空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken- 作:甘味RX
外殻へ戻ってすぐ、目に飛び込んできた光景に愕然とした。
アルビオールの窓にビタッと張り付いて、震える手で眼下の惨状を見下ろす。
なんで、なんで、なんで。
「どうして戦いが始まっているのです!?」
ナタリアさんの言葉が艇内に響く。
そうだよ、戦争を起こさないためにもってみんなみんな頑張って、ルークやナタリアさんだって、あんなに頑張っていたのに。
額をガラスに押し付けたまま、じわりと涙が浮かんでくる。
それがいよいよ零れようかというときに突如後頭部を殴打された。
「むぶぉっ」
当然ながらガラスに顔前面を打ち付け、痛む鼻を押さえながら肩越しに後ろを振り返る。
「うう、ひぇいろさぁん……」
「何 情けない顔をしてるんです」
なんだか最近怒る手段に打撃が増えてませんか。少し前はもっと間接的というか、術系が多かった気がする。いや、まぁ、術も容赦なくもらっているので当社比には違いないけど。
「頭を冷やしなさい、泣いている暇はありませんよ」
そう言って大佐は身をひるがえした。
そしてみんなの話し声を聞きながら、俺は少し落ち着いて考えてみる。
あたまをひやせって、そういうことだ。
ぐいと目元を拭う。
そうだよ、諦めてる場合じゃない。
事が悪い方向へ運んでしまったからこそ、やらなきゃいけないことがたくさんある。戦争が始まってしまったというなら、今度は一刻も早く止めないと。
俺がめげてる間にもみんなはどんどん前を向いて歩き出して行く。
気づいた時には、対崩落のエンゲーブ組と、対戦争のカイツール組に別れて行動することに決まっていた。
ああもう俺のバカ。俺のアホ。俺のオタオタ。
慌てて会話に加わろうとした俺の動きを見計らったように、大佐がこちらを向く。
「リック、貴方もエンゲーブに同行してもらいます。キムラスカの説得に行くのに、マルクト兵が混じっていては火に油でしょうから」
「あ、はいっ」
とっさに敬礼を返すと、大佐はすぐみんなのほうに向き直ってしまう。
結局、またジェイドさんに何とかしてもらってしまった。
教えてくださいユリアさま。頼りになる人間ってどうやってなればいいんですか。俺レプリカだから分かりません、なんて言い訳は、とてもじゃないが通じそうに無い。
……俺、ビビリだから分かりません……。
そう正直に言ったところで、返ってくるのは呆れたような溜息だろうか。
*
エンゲーブへは、ジェイドさん、ルーク、ティアさん、俺、で向かった。
そこでローズさんに話をつけた結果、ケセドニアまで避難することになったのだが、とてもじゃないが全員アルビオールに乗る事はできない。何回かに分けるといっても限度があるだろう。あまり時間もないし。
なので老人や女性、子供以外の体力がある男性陣は、護衛の下に徒歩でケセドニアを目指す事になった。
そんなわけで俺達は徒歩組の護衛に付くのだが、俺は後方の駐留軍の方々に混ざろうとみんなに背を向けたとき、襟がグッと引かれた。チュンチュンが木にぶつかったような声が喉から漏れる。なんだろうすごくデジャヴだ。
「こ、今度はなんですか」
「あなたには先頭に立ってもらいます」
「せんとう!?」
戦闘に出てもらいますでも 銭湯に行ってもらいますでもなく、先頭。
しんがりをやることはあれど、先頭に立てと言われたのは初めてだ。
目を白黒させる俺を見据えた大佐が、にっこりと笑う。
嫌な予感が背筋を突き抜けた。
「敵の気配とか怖そうな物の気配にだけは鋭いでしょう、リック。悲鳴は一切上げずにそういう気配だけ察知してください」
確かに、確かに 俺は敵の気配には人一倍敏感だ。ビビリだからだ。
風や草のそよぐ音の変化をそういうときだけは感じ取れる。
もう一回言うけどそれは俺がビビリだからで、
つまり怖いのが嫌だからそうなってるわけなのに、わざわざビビるために怖い場所へ行けと。
「あの、それはちょっ……」
「いやぁ頼りにしてますよ臆病者!」
念願早くも叶い、ジェイドさんに頼ってもらえた。
頼ってもらえたんだが……何か……違う気が……。
拭いきれぬ複雑な思いをそのままに、俺は子鹿の歩みで前へ進み出た。