空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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Act28 - ケセドニア再会記

 

 ようやく着いたケセドニア。

 キムラスカ兵と接触することも、大した怪我人を出すこともなくここまで来れて本当に良かった。

 

 安堵と緊張しすぎた疲労感がないまぜになった息をついていると、まとめ役をやっていてくれた村の男の人が二人、俺たちのほうに近づいてきた。

 

「みなさん! ありがとうございます!」

 

 そう言って彼らは手に持った袋を大佐に渡す。

 ちらっと見えた中身はどうやら道具類のようだ。しかもなんか貴重そうな物が多い。

 

 彼らが嬉しそうな笑顔を浮かべて大佐やティアさんと握手を交わしていくのを、誇らしい気持ちで眺める。

 どうです皆はすごいでしょう!と誰彼 構わず自慢して歩きたいくらいだ。(でも実行したら間違いなくタービュランスが飛んでくるからやらない)

 

 みんな無事で良かった、と呟くルークと顔を見合わせて二人で少し笑い合う。

 するとふいに俺たちに掛かった影に何事かと視線を向ければ、大佐たちと話していた男の人が、満面の笑みを浮かべて右手を差し出していた。

 

「助かったよ。ありがとう。 本当に、有難う!」

 

 呆然とする俺たちの手を向こうから取って、俺とルーク、順番にがっしりと握手を交わしてくれた男の人たち。

 

 最後にふかぶかと頭を下げた彼らがケセドニアのほうへ歩いていく背中を見ながら、俺達はまだ立ち尽くしていた。

 やがてゆっくりと顔を見合わせる。

 

「……はは」

 

「……ハハハ」

 

 お互いに肩のあたりを軽くこづきあう。

 

「な、なんだよルーク、顔真っ赤だなぁ」

 

「おまっ、おまえもだろ」

 

 しまりのない口元を袖で隠しながら、目を泳がせた。

 だってあんなふうにお礼を言われるのなんて初めてだ。

 

 俺はビビリだから、こういうふうに“頑張った”こと、今までなかった。

 だから、頑張って、お礼をいわれるのは本当に本当に初めてだったんだ。

 

 でもルートを決めてくれたのはルークだし、みんなを纏めてたのはジェイドさんだし、敵の牽制は駐留軍の人たちがやってくれた。

 ひとりでやったわけじゃない。俺のしたことなんて微々たるもんだ。たくさん怖い思いもした。

 

 なのに、さっきお礼を言われた瞬間、なんだか体も心もすごく軽くなった。

 ふわっと自分が浮かび上がるようなあんな感覚も、はじめてだった。

 

 ルークと二人で、にへにへと妙な笑いを浮かべていたら、様子を見ていたジェイドさんとティアさんまで顔を見合わせたかと思うと、ジェイドさんは軽く肩をすくめて、ティアさんは微笑ましげに、小さな苦笑を零した。

 

「ま、よく頑張りましたね」

 

 緩められた赤色と静かに告げられた言葉に俺が固まっているうちに、ルークは照れ臭そうにしながらも「みんなが助けてくれたおかげだよ」と返す。褒めても何もでないとちゃかした大佐に笑い声を上げるルークとティアさん。

 

 そんな光景を視界に留めつつも、俺は茹だりそうな頭で幸せを噛み締めていた。

 

 じぇ、じぇ、じぇいどさんがほめてくれた。

 もしかすると、頑張るってすごいことなのかもしれない。

 

 そう思うとビビリ続けた戦場横断も無駄ではなかったような……

 ……いや、出来ればもうやりたくないが。

 

 

 

 そのあと街中でカイツールに行っていたはずのナタリアさん達と出くわして、俺達は揃って目を丸くした。

 聞けば唯一戦いを停戦に持ち込める責任者のアルマンダイン伯爵が、大詠師モースとの会談のためにケセドニアに来ているらしい。

 

 戦場横断なんてお互い無茶なことをやるなぁと一介の兵士である俺は思う。だ、だって普通やらないだろ。そもそも怖いし。

 

 でもいざってときにそういう無茶な判断が下せるってすごいことだ。

 大事なとき、ビビってばっかりじゃ何もできない。

 

 誰も、助けられない。

 

「ルーク、リックも、怪我はしなかったか?」

 

 考え込んでいた俺の思考に入り込んできたさわやかな笑顔と空色の瞳。

 背後にキラキラ輝く後光が見えた気さえした。

 

「ハイ、おかあさん……!」

 

「そうかそりゃ良かっ…え、おか、え?」

 

 しまった、つい。

 一瞬白くなったガイに慌てて何でもないと首を横に振る。

 隣で大佐が「あぁ最適ですねアレより」と愉快げに呟いたのが聞こえた。脳裏を過ぎるはまたもやブウサギに囲まれたイイ笑顔。

 

 正直ピオニー陛下はお母さんてガラじゃなさすぎると思います。

 お母さんは子供に「見てみたいから青色ゴルゴンホド揚羽とってきてくれ三日以内で」とか言わないんじゃないでしょうか。

 

「中身はただのガキ大将ですからねぇ」

 

 心を読んだような大佐の相槌を含めて少し遠い目になる。

 俺 口に出してない、口に出してないです。でもそこはやはり大佐だから。

 

「ですよね~」

 

 とりあえず全開の笑顔で気付かなかったふりをしてみた。

 

 世の中には突っ込んじゃいけないこともあるんだ。

 なんとなくそう悟った俺は今日、少し大人になった。

 

 

 

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