空飛ぶ にわとり -The Flying Chicken-   作:甘味RX

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Act31.2 - 発覚と疑問の間で

 

「主席総長のお話は終わった。立ち去りなさい」

 

 切り捨てるようなリグレットの言葉に、これ以上交渉の余地がないことを察してゆっくりとみんなが部屋を出て行く。

 それでもまだ後ろ髪引かれるようだったルークが目の前を通り過ぎていくのを、扉脇に控えたまま見送った。

 

 気を抜いたら我先にと逃げ出しそうな足を押さえつけて、決してヴァン謡将のほうを見ないようにしながら、みんなが部屋を出終わるのを待つ。

 

 反対側には、同じように待ちながら鋭くヴァン謡将たちに気を配る大佐がいた。俺の役目も本来はそれなのに、怖くて見れないとか情けなさすぎるけど。

 

 だって俺いま見たら十中八九、震えが、

 

「リック。先に出なさい」

 

「……は、」

 

 恐怖で固まっていた頭が、突然の指示に対応できず疑問符を飛ばす。

 こういうときしんがりを務めるのはいつも兵士の俺だ。

 

 ああでも相手が相手だし、もしなんかあったら俺じゃどうしようもないか。

 

 いつもより余計に時間をかけてそう答えを弾き出すと同時に、慌てて「はい」と返事をして、すでに他の全員が通り過ぎた扉を俺もくぐろうと身をひるがえした。

 

「バルフォア博士」

 

 そのとき。

 響いた低い声に、ぎしりと動きを止める。

 

 肩越しにおそるおそる振り返れば、背を向けていたはずのヴァン謡将が同じように肩で振り返り、大佐を見ていた。

 

 大佐が眉を顰めたのがみえる。

 するとヴァン謡将は、皮肉げに薄く笑った。

 

「――あなたもいつまでそんなつまらぬ実験体のひとつを連れ歩いているのか」

 

 心臓が、一瞬だけ止まったような気がした。

 

「……さて、いつまででしょうね」

 

 それに感情を一切見せない口元だけの笑顔で返したジェイドさんは、では失礼、と丁寧に言ったあと、すっかり止まっていた俺の首根っこをがしりと掴んで部屋から出た。

 

 扉が閉まったところで、ぱっと手を離される。

 つんのめりながら体の向きを直して、ジェイドさんの少し後ろを歩き出した。

 

 そしてひとつ息をつく。

 

(気付かれてたんだ)

 

 薄々感づいていた。あの俺やルークを映さない瞳の理由。

 ヴァン謡将はあのときから知っていたんだ、俺もレプリカだって。

 

 そして、

 

 あの人はレプリカを嫌っている。

 

 

 

 

 研究所の外に出たところで、アッシュはイオンさまに言われて俺たちを助けに来てくれたのだと聞いた。どさくさでまた離れてしまったけど、心配させたと思うと少し胸が痛い。

 

 そのあとアッシュは、俺達に渡すものがあるから宿屋まで来いと言い残して先に行ってしまった。

 

 ここで渡してくれればいいのに、と思いつつも、とりあえずアッシュに話を聞かないことにはどうしようもなさそうなので、ゆっくり宿へ向かうことにする。

 

 

 大佐と俺は、みんなの少し後ろを歩いていた。

 

「それにしても……」

 

 ちょっと横目で大佐の様子を窺いつつ、俺は首をかしげる。

 

「どこでバレたんでしょうねぇ。俺あの人がいるときはヘマやってないですよ。多分」

 

 断言できないあたりが哀しいところだが、おそらくフォミクリーと繋がるような言動はとらなかったと思う。

 それに大佐は少し考えるそぶりを見せたあと、眉根を寄せた。

 

「最初から、ですかね。あの調子だと」

 

 俺達と顔をあわせるより前に知っていたんだろうという大佐に、おもわず目を丸くする。

 

「えぇ、なんで」

 

「貴方は一度、表でやらかしているでしょう」

 

 ため息混じりの言葉と、ついでにここ最近の考え事と繋がることを指摘されてぐっと詰まる。

 

 耳の痛い限りだ。目に見えて肩を落とした俺に、ジェイドさんがまたひとつ、でもさっきよりは幾分か柔らかい溜め息を吐いた。

 

「あのとき、すぐに緘口令は敷きましたが、少しでも人の目に触れた以上 情報は洩れるものです」

 

 はい、と力なく返事を零す。

 

「洩らした本人は何も分からなくとも、入るところに入れば気付かれるでしょう。この場合は、グランツ謡将ですか」

 

 彼は元々有機レプリカの存在を知っていた。

 おそらくどこかであの時の話を聞いて、リックがレプリカだと検討を付けたのだろうと大佐は言う。そしてそれは大当たりだったわけだ。

 

「普通の兵士のままだったならまだしも、私の直属部下ですから。一応調べてみたらオマケがついてきたってところでしょうね」

 

「オマケですか」

 

 まあ俺は完全同位体というわけでもなく、ただのレプリカに過ぎないから、情報としてあってもどうこうするレベルのものじゃなかったのだろう。

 

 そしてヴァン謡将がレプリカを必要としていながら嫌悪していることに気が付いてから、ぼんやりと頭の中をめぐっている疑問があった。

 

 イオンさま。

 

 ヴァン謡将はイオンさまのことも同じように“映さなかった”。

 彼は普通の人のはずなのに。

 

 レプリカだっていう以外に、ヴァン謡将の琴線に触れるようなことがあったのかな。

 しかし特別思い当たる節もなく、俺はそのことを再び疑問として頭の奥に押しやった。

 

 

 

 

「リック、おまえはいいのか?」

 

「え?」

 

 途中、歩調を緩めて俺の脇に並んだガイが、わりかし真剣な顔でそう言ったのをぽかんと見返す。

 とりあえず今のが、夕飯のメニューがあげだし豆腐に決まったけど、に続く言葉でないことは分かるが。第一俺トウフ平気だし。

 

 こちらが理解できてない様子を察したガイはすぐに言いなおしてくれる。

 

「俺を信用してもいいのかってことだよ」

 

「あ、ああ」

 

 さっきガイがヴァン謡将の回し者かどうかで軽く揉めたことを言っているらしい。

 

 あのときも言っていたように大佐は立場上一応疑うけど、これまで一緒に旅をしてきたんだから、ちゃんとガイの事は分かってるはずだ。

 

「だから大丈夫だって本気じゃないし! 儀礼的にって言ってただろ、ジェイドさん」

 

「は?」

 

 そう軽い調子で笑って返したら、今度はガイが呆気にとられていた。

 そして呆れたように溜息をつかれる。

 

「ジェイドがどうじゃなくて、お前に聞いてるんだよ。あのとき何も言わなかったからどうなのかと思って、一応な」

 

 なるほど、と納得したあと、顎に手を当ててちょっと考えた。

 

「ガイが今ここで剣抜いて『死ねー!』って切り掛ってきたら怖い」

 

「そうだな、それはお前じゃなくても怖いと思うぞ。つか、そんなことしないしな……」

 

 がくりと肩を落として額を押さえたガイを見て、眉間に皺をよせながら頭をかいた。

 

「なら怖くないし、ガイは優しいから平気だ」

 

 なんてったってようやく見つけた、お母さんと呼べる男だ。

 

「なんか答えになってないと思うが……ま、いいか」

 

 結局俺は彼が望んだような返答を出来なかったようだが、そう言って苦笑したガイはいつものガイだったので、とりあえず良かったなぁと安堵の息をついた。

 

 

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