彼だったが、それでも、俺に向かって簡単な敬礼を返してくる。

 

 それを見届けた後はすぐに身をひるがえして先を行くみんなの後を追いかけた。

 足早に床を蹴る俺は、多分おそろしくヘンテコな顔だったはずだ。

 

 まぁ、マジメなんだよなあ。あのひとも。

 

 ……認めるのはちょっとくやしいけど。

 

 

 

 

 会議室の前まで着いたところで、俺はみんなに向かって軽く片手を上げた。

 

「じゃあ俺はここで」

 

 表で控えていようと体の向きを変えかけた俺の首根っこが、ぐいと引っ張られる。

 ぎゅえ、と地面に落ちたチュンチュンみたいな声が喉の奥から絞り出された。

 

 服と首の間に手を挟んで気道を確保しながら背後をかえりみると、思ったとおり大佐の姿。何事かと疑問符をとばしながら赤い瞳を見据える。

 

「大佐?」

 

 すると彼は、くいと片眉を引き上げた。何度も言うようだが、大佐のそんな仕草は本当にかっこいい。

 

「部外者あつかいするなと言ったのは誰ですか」

 

 だが大佐は静かにそう言って、俺を掴んでいた手を放し、身をひるがえして会議室の中へ入っていった。

 その背中が消えた扉を半ば呆然と眺めていると、ガイにぽんと肩を叩かれる。

 

「一緒でいいってよ」

 

 さわやかな笑顔を浮かべて横を通り過ぎていったガイもまた部屋の中へ消えた。

 一緒って、それって、つまり。

 

「ほら、早く入れよリック」

 

 少し楽しげな声になったルークに背中を押された。

 ほとんどルークの力で会議室の中に足を踏み入れてから、ようやく目を輝かせる。

 

 それは、俺も一緒に話を聞いていいってことだ。

 みんなと、ルークや大佐と一緒でいいってことだ!

 

「ジェイドさぁぁああ、ぎゅっ」

 

「ハイおとなしく座りましょうねー」

 

 例によって例のごとくジェイドさんに抱きつこうとした俺の頭頂部に、コンタミネーションで出てきた槍の柄がクリーンヒット。当たるまで見えないこの動きはさすがですジェイドさんでも痛いです。

 

 頭部の痛みとさっきから引きずる幸福感に涙しながら、会議室の冷たい机に突っ伏した。

 

 

 大佐の太鼓判(?)をもらって初めて同席する政治の場。

 だけどその内容は一兵士にはあまりに途方もなさすぎて、俺はほとんど聞くだけだったが、それでもなんとなく嬉しいものだった。

 

 だってすこし“仲間”になれた気がして、というと、またジェイドさんに「思考が十歳児ですねぇ」なんて失笑されそうだけど。

 

 そうはいっても唯一の使用人仲間だと思っていたガイもマルクト貴族だったし、この錚々たるメンバーの中にジョブただの兵士が混じるにはかなりの勇気がいるのだ。

 

 でもジェイドさんがいいって言ってくれたから俺はほんのすこしだけ、自信を持って控えめに、同席させていただいた。もう全力で控えめに。

 脳の奥から、自信を持つ場所が違うだろうと陛下のツッコミが聞こえた気がしたが、俺にはこれが精一杯だ。

 

 

 そして肝心の話の内容。

 さっきも言ったが、これは本当に途方もないものだった。

 

 ローレライの鍵とか、最近おなじみのセフィロトやパッセージリング。

 そこにアルバート及びユリア式封咒、シュレーの丘に第七音素……。

 

 いやいや、混乱する段階はもうとっくに過ぎたんだリック。

 全部おとなしく受け入れることにして、今はセントビナーを救える手立てが見つかったことを喜ぼう。

 

 ちらりと視界の端に見やった大佐は、静かにテオドーロさんの話を聞いていた。

 この旅の中、大佐はいつだってそうしていた気がする。

 

 彼は、なんで自分がこんなことを、と思ったりはしないのだろうか。

 

(それとも、まだ思っているんですか? ジェイドさん)

 

 自分の責任だからと、罪だからと、貴方は考えているんですか。

 ぜんぶ背負うのが当然だと思うんですか。

 

 真っ直ぐな赤色の瞳をうかがって、俺は目を細めた。

 

 そのとおりだと大佐は言うかもしれない。

 あたり前だと世界も言うかもしれない。

 

 ねえ、でも、ジェイドさん。

 

「ちょっとくらい、俺のことも……」

 

「なんか言った?」

 

 いつのまにかこっちを見ていたアニスさんに小声で問われ、俺は慌てて首を横に振った。

 首をかしげる彼女にひとつ苦笑を返して、また熱くなりだした顔を隠すために少し俯く。

 

「…………」

 

 動揺に目が泳ぐ中、机の上に立てた肘。

 その手の上に頬を乗せた。

 

 

 

 ピオニー陛下。

 俺はいつのまにか随分ナマイキになってしまったんでしょうか。

 

(頼ってくれたら、なんて)

 

 

 それこそ恐れ多すぎて、口に出来ない。

 

 

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