空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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Act30.2 - 三年越しの宿題

 

 没収された武器はすぐ見つかった。

 

 手に戻った剣の重さに、ほっと息をつく。使いたくはないけどやっぱりあると落ち着くものだ。

 でも牢の入り口あたりでぞんざいに置かれていたところを見ると、こちらもジェイドさんの言ったとおり余裕がなかったのかもしれない。

 

 前にバチカルへ来たとき、耳にした噂話といえば大抵がナタリアさんのことだった。

 国民のことを一番に考えてくれる良い王女様なんだと、民間人も兵士も嬉しそうに話していたのを思い出す。

 そのナタリアさんがこんなことになって、思った以上に身内の動揺も深いんじゃないだろうか。

 

 俺だってジェイドさんが……えぇと……本当は槍使いじゃなかったとか言われたら……。

 ……いや、別にそんなに驚かないな。もう十分すぎるほど強力な譜術があるし。なんか例えが悪かった気がする。

 

 とにかく大好きな人が生きるか死ぬかの騒ぎになったとしたら、とてもじゃないが気もそぞろで、任務どころじゃないだろう。それが俺たちへの中途半端な処置に繋がっていたのかもしれない。

 

 

 アッシュは譜歌の余波を食わないように一人で先に出て行ったのだが、罪人部屋の外にはすでに彼の姿は無かった。別に合流するつもりはなかったらしい。

 

 やっぱりよく分からない人だなぁ、と二転三転するアッシュへの印象を抱えながら、とりあえずティアさんの譜歌で兵士達を眠らせながら、教えてもらったとおりナタリアさんの部屋に急いだ。

 

 そしてそれと思しき部屋の前でもう一度譜歌を歌って貰ってから中へ入ると、呆気にとられた顔のルークとナタリアさんがいた。

 でもナタリアさんはなんだか顔が青ざめていて、俺はみんなの後ろで少し眉尻を下げた。

 

「間に合ったわね」

 

「ティア! みんな! どうしてここに!」

 

 二人に泣いて抱きつきたいところだったが、感動の再会は後回しだ。

 急いで逃げよう、とみんなが身をひるがえしかけたとき、ナタリアさんの制止が響く。

 

 インゴベルト六世陛下に会ってちゃんと真意を聞きたいんだと、彼女は震える手を握り締めながら言った。

 

 ナタリアさんは強い女性だと思う。だけど、やっぱり女の子なんだ。

 

 こんな状況、怖いに決まってるのに。

 

「……危険だけは覚悟してください」

 

 眉を顰めた大佐の言葉にはっとする。

 

 ティアさん、アニスさんは神託の盾の人だから、一時拘留はされてもそう大事にはならないだろう。ガイだって元々はファブレ家の使用人だし。

 

 しいて言えばマルクトの人間である俺と大佐は怪しいが、差し迫って危ないのは、預言の件があるルークと、偽王女疑惑のナタリアさんなんだ。

 

 それでも行くと二人が言うなら、俺が怖いから早く逃げようなんて言えるわけがない。強めに拳を握って、自分に気合を入れた。

 

 今の俺が出来ること。ナタリアさんとルークのお手伝いをすること。

 

「俺、がんばるよ」

 

 ノワール。

 あのときの助言、きっと活かしてみせるから。

 

 

「何してるんですか。行きますよ、リック」

 

 背後から掛かった声を聞いてみんながとっくに部屋を出ていた事を知り、慌てて後を追った。

 

 

 

 

 謁見の間の下に広がる大広間。

 すべての兵士が床に転がって眠りこけている光景に、舌をまく。ティアさんの譜歌ってすごい威力だ。

 

 それでもきっかけがあれば起きてしまうとの事で、なるべく慎重に長い階段を上ると、謁見の間の前で大佐が俺を振り返った。

 

「あなたは、ここで見張りをお願いします」

 

「はいっ。了解しました」

 

 返事の声はちょっと控えめに。

 

 そして扉の向こうへと消えたみんなの背中を見送ってから、静かに扉脇に控えた。

 見張りだって立派な任務だ。任されたことを精一杯やればいい。

 

 だけど、さすが王宮の豪華な扉だけあって中の声がちっとも聞こえてこない。

 

 どんなことになってるんだろう。

 でも直に会って話せば、いくらなんでも分かってくれるはず……だと思いたい。

 

 ナタリアさん、大丈夫かなぁ。

 

 そわそわと剣の柄をいじっていると、ふと誰かがこちらに向かってくるのに気付いた。

 まさか兵の誰かが起きたんじゃ、と一気に跳ね上がった鼓動を抑えつつ、剣に手を掛ける。

 

 ここは絶対通さないぞ。通さないったらな。

 だだだだからこっち来るなよ。頼むよ、なぁ。

 

 そんな祈りもむなしく一直線に走ってくる人影に、内心悲鳴を上げながら剣を抜きかけたとき、あれ、と首をかしげる。

 

 あの見事な赤色の髪は。

 

「アッシュ?」

 

「中々来ないと思ったら何こんなところで油売ってやがるッ!!」

 

 二段飛ばしで階段を駆け上がってきたアッシュにそのままの勢いで胸倉を掴まれた。

 え、ま、待ってたんだ?

 

 それなら罪人部屋を上がったところで待っててくれたら良かったのに、とここで言える勇気は俺にはなかった。

 

「ナタリア…っあいつらは!」

 

「い、今 この中でインゴベルト陛下と」

 

 言い終えるより先に舌打ちをしたアッシュが、扉に手を伸ばす。

 そこで自分が見張りを任されていたことを思い出し、慌ててそれを遮った。

 

「ちょ、ちょっと待て! ここは通せな……っ」

 

「退け!」

 

「おぅわっ」

 

 業を煮やしたアッシュが俺もろとも扉を押し込む。

 そして両開きの扉が音を立てて開き、俺はそのまま背中から内側へと倒れこんだ。

 

「ル……アッシュ……」

 

「リック?」

 

 逆さまになった視界に、ことさら青ざめたナタリアさんと、赤い目に俺を映した大佐の姿が見える。

 

「大佐~。アッシュが……」

 

 おそらく情けない顔になっているだろうと思いながら泣きつくと、大体事情を察してくれたらしい大佐がひとつ息をついた。

 当のアッシュは転がった俺に構う事なく、つかつかとみんなのほうへ歩み寄り、すばやく剣を抜いた。

 

「せっかく牢から出してやったのに、こんなところで何してやがる!」

 

 やっぱりアッシュの性格が掴めないけど、とりあえず今は助けてくれるようだ。

 自分がここを食い止めるというアッシュに一喝されて、心配そうなルークとナタリアさんも渋々場を離れた。

 

 とにかく今はバチカルを出なきゃならない。

 

 みんなで急いで走る中、俺は話し合いの内容を聞く事はできなかったけど、暗い顔のナタリアさんを見ればそれだけで結果は十分わかってしまった。

 

 なんでだろう。なんでみんな迷うんだろう。

 別に本物とか、偽物とか、どうだっていいじゃないか。

 

 

 『お、俺、……ルークじゃないから……』

 

 『私、本当の娘ではないのかも知れませんのよ』

 

 『だってそうだろ。俺が生まれたからこの世界は繁栄の預言から外れたんだ』

 

 

 どうして、“そんなこと”で悩むんだろう。

 

 

 『 お兄ちゃんのにせもの! 』

 

 

 瞬間、脳裏に鮮やかによみがえった声に、眉を顰めた。

 

 

 途中ペールさんや白光騎士団の方々、町の人達の手を借りて追っ手から逃げながら、俺は頭に掛かる靄の意味を考えていた。

 

「待て! その者は王女の名を騙った大罪人だ!」

 

 中心街に差し掛かったところで、現れたのはゴールドバーグ師団長だった。

 彼のことも止めようとする市民の人達に、逃げて、とナタリアさんが必死に声を上げたけど、みんなは頑として道を開けようとはしなかった。

 

 ナタリアさんが王家の血を引こうが引くまいがどうでもいいんだと彼らは言う。

 

 本物も、偽物も、どうでもいい。

 同じ言葉を使っているのに、俺とは全然違うことを言っているような気がした。

 

 なんでだろう。

 

「ええい! うるさい、どけ!」

 

 ゴールドバーグが国民に剣を振るう。

 

 なんで。なんで。

 

「やめろ!」

 

 耐えかねたように、ルークが前へ飛び出したのが見えた。

 ルークが危ないと思うのに、体が動かない。

 

 なんで。

 

(―― ああ、だから、オレは)

 

「キムラスカの市民を守るのが、お前ら軍人の仕事だろうが!!」

 

 高らかに響いた怒声にはっと意識を引き戻すと、そこにはアッシュがいた。ルークも無事だ。

 

 内容はよく聞こえなかったけど、アッシュが何かを言うとナタリアさんの表情が少し明るくなったのが見えた。

 その次はルークに向けて、ドジ踏んだら殺す、とちょっと剣呑なことを怒鳴る。

 

 ルークは不満げに「けっ」と吐き捨てたけど、そのあとすぐに「お前こそ無事でな」と付け足した。そんなやりとりに俺も少し笑って、アッシュを見る。

 

「ありがとうアッシュ…さん」

 

「…………」

 

 戻ってこない返事と、僅かに揺れた背中に、笑みを深めた。

 そしてようやく定まりかけているアッシュへの気持ちを、正直に述べる。

 

「お前 悪人顔なのに良いやt 」

 

「もろとも切られたくなかったらさっさと行け」

 

 





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>それなら罪人部屋を上がったところで待っててくれたら良かったのに
アッシュがいなかったのは、白光騎士団その他もろもろにナタリア達の脱出を手伝うよう手回ししていたからです。
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